(8)
アイリがそこまで喜んでくれると思っていなかったため、
「あ、ありがとう」
と、裕也は少しだけ戸惑った様子でお礼を述べる。
しかし、アイリは興奮が納まらないらしく、
「だって精霊の使役をマスターしたようなものなんだよ!? 興奮しないなんてありえないよ!」
そう言って、そのまま裕也に飛びつく。
今度はなんとなくそんな感じがしていた裕也はしっかりとアイリを受け止めることに成功し、なんとなくノリでアイリの頭を撫でる。
「これも全部アイリのおかげだな。最初、オレが無理した状態でアイリが無理矢理解放してくれたおかげだ。少なくとも自分の力じゃないな」
「無茶はしたけど、それも全部ユーヤお兄ちゃんの才能じゃないかな? 手伝いはしたけど、やっぱりこれも才能が重要になってくるから」
「そうなんだろうな、やっぱり……」
最初から才能の塊と呼ばれる環境に居た裕也にとって、アイリの言葉にピンッ! と来るものがなく、反応に困っていると、
「やっぱり才能の塊に近い人は反応が違うねー!」
なんてアイリが少しだけからかうようにそう言ってきた。
「そういうわけじゃないって。実感が湧かないだけだよ。それ言ったら、アイリだって才能がある方だろ?」
「んー、たぶんね。王女様よりも使役能力が高いし、今回のことで使役能力が高いと死んだ人の精霊にも干渉出来るって分かったし……。まぁ、デメリットは高いけど……。けど、これが普通だから他の人に言われても――」
「ほらな。だから、オレも実感が湧いて来ないんだよ」
「それもそっか」
裕也の言いたいことを理解したらしく、アイリは裕也から離れて、フムフムと首を縦に振って頷いてみせる。
納得してくれたに裕也は少しだけ安堵して、ため息を溢した。
「そんなことよりももっと重要なことがあるだろ?」
そして、この話題から逃げられるようにアイリにそう言うと、
「大事なこと? 何?」
と、不思議そうに首を傾げてみせる。
「おいおい。トリスの使い方だよ。矢が出来ないことには、トリスで『矢を放つ』ってことが出来ないだろ?」
そんな反応をされると思っていなかった裕也は呆れた口調でそう言うと、アイリは左手の手の平を右手で叩いて、よくやる納得した行為を裕也に見せる。
「そうだよね! テンションあがりすぎて、すっかり忘れてた! じゃあ、トリスを出して、大きくして!」
裕也はアイリの指示に従い、ポケットからトリスを取り出す。そして、放出に成功したからか、あっさりとした魔力移動でトリスを巨大化してみせる。
予想以上にあっさりと巨大化させることが出来たことに少しだけ裕也は少しだけ驚くも、アイリはそのことが分かっていたらしく、特に驚いた反応も見せず、
「じゃあ、それを構えて。構え方は適当で大丈夫だよ?」
次の指示を出す。
裕也はその指示に従い、手に持っていた矢を形っている紙を地面に落とし、右手に精霊が作った矢を持つ。そしてトリスを、弓道をしている人がよくやる構えを行い、アイリに向かって誤射しないように、身体をずらす。
「これで?」
「ちょっと待っててね!」
アイリはそのまま小走りで裕也から離れる。ある程度まで離れるとアイリは天井に手を伸ばすようにして指一本を立てて、その真上に二重の輪が現れる。
――的?
二重の輪が出来た時点で裕也はそう考えていると、
「ユーヤお兄ちゃんは分かってると思うけど、この輪っかの中央を狙うようにして打ち抜いてみて! それだけでいいはずだからー!」
自分の意図がちゃんと伝わっていることを予想していたらしく、大きな声でそう裕也に呼びかける。
「え? それだけでいいのかー!」
最初の説明の時、『必中』で狙った箇所を自然と狙撃してくることは聞いていたものの、本当にそれだけでいいのか不安になってしまい、再度そう尋ねると、
「うん! それだけで大丈夫だよ! だから、安心して狙ってー!」
再び大きな声でそう返されてしまう。
これ以上聞いても同じだと悟った裕也は魔力で造られた弦に矢をセットして、二重の輪の中心に当たるように角度を調整。視線でその二重の輪の中心に狙いを定めるようにして、睨み付ける。
本来であれば、角度すらつける必要がないのが『必中』という能力であるが、初めて射撃だからこそ、狙いが外れてしまうことが不安になってしまったため、あえて角度を付けたのである。
「じゃあ、撃つぞ!」
その矢が外れ、アイリに当たる可能性も考えてそう言うと、
「はーい!」
アイリは空いている手で手を振って、それに応える。
それを確認した裕也は狙いが外れないように息を整え、最後に大きく息を吸ってから、その標的に向かって放つ。
すると矢は裕也が予想した以上のスピードで進み、標的であるに二重の輪の中心を場シュン! と射抜いてみせる。
「マジかよ……」
それは本当に一瞬の出来事だったため、裕也は呆気に取られてしまい、そう呟くことしか出来なかった。
対してアイリの方がこうなることが最初から分かっていたため、
「うんうん。これなら問題はないね!」
と、満足そうな笑顔で頷いていた。