(14)
レオナの言葉に反応するように、アイリは身体をビクッと震わせる。そのことは分かっていても、自分自身ではあまり納得がいっていないそんな反応だった。
『王女様は最初から危険って分かってくれてたじゃないですか。なのに、私が無理矢理変わるって言ったんですから。だから、気にしなくていいんです』
『でも……』
『それにこうも言ってくれたじゃないですか。私を守ってくれるって。今回のことだって、ちゃんと守ってくれました。それだけで十分ですよ』
『うん! レオナ、いつもありがとうね!』
『どういたしましてです』
裕也は二人が自然と仲直りしてくれたことに正直、ホッとしていた。
二人の関係はいつでも崩れやすいような状態だと心のどこかで感じてしまっていたからである。が、それとは逆で信頼関係の方が強いからこそ、こうやってすぐに仲直りが出来る。その関係がちょっとだけ羨ましいとさえ思えてしまうほどだった。
『その約束はちゃんと守ってあげてくださいね』
ユナも同じように感じたのか、アイリにそう言うと、
『うん! 絶対に守るよ! 大丈夫!』
そのことだけは迷う様子すらなく言い切るアイリ。
その声にはしっかりとした決意が含まれており、その言葉を信頼するには十分に値する言葉だった。
――話の流れを切るし、アイリには悪いこと尋ねちゃうけど、なんで両親は暗殺されたんだ?
そのことについて聞かないといけないような気がした裕也は、場の空気を再び汚してしまうことは分かっていても、そのことについて尋ねると、
『んー、ボクのお父さんたちの前の国王の支持者たちからの報復じゃないかな? ただ、ボクに変わって――あ、レオナに変わってから警備が強くなったから、狙われることも少なくなったんだけど……』
今までのように暗くなることはなく、自分の考えをはっきりと述べるアイリ。まるで聞かれることを分かっていたかのようなスラスラとした口調だった。
が、そこで裕也はあることに気付く。
――待て、今回もその残党もとい一族の誰かの仕業じゃないのか?
裕也がそう言うと、アイリとレオナは『え?』と不思議そうな声を漏らす。そして、今までその考えが一切なかったのか、しばらく経った後『あー!』と二人して合点がいったような反応を示した。
『王女様! 今までそのことすっかり忘れてました!』
レオナが慌てた口調でアイリに言うと、
『ボ、ボクもだよ! そんな考え、全然なかった! ううん! 今まで何もなかったから思いつかなかなかったよ!』
アイリもまたレオナに同調し、二人して納得し始める。
そんな二人の反応に裕也とユナはため息を溢すことしか出来なかった。
なぜなら、アイリたちに恨みがある以上、狙われるだけの確かな理由があるからだった。
――一応、その元国王の前の国王たちについて聞いておいてもいいか? どんな性格だったか。
王様が変わる=それだけ非道な行いをしたということはすぐに予想が付いたが、それでもアイリたちの口から聞いておきたかったため、あえて裕也はそのことについてアイリに尋ねた。
すると、アイリは『んー』と困ったように唸り始める。
その反応はまるでそのことについて分からない。それがすぐに分かるような反応だった。
――知らないのか?
アイリに尋ねた言葉は、
『知らないと思いますよ?』
と、レオナに返されてしまう。そして、
『その頃の王女様はもっと幼かったですし、しかも私とすぐに入れ替わったので、そのことについて調べる手立てもなかったので知らないと思います』
こうも言葉を続ける。
レオナと王女の立場を入れ替わっていたタイミングのことを失念していた裕也は、
――あー、悪い。忘れてた。
すぐに謝罪の言葉を伝え、
――レオナさんなら何か知ってる?
年齢的にも王女となっていた立場からも何か知っていないか、尋ねてみることにした。
『ある程度は、ですけどね……』
――ある程度でもいいよ。
『よくある民のためではなく、自分のために至福を肥やしたらしいですよ? ちなみに私もその頃は生まれてもないですし、実際体験したわけでもないですが……』
――そっちか、やっぱり。
『はい。だから、元国王様をリーダーにクーデターを起こして、国王の座を乗っ取ったって話です。流れ上――』
レオナはそこで言葉詰まってしまう。
その反応から導き出される答えは一つしかないことは裕也もすぐに分かったが、そこから先が一番大事なため、
――アイリのお父さんが殺したんだな、その国王を……。
あえて口に出した。
『ユーヤくん!』
そのことを反論するようにユナが裕也の名前を呼ぶも、
『大丈夫だよ、ユナお姉ちゃん。ううん、お父さんが暗殺された以上、そのことがあるかもって考えてたから。で、レオナどうなの?』
アイリも昔からその想像はしていたらしく、改めてその真実を受け止めようとレオナに尋ねる。
そんなアイリの覚悟を打解け止めてか、レオナは重苦しい雰囲気のまま口を開く。
『みたいです。だから、暗殺されるだけの理由はあるのかもしれません』
『そっかー。きっとお父さんも辛かったんだろうなー。みんなのためにそういう決断しないといけないのも』
『あ、でも! 聞いた話によりますと、子供は殺さなかったみたいですよ? 子供には罪がない。そう言っていたと聞きました!』
『あ、そうなんだ。それじゃあ、お父さんとお母さんを殺して、ボクが殺されない理由が分かる気がするかも……』
『自分が助けられたから、子供である王女様を殺さない。そういう理由ですか?』
『たぶんだけどね……』
『……だったら、なんで今頃になって』
レオナはそんな考えの持ち主が今頃になって、王女様を殺そうと動き始めたのか、その理由が分からないらしく、困ったようにため息を吐く。
それは念話している全員が同じ気持ちであり、その答えを思いつくことはなかった。
――その答えを持ってるのが、アベルの日記なのかもな。とにかく、これ以上分からないことを考えても仕方ないから、これで終わりにしとくか。
可能性としてその日記が持っている事を期待し、これ以上このことについて考えることは不毛として三人に言うと、
『ですね』
『うん、そうだよね』
『はい』
三人も裕也の考えに同調し、この件については一時的に終わらせることとなった。