(3)
ユナとアイリの話を腕を組み、黙って聞いていた裕也は、
「とにかく、今日の訓練に連れて行ってみようぜ。それが自分たちで実感することが一番だということが分かったし」
と、二人がウソではないことを分かりつつも、自分自身で実感したかったため、そう言うと、
「ですね、そうしましょうか」
ユナはあっさりと了承した。
その時、「んー」と口元に指を当て、アイリは何かに悩み始める。
「どうした、アイリ」
「いやー、ユナお姉ちゃんもするなら、ボクの分身体もユナお姉ちゃんに連れて行った方がいいかなって思ったんだけど……」
「あー、実証ってわけか」
「うん。ユナお姉ちゃんが邪魔じゃないなら」
「だってよ」
裕也はアイリの意見を尋ねるようにユナを見ると、
「私は別に大丈夫ですよ?」
と、少しだけ困った表情をしながらも首を縦に振る。
その様子に裕也もまた「ん?」と何かに察することが出来たが、あえてそこを追求することは止めた。ユナがいるこの場で聞くべきことではない。なんとなく、そんな気がしたからである。それに、念話がある以上、あとでそのことについて聞けると踏んだからだ。
「おけ。じゃあ、そういうことにしよう」
「ありがとう、ユナお姉ちゃん!」
その言葉にアイリは少しだけ喜んだような表情を見せる。
裕也はそんなアイリの様子を見て、『ユナの行動を監視するべく、今の発言をしたのでないか?』、となんとなく思ってしまう。
「お互いに分身を連れて行くのはいいけど、お互いに内緒にしたいことがあったら、素直に分身体を解除すること。いいな?」
だからこそ、裕也はこんなことを口走ってしまう。
――オレ、何を言ってるんだ?
ユナとアイリもその発言に驚きを隠せない様子で裕也を見るも、それは裕也自身も驚いてしまう。なぜなら自分もこんなことを言い出すとは思っても見なかったからだ。しかし、その言葉を撤回する気にはなれず、裕也はそれを誤魔化す選択を取ることしか出来なかった。
「ゆ、ユーヤお兄ちゃん?」
案の定、それを訪ねてきたのはアイリ。
表情にはもちろんアイリがこれから言う言葉、「なんでそんなこと言うの?」が現れていた。
「どうした? 何かおかしいこと言ったか?」
「い、言ったよ! なんでそんなこと言うの!?」
「仲間だからと言って、なんでもかんでも公にする必要はないんじゃないかなって思ってさ」
「それは分かるけど……」
「アイリは何か困ることがあるのか? ユナが一人で行動して、分身を解除するように言われて困ること」
「……それはないけど……。でも、まさかこんなこと言われるなんて……」
「……悪いな」
「うん」
そして、場にはなんとなく思い空気が流れ始めてしまう。
全員がなんて反応をすればいいのか、なんでこんなことになってしまったのか、それに戸惑ってしまった結果だった。
そんな空気を和まそうと口を開いたのはユナ。
「あれですね、お互いに分身を付けるのはやめましょうか。分身の効果は私とアイリちゃんが分かってますし。ここまで悪い空気になるのでしたら、お互いにそれをしない方がいいと思うので」
そう言いながら、申し訳なさそうに軽く頭を下げながらそう言った。
「ううん、ユナお姉ちゃんは悪くないよ。元はと言えばボクが変なことを言い出したからだし……」
アイリは今頃、自分が言ってしまった言葉が引き金でこんなことになってしまったと思ったらしく、すぐにでも泣き出しそうな状態で俯いてしまう。
その反応が本当なのか、ウソなのか裕也には分からなかった。が、その涙がウソである可能性も否定するわけにもいかなかったのは、元居た世界で魅惑の能力のせいでそういうタイプの人間にしつこく絡まれたことがあったからだ。
その様子に困ったユナが裕也に助けを求めるように見て来ていたが、裕也はその助けをまともに受け入れることは出来なかった。
「アイリ、とりあえず泣こうとしなくていいから。いや、変なことを言い出したのはオレの方だってこともあるし。だから、お互いに分身を付けないって話で終わりにしたらいいだけだろ?」
だからこそ、ユナが言うようにお互いに分身を連れて行かないようにすることに賛同することによって、この場を乗り切る手段を選んだ。
「う、うん……」
アイリは目を手首で目に浮かんできた涙を拭いながら、アイリも承諾。
が、今度はユナが困ったような反応をし始める。
その反応は、今承諾したことを取り止め、分身を連れて来ても大丈夫とでも言いたそうな雰囲気だった。
――また、バカなことを考えやがって……。
そのことが分かった裕也はユナを睨み付けた。アイリも納得した以上、この話で荒れることを止めたかったからだ。それに、それを撤回してしまえば、アイリの思惑通りの展開になりかねない。裕也はそんな気がしてならなかった。
その視線に気付いたユナは身体をビクッと振るわせ、自分が言おうとしていた言葉を飲み込んだことを認めるごとく、首を縦に振る。
そのことを確認した裕也は手を叩きながら、
「はいはい、この話は終わり! これからご飯食べたりしてから、訓練だ。それでいいだろ、アイリ」
と、これからの行動のアイリに求める。
「うん、いいよ! それで大丈夫!」
アイリはすぐに立ち直ったらしく、裕也を見ながら微笑む。
「そ、そうですね! 分かりました」
そんなアイリの反応に戸惑いながら、ユナも裕也の提案に納得した。
こうして三人は朝食を食べる準備をゴソゴソとし始める。