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 ユナの説明を聞いた二人は「へー」と興味深そうにその話を聞き、その話を聞き終わると、


『いやー、異世界って本当にあるんだねー。可能性としてはあるのは分かってたけど、本当に実在するなんて……』


 アイリはジーッと裕也を物珍しい物を見るような視線を送る。

 さすがにその視線に気が付いた裕也は念話に集中していた目を開け、その視線に少しだけ引き気味になりながら、


 ――そんなに見るなよ。物珍しくて見たい気持ちは分からなくもないけど……。


 戸惑った様子でそう言うと、


『あはは、ごめんね! でも異世界の人でもボクたちと何にも変わらないんだね! あ、ボクたちはエルフだから耳が尖ってたりするけど、人間の街に住んでる人と比べてだよ!?』


 少しだけ慌てた様子でアイリは言い訳を言い始めた。

 裕也はそんな苦し紛れの言い訳を聞きながら、頭をガシガシと掻き、


 ――てか、元々はこっちの世界に生まれる人間だったんだから、似てて当たり前なんじゃないか?


 と、改めてそのことを突っ込んだ。


『あ、そうだった。じゃあ、あっちの人と違いがなかったかどうかを確認してもいい?』

 ――確認も何も……オレが魔力を持ってるか持ってないか、それぐらいの差しかなかったと思うけど……。

『そんなもん? 身体能力とかの違いは?』


 その質問をされて、裕也は一瞬心臓が跳ね上がるような感覚を覚えてしまった。

 なぜなら身体能力の差は『ACF』のせいで裕也はクラスメートに比べると、上であることは間違いなかったからだ。だからこそ、その違いは明確に出ているせいで、アイリのいう比較が上手く出来なかったのである。

 同時にそれを心の中で考えてしまえば、三人の自分の心が念話として伝わってしまうため、


 ――いや、別にそんな差はなかったと思うけど……。


 その考えを頭の中で言う前にそう言って、素早くこの話を終わらせることしか出来なかったのだ。

 ただ、ここで裕也は違う問題に直面することも分かっていた。

 それは、反射的にそれを答えてしまったせいで、逆に何かを隠していることを悟られる可能性があることだった。普通、何かと何かを比べる時、頭の中でそれを思い浮かべて、比較する時間が数秒あるのが当たり前なのだ。今回、その時間を省いて即答してしまったため、逆に自分自身でも分かってしまうぐらい怪しい解答の仕方だったのである。

 それが分かった上でドキドキしながら裕也はアイリの反応を待っていると、


『ふーん、そんなに変わらないんだー。じゃあ、異世界って感じがしないねー』


 と、至って普通でつまらなさそうな返事が返ってくるのだった。

 その返事に対して、裕也はホッとした気持ちとしつつも、そのつまらなさそうな返事に少しだけ残念な気持ちを持ちながら、


 ――こっちの世界の方が面白いのは間違いないよ。魔法という便利な物があるから。


 そう言って、自分の気持ちを誤魔化すことにした。


 ――まぁ、この話は終わりにしようぜ。全部解決した後に時間があったら、ゆっくり話してやるから。

『あー、そう言って何も教えてくれないパターンだ……』

 ――何を言ってるんだよ。本当に時間がないだろ。

『それもそうだけど……ねぇー、レオナも何か言ってあげてよー!』


 流れ上、絶対に話してくれないことが分かっているアイリがレオナに助けを求めるも、


『ユーヤくんが言ってることが本当なんだから仕方ないですよ。少しは我慢してくださいよ、王女様なんですから』


 と、逆にレオナに注意されてしまう。


『あー、レオナまでそんなこと言うんだー』


 レオナだけは自分の味方をしてくれると思っていたらしく、アイリはレオナに対して不満を漏らすが、


『それだけ時間がないってことですよ。アベルさんの日記に全部の証拠が書いてあればいいんですが、そんな訳がないんですから』


 さらに呆れた口調でアイリを宥め始める。

 さすがのアイリもそのことを頭の中で分かっていても、口で言われると反論の使用がないらしく、「うー」と唸り替えを上げつつも、


『分かったよー! そのかわり、絶対にこの問題が解決したら聞くんだからね! 分かった!?』


 しょうがなく納得し、続きを絶対に聞くと言わんばかりに裕也にそう圧力プレッシャーをかけた。


 ――はいはい、分かったよ。全部終わったら、何でも答えてやるから安心しろよ。


 問題が解決した後は必然とこのエルフの街から離れることが分かっているため、逃げようと思えば、いくらでも逃げることが出来ると踏んで、アイリの圧力に耐え、平然と答える裕也。

 その返事に対し、「はぁ」とユナのため息が聞こえたが、自分の返事に対しての呆れだと分かった裕也はそのため息について追求することはなかった。


『絶対ぜーったい約束だからね!』


 裕也の返事では納得がいかないらしく、さらにそう言って裕也に迫るも、


『はいはい、王女様。その話は後に回しましょうねー』


 と、このままでは駄目だと思ったのか、レオナはそう言って流し、


『そんなことよりも犯人の目星は付いたんですか? 話の流れから推測すると、そんな感じの流れみたいでしたが……』


 問題である犯人のことについて、裕也たちに質問することでこの話を強制的に終わらせるという措置を取った。

 その質問がいきなりであったため、裕也たちは一時沈黙した後、


『一応、犯人は分かりました』


 代表してユナが少しだけ戸惑った口調で答えた。


『レオナ、でもね……これはレオナにも教えられないの。レオナが危険な目に合っちゃうかもしれないから』


 さらにアイリがレオナに犯人の名を伝えられないことをさらに付け加えた。

 ユナとアイリの反応からレオナは犯人が誰なのか考え始めたのか、「んー」と少しだけ唸った後、


『お二人にそう言われるのでしたら、犯人の名前は聞きません。けど、協力出来ることがあったら言ってくださいね?』


 と、あっさりと犯人の名前を聞くことを諦める。

 その様子から裕也は、レオナは犯人が誰なのか分かったような気がしたが、答え合わせすることは出来なかった。

 それは、ユナとアイリが言い淀んでまで犯人の名前を言わなかった二人の気持ちを無駄にし、レオナを危ない目に合わせる可能性が高くなることが分かっていたからだ。


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