(6)
――しかし、どうするかな……。
目を閉じたものの、裕也はまずそう考えた。
体内での魔力移動は簡単に出来るようになったのだが、放出はまた少しだけ感覚が違うのは、昨日のアイリと一緒にやった時点で気が付いていからだ。しかし、感覚としては熱くなった身体を放出によって無理矢理熱を冷まさせるということは分かっていたため、それをどうやるかが問題だった。それを必死に考えた結果、『ACF』が上手く働いたのか、ある一つの考えが思い浮かぶ。
――直感に近いけど、やるだけやってみるか。
物は試し。
その言葉があるように裕也は浮かんだ考えをすぐに実行に移すことにした。
「んっ!」
気合を入れるようにして体内にある魔力を少しずつ全身に移動し始める。今までは魔力を身体の一部分にしか移動させることしかして来なかったため、少しばかりの不安が生まれてしまう。そのため、魔力の移動が少しばかり不安定になり、腕の一部に送る時よりも魔力の動きが緩慢になるのが裕也自身分かってしまう。
「自信を持っても大丈夫だよ。ううん、ユーヤお兄ちゃんなら出来るからさ」
そんな魔力の不安定さを見抜いたアイリがそう裕也に助言した。
どうやら魔力の感知をしていたらしく、そのせいで魔力が不安定になったことを見抜かれてしまったことに裕也は少しばかりに内心で笑ってしまった。
――助言しないんじゃなかったのかよ。
そう毒づきながらも、その助言でもっと自信を持っていいと分かった裕也はこの方法を疑うことを止めた。
それはアイリがこの方法に関して、否定する言葉を吐かなかったからだ。アイリがこの方法を全部見抜いているとは思ってはなかったが、自分がやりそうなことをいくつか予想している。そう思えたからこそ、否定の言葉を言われなかったことが裕也にとって嬉しかったのだ。
そう思った瞬間、魔力は先ほどまでの魔力の流れが滑らかになり、ゆっくりと全身に届き始めるのが、体温として分かり始める。
――っと、その前に……。
ここで裕也は自分のある箇所を見つける必要があった。
その場所とは魔力の源である場所――魔力袋(裕也が勝手に命名)した場所の位置の把握である。魔力関連の出来事はこの場所から全てが始まる以上、その場所を知っておかないといけないと思ったからだ。だからこそ、全身に魔力の行き渡せつつも、脳の方へ少しだけ大目に移動を重点に置いていたのは、『ACF』の活動をさらに活発にさせるためだった。ユナからは『ACF』の代償が魔力とは聞いていなかったが、なんとなくそうした方が活発になるのでないか、と思ったからだ。
それの考えが正解だったのか、それとも偶然なのかは裕也自身にも分からなかったが、その魔力袋と呼ばれる場所の位置の把握に成功する。
――胸の中心あたりにあるのか。つまり、ここを調整すれば……。
今度は見つけた魔力袋に意識を集中させ、さらに魔力を縛り出させるようにして、命令を送る。無意識で魔力を出すのと、意識して出させた場合とでは魔力の出し方が違うように感じたからだった。
その考えが正解だったように、裕也が行き届かせようとしていた魔力の流れがスムーズになっていき、今まで以上に全身が熱くなっていくのが分かり始める。
その時だった。
「ちょ、ちょっと! そんなに魔力を引き出してどうするの!? 放出しないとユーヤお兄ちゃんの身体が耐え切れなくなるよ!?」
少しばかり焦った声のアイリが裕也の耳に届く。
――ここまでは予定通り。あとは……。
そのアイリが言った言葉は裕也自身、始まる前から直感で分かっていたことだった。いや、やっている最中にそれが確信に変わっていた。なぜなら、先ほどから全身が熱くなるのと同時に謎の圧迫感があったからである。
しかし、それが狙いでもあった。
『ACF』は命の危険が関わるとさらに活発に働くような気がしたからである。感覚としては昨日体験しているため、他人の力を借りずに放出させるためには無理矢理な状況を作る必要があると思ったのだ。
――くそっ! どうやる!
昨日の体験と感覚として残っているため、『ACF』としての条件は満たしているため、その方法を見出す条件は満たしていた。だからこそ、ちゃんと働く自信があるものの、その場所を見つけることは出来ずに焦っていると、ガシッとアイリに手を掴まれる感触があった。
その瞬間、全身の魔力が今まで蓋をされていた毛穴という毛穴から最初は勢いよく、途中からゆっくりと抜けていく感覚を掴むことに成功する。
――これか!
魔力の放出と共に今まで蓋をされていた毛穴が開かせる感覚をも掴むことが出来た裕也は内心でガッツポーズをすると、
〈魔力の放出するとしても、無茶をしすぎだよ。とりあえずお疲れ様〉
と、契約時に聞いた声――精霊の声が頭の中に響いた。
――しょうがないさ。時間もなかったし、無理をする必要があったんだから。
だからこそ、精霊にそのことを教えるも精霊の返事が聞こえることはなかった。
それはアイリが裕也の身体の中に溜まっていた危ない量の魔力の放出を終え、アイリの手によって魔力の流れを無理矢理自分の身体へ循環させ始めたからである。
そのことが分かった裕也は、慌てて自分の魔力袋に命令し、魔力の引き出すことを停止させ、ゆっくりと目を開ける。
「サンキューな、アイリ。アイリのおかげでコツを掴むことが出来た」
そして無理をしすぎた反動からか、全身の怠惰感を感じながら、お礼を述べた。
アイリは裕也のお礼に対して、返事する様子すら見せなかった。それどころか、口をしっかりと閉ざした状態で、手をグイグイと引っ張り、身体を屈ませろと言うばかり。
身体を屈まる意味が分からない裕也は言われるがまま、身体を屈ませた瞬間――パァン!! と渇いた音が横に訓練場全体に響き渡る。
――え?
裕也はアイリに向けていた顔が強制的に真横に向けられ、左頬にジーンとした鈍い痛みもとい熱さが生まれていた。一瞬の内の動揺でビンタされたという認識は遅れてしまったものの、ビンタされるだけの理由自体は分かっていたため、それに対する文句を裕也は言うことが出来なかった。
改めてアイリを見ると、アイリは裕也を睨みつけながら、目にうっすらと涙を浮かばせていた。
「アイリ……」
「何、無茶なことしてるのッ!?」
「悪い……」
「あれ以上続けてたら、魔力が体内に溜まりすぎて……身体が破裂して死んじゃうところだったんだよ!?」
「ああ、そうだろうな」
「……ッ! 分かってたの……? 分かってて、あんな無茶したの!?」
「なんとなくだけどさ。身体の中に謎の圧迫感が生まれたし……」
「そこまで分かって……このバカッ!」
アイリはなぜかそのまま裕也に飛びつく。
その飛びつきに裕也は上手く対処することが出来ず、そのまま地面に押し倒される。
それが狙いだったらしく、アイリは裕也の胸をポカポカと遠慮しながらも強めにポカポカと叩き始める。
その表情を見る限り、アイリには罪悪感が生まれているような感じが裕也にはした。
裕也一人でやらせるという心を鬼にした結果、無謀な方法を取り、そのせいで命を落とすような行為をしたからだ。もし、最初から手伝うという選択肢を取っていれば、無理をしなかったと思っているのがよく分かるほど、アイリは裕也の胸の涙をボロボロと落としていた。
「ごめんな、アイリ」
裕也は謝罪しながら、アイリの頭を撫でて、少しでもその罪悪感を取り除くことしか出来なかった。