(11)
裕也とユナの驚きの反応にアイリは、
『そんなに驚かなくてもいいんじゃない?』
念話の方でこの状況が面白いと言わんばかりにクスクスと笑いを溢しながら、二人に注意を促す。
『驚くに決まってるじゃないですか!? 指定された人物じゃない人が念話に介入してきたんですよ!?』
その発言を聞いて、裕也は『アイリが会話に入っていたことに驚いた』という単純な理由からではなく、『念話の仕組み上、指定した人以外念話に入って来られないはずなのに、アイリがそれに介入してきたこと』にユナが驚いたことに気付く。
『ボクの正体に気が付いたのに、何を言ってるんだか……。でも、説明しようかな? 昨日の原理と同じだよ? 単純に念話の線に無理矢理精霊を使って割り込ませてるの。結構、無理させてるから、そろそろボクも指定して欲しいんだけどなー』
アイリは平然とした物言いでそう言いながら精霊のことを考えているらしく、ちょっとだけ困ったように笑いを溢す。
さすがに念話していたことがバレた時点で隠す必要がないと判断したのか、
『分かりました。じゃあ、アイリちゃんもメンバーに加えますね』
ユナも疲れたような口調でそう言い終わると同時に、
『あっ! もう一人いい?』
と、アイリが慌ててそう尋ねた。
――もう一人?
裕也はその人物が誰なのか思いついていたが、反射的にそう言ってしまう。
『うん! 二人とも分かってるよね?』
裕也の質問にアイリは自分で判断するようにそう言われてしまう。
分かってはいるものの、その人物でいいのか裕也は少しの不安を覚えてしまい、
――あの人だよな?
と、自分が思っている人物で当たっているのか、確認するために裕也はユナにも尋ねてみることにした。
『あの人しかいないじゃないですか』
――だよな。
『間違ってたら間違ってたでいいんですから、とりあえず繋ぎますね』
――分かった。
ユナすらも今までの会話からその人物で間違いない、とでも言いたそうな口調で、裕也に冷たく返す。
心境的にそうなってしまうことが分からなくもない裕也は、その冷たい返しを無視することにした。
そして、その指定された人物にアイリも入れたのか、
『うん! ユナお姉ちゃんありがとう!』
念話のメンバーに本当に入れてもらえたことに本当に安心したのか、少しだけ嬉しそうに報告した。
『はい、もしもし繋がりましたよ、ユナさん』
同時にアイナが念話に参加した声が裕也の頭の中で響く。
『念話のメンバーに入ってくださりありがとうございます』
その参加に対して、ユナは一応礼儀正しく答えてみせる。が、それはどこか余所余所しいものがあり、少しだけ違和感を残す言い方になってしまっていた。
それを誤魔化すかのように、
『いらっしゃい、王女様』
と、アイリが元気よく答えたため、
――いらっしゃいです、王女様。
『いらっしゃい、王女様』
その流れにつられるように、裕也もアイナにそう言った。
『はい、来ちゃいました』
二人がいることは念話した時点で分かっているものの、アイナは嬉しそうにそう答えてくれる。
『王女様、驚かないで聞いてね? ううん、驚いても良いけど、口を押えた方がいいかも……』
が、これ以上時間を伸ばす話題もないため、アイリがすぐに例の問題を切り出す。いや、当の本人の一人であるため、アイリ以外が口に出すことは戸惑って、口に出せないことが現実だった。
『はい? 分かりました』
アイリの口調がヤケに真剣だったためか、疑問が残った口調のまま、その指示に素直に従うアイナ。
裕也は本当にアイナが口元を押さえている様子が頭の中で容易に想像出来た。
アイリもそれが想像出来たのだろうか、
『じゃあ、言うよ? いい?』
と、もう一度だけ確認の言葉をかけると、
『はい、大丈夫ですよ?』
アイナは何かを察したのか、不思議よりも不安な声で答える。
『実はね……ボクの正体バレちゃった!』
『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?』
それは再び頭の中で聞こえる絶叫。
裕也はそのことに対しての注意し忘れてしまい、前回同様倒れはしなかったものの、身体がふらついてしまう。
――ちょ、王女様……。
そして、裕也はそう呟くのが精一杯だった。
『ユーヤさん、すみません! で、でも内容が……ッ! アイリ様、いったいどういうことですか!? いったい、何で、バレるような流れになったんですか!?』
アイナは裕也に謝りはしたが、そんなことよりも自分たちの正体がバレてしまったことの方が一大事らしく、矢継ぎ早にアイリへ尋ねる。
『レオナ、ちょっとだけ待ってね。ユーヤお兄ちゃん、今後念話での音量の下げ方は大事だと思うから、それを先に教えるね』
『王女様ッ! そんな――』
『いいから待ってて』
『……はい』
アイリが少しだけ言葉を強めて言うと、アイナ=レオナは命令だと察したのか、シュンとした声色で素直に頷く。
――いや、それは後でいいから。先にバレた件から教えてや……教えてあげてください。
さすがに念話での音量の下げ方はいつでも教えてもらうことが出来るため、バレた件についてのことをレオナに教えるように促す。ただ、途中でアイリが王女様であると分かった以上、いつも通りの口調ではマズいと思い、敬語で言い直して。
するとアイリからすれば、その敬語が気に入らなかったのか、
『ユーヤお兄ちゃん? 敬語はやめてね? いつも通りでいいから。じゃないと王女様権限で怒るよ?』
と、なぜか脅迫されてしまう。
さすがに王女様の権威を利用されて怒られる=何をされるのか分からなかった裕也は、「はい」と答えることしか出来なかった。
『うん! いつも通りでいいんだよ! レオナは待ってくれるって言うから、先に教えるね』
――強制的に待たせ――。
『まずは頭の中で音量のスイッチを想像するの。それで音量を上げたり、下げたりするだけでオッケーだよ。だからミュートにすることも可能。簡単でしょ?』
――……ありがとう。そして、ごめんなさい、王女さ――レオナさん?
ツッコミをされて無視されてしまった裕也は、アイリが教えてくれたことにお礼を言いながら、レオナに対して謝罪した。
『いえ、大丈夫です。名前も合ってますよ。それに敬語は使わなくて、もういいです。正体がバレてしまったので。気にかけてくださってありがとうございます、ユーヤさん』
と、レオナは悲しみに濡れた声で、お礼とこれからの自分の扱いについて裕也に伝えた。