(20)
アイリからすれば当たり前の反応に対し、
「え!? いや、あのですね……ッ!」
ユナは動揺してしまい、頭の中で上手く例えられる表現が思いつかないらしく、しどろもどろの状態になっていた。
そんなユナの返事にアイリは「うん。うん」と頷いて、なんとか利用しようと頑張っているが、意味が分からないらしく、頭の上には?マークが浮かび続けていた。
――ユナの奴、『ACF』って発言を言いそうで困ってるんだよな、これ……。
ユナの様子から、その単語を出さないように必死に言葉を選んでいることが分かった裕也は、
「偶然、オレがアイリの帰ってくる時間を言い当てたから動揺してるんだよ。ただ、それだけのことさ」
と、口を挟む。
アイリはその言葉だけでよく分かったらしく、「あー」と声を漏らして納得。
「あっ……」とユナもまたそんな簡単な言葉で良いのか、と今頃になって気付き、若干シュンと落ち込んでしまう。
「ボクが帰ってくる時間を言い当てるまでの経緯は何なの?」
ただ、それだけではそれまでの流れが分からなかったらしく、アイリが裕也へと尋ねてきたため、裕也からベッドから降りる。そして、テーブルの上に置いてある日記を手に取り、それをアイリへと見せた。
「この件に関してだよ」
「あっ! 何か見つかったの!?」
「いや、見つかったと言えば見つかったし、見つからなかったと言えば見つからなかったという状態かな?」
「……それこそ意味が分からないんだけど……」
「だから、それを伝えるために念話しようとしたユナをオレが止めたわけだよ。『そろそろ帰ってきそうな気がするから念話しなくていい』ってな」
「それでユーヤお兄ちゃんが言う通り、ボクが帰ってきたわけね。あそこまで驚くようなことでもないけど、驚いた理由が分かったよ!」
「ま、それだけのことさ。てか、アイリの関心はもうこっちなんだろ?」
そう言って、再び日記をちらつかせる裕也。
アイリはその発言に、「うん!」とあっさりと頷く。
「当たり前でしょ? 発言の意味が分からないし、何よりも一番気になってる物で気付いたことだよ? 気にならないはずがないよ! ユーヤお兄ちゃんがボクの帰ってくるタイミングを言い当てたとか、実際どうでもいいんだよ!」
「分かったから落ち着けよ。そのために帰って来るのを待ってたんだから」
「はーい!」
アイリは元気良く返事をすると、ダッシュで自分の使うベッドに座った。
それに促されるように裕也は自分の使っているベッドへ、ユナは再びイスに座る。
「じゃあ、説明はお願いしますね。私は引き続き、日記を読みますから」
そう言って、アイリが帰ってきた流れでまた閉じてしまった日記を開き、先ほど読んでいたページを探し始める。
「了解、っと。そういうわけでアイリ、ユナは気にしなくていいから、オレの話を聞いてくれ。その後にアイリの話も聞くから」
「え?」
「アイリの方も収穫があったから戻ってきたんだろ?」
裕也の発言に目を丸くしながら、アイリはちょっとだけ困ったように笑い、
「ユーヤお兄ちゃんの言う通り、見つかったら帰ってきたんだけど、まさか当てられるとは思っても見なかったよ。さすがだね、ユーヤお兄ちゃん。なんか勘が余計に鋭くなってない?」
と、素直に収穫があったことを認めた。
「そんなことはないと思うけどなー。まぁ、いいや。とりあえず、オレたちの方で気付いたことから話すな」
裕也は先ほどユナに話したことをそのままアイリに伝えた。
アイリは裕也の気付いたことを全部黙って聞いた後、
「なるほどねー。日記自体がきっかけという考えはボクにもなかったかも。だから、襲われたり、こんなにも進展するスピードが速いのかなー」
と、ユナと同じように納得した様子で、「うんうん」と首を縦に振る。
「まー、そういうことでオレの気付いたことは終わりだな」
「オッケー、分かった! あ、でも、じゃあなんでユナお姉ちゃんはまだ日記を読んでるの?」
裕也の話には納得がいったものの、ユナの行動の意味が分からないらしく、裕也に尋ねるも、
「念のためですよ」
その質問に答えたのはユナだった。
「確かに裕也くんの考えは外れてないと思います。五冊のうち四冊は私たちの知りたい内容が書かれていませんでしたから。だからと言って、最後まで読まずにそう判断するのは早計ですから、一応流し読み程度で読んでるんです」
「だからかー! ユナお姉ちゃんの言う通り、最後まで読まなくていいってわけじゃないからね! さすがはユナお姉ちゃん、よく考えてるね!」
「そんなことないですよ。普通です、普通!」
「でも、ボクだったら読んでないと思うよ? たぶん、面倒だと思って。ユーヤお兄ちゃんは?」
アイリは自分のとりそうな行動に対して、苦笑いを溢しながらそう言った後、そう尋ねられた裕也は、
「間違いなく、オレも読まないだろうなー」
と、アイリと同じ行動を取ることを認めた。
それはアイリと同じく面倒だからだ。そのことが分かっている以上、日記を読むよりも他の行動を取った方が時間を上手く使えると思っているからである。
「だよね、知ってた」
アイリは裕也が自分と同じ行動を取りそうだと分かっていたらしく、笑顔で答える。
「私も分かってました」
ユナもアイリと同じように答えるも、こちらは少しだけ呆れている様子だった。そして、『だから、私が読んでるんですけどね』と口には出さなかったものの、そう言われているようにさえ裕也は感じてしまうのだった。
そんな二人の反応に、この流れは面倒な流れになると確信した裕也は、
「オレの返事の予想なんてしなくていいから、アイリが分かったことを教えてくれよ」
と、次の話題へ話を切り替えることを促すことにした。