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 訓練所から与えられた部屋へと戻った裕也とユナは向かい合うようにイスに座り、アベルの日記を読み、証拠となるものを探していた。しかし、その内容は未だに見つかっていなかった。そして、その日記に書いてある内容は、日記として当たり前である日々起きたことの思ったこと、不満などのアベル自身の思いだけだった。


「はぁ……見つかんないな」


 裕也は自分が読んでいた日記をパタンと閉じた。休憩を挟むための閉じるではなく、読み終わってしまったため閉じたのである。


「とうとう読み終わっちゃいましたか……」


 最後の一冊を読んでいるユナが残念そうにため息を一つ溢し、読み終わったページを一冊ペラッと捲る。


「ああ。てか、いつ頃に出会ったか分からないのに、日記から探し出すのは無謀だったのかもな」

「そうなのかもしれませんね」

「怠すぎワロタ」

「……はい?」


 その言葉を漏らした瞬間、キッとユナに睨まれる裕也。


「すみませんでした」


 そのため、裕也は即座に謝罪するも、やはり怠そうに息は吐いた。

 それは、ユナの怒りが納まっているようで、実はまだ全然納まっていないように感じて、少しだけ息苦しく感じてしまっているからだった。一応、あの流れで注意は終わっているため、尾を引かせないようにしてくれているものの、ちょっとした気に入らない発言をすれば、こうやって無意識に睨んでくるようになっている。それをユナ自身は気付いていないからこそ、裕也は怒りの引き金を引かないように気を付けているのだが、裕也自身ちょっとしたギャグで言ったつもりが、引いてしまいそうになるから、どんどん息苦しくなっているのだった。


「分かればいいんですよ」

「おう、悪かった」

「はい」


 そして、二人の間には無言が訪れる。

 しかし、裕也はすでに読める本がないため、手持ち無沙汰になってしまい、何をしようかと考えるも、魔力の放出スピードを上げる訓練をすることしか思いつかなかった。が、それをするのもやはり怠く感じてしまい、しょうがないため、ベッドに移動して、寝転がる。

 その裕也の姿を目で追うユナも、別にそのことに対して文句がないためか、すぐに本へと視線を移した。


「横になっても怒らないんだなー」


 裕也はユナが過剰に反応する可能性は分かっていたが、なぜかそう聞いてしまっていた。


「別に横になるぐらいで怒りませんよ」

「そっか」

「そもそも、もう怒ってません」

「ふーん」

「信じてない言い方ですね」

「たまに下手な発言すると睨んでくるからな」

「そんなつもりはまったくないんですけどね……」

「じゃあ、気にしなくていいんだな?」

「……はい」

「分かった、気にしない」

「いえ、やっぱり気にしてください。私の機嫌は心底悪いので」

「おいおい。……機嫌が悪いのは分かったけど、どうやったら機嫌は直るんだ?」


 そこでユナは無言になってしまう。

 顔だけをユナの方に裕也が向けると、ユナは本から視線を外し、『機嫌が直る方法』を考えているらしく、天井の方を見るようにして、そのことについて考えていた。


「分かりません」


 しかし、結果として自分自身でも分からないらしく、吐き捨てるような感じで裕也の質問を答えた。

 その様子に裕也はちょっとだけ苦笑いを溢した後、ため息を吐くことしか出来なかった。


「まぁ、いいや。それよりも何か良い証拠っぽいの見つかったか?」


 とりあえず、ユナの機嫌が直る解決策は全く見つからないと分かった裕也は、その話を辞めることにして、そう尋ねると、あっさりと首を横に振られてしまう。


「最新のこの日記を読んでも、全然見つからないんですよね」

「マジかよ」

「はい。まるで意図的に書いてないような感じですね。裕也くんが読んでた日記も似たような感じですよね?」

「まぁな。本当にただの日記って感じだった」

「これの何が証拠なんでしょうね?」


 その発言が自分に対しての嫌味のように聞こえた裕也は、またため息を吐いた。

 日記がある場所を誰かも分からない人に教えてもらったのも自分であり、そのことも問い詰められれば、悪いのは自分しかいないことを分かっているからだった。しかし、同時にこの日記のおかげで事態はいろいろと進展したのも間違いのない事実。だからこそ、この日記は証拠として十分活用出来ているのだが、内容ではなくきっかけの役割が強いような感じになっていた


「ん?」


 そう思った時、裕也は改めてこの日記の証拠としての役割に気付くことが出来たような気がした。


「はい?」


 裕也の言葉に反応するように、ユナは日記から目を離し、裕也を不思議そうに見つめる。

 だからこそ、予想だがその日記の役割について話すことにした。


「ユナ、もしかしたらその日記の内容に証拠なんて書いてなかったのかもしれない」

「……意味が分からないんですけど」

「だから、その日記の内容が証拠なんじゃなくて、存在そのものがきっかけなんじゃないか?」

「きっかけ? この日記を手に入れてから、確かにいろいろと分かりましたけど……」

「だろ? それにその日記のことを教えくれた人は『本を探せ』とは言ったけど、『本を読め』なんて誰も言ってないだろ?」

「そうなんですか? 私は聞いてないので分かりませんけど……」

「……それもそうだな」


 ここで同意してくれると思っていた裕也はちょっとだけガクッと項垂れながらも、


「とにかく! その本はきっかけとして活用するだけの存在で、読む必要なんてないんだよ! 日記=重要なことが書かれてあるって解釈そのものが間違いだったんだ!」


 と、少しだけ熱弁するようにユナにそう言い切った。

 裕也の発言にユナは「んー」と唸りながら、ちょっとだけ悩んだ末に、


「言われてみればそうなのかもしれませんね。思い込みのせいで私たちも犯人も、日記の中身に重要なことが書かれてある。そう勘違いするのは自然の理。だからこそ、私たちは襲われて、前々国王の存在について知ることも出来ましたし……」


 そう言った後、日記をパタンと閉じる。そして、機嫌が直ったかのように笑顔を浮かべ、


「さすがですね、裕也くん。私とアイリちゃんだけでは気付けなかったかもしれません。お手柄ですよ!」


 と、裕也が気付いたことを素直に褒めてくれた。

 裕也からすれば褒められたことよりも、ユナの機嫌が直った方が重要だったため、心の中でガッツポーズを作って、そのことを素直に喜んだ。


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