(2)
「しかし、あれだな。魔力で造った分身でも喋ることは出来るんだな、それは知らなかった」
アイリの分身までもがあんなに流暢に喋ると思っていなかったため、裕也が感心していると、
「んーんー、違うよ。分身は基本的に喋ることは出来ないよ? ユーヤお兄ちゃんに話しかけていたのは、ボクの声。一種の念話みたいな感じだね」
アイリはあっさりとそのことを否定した。
「あー、なるほど……。それなら、あんなに流暢に話すことが出来たことに納得がいくな」
「でしょ? だから、昨日言っていた問題はほとんど解決なんだよね」
アイリはそう言って、「へへっ」と楽しそうに笑って見せる。
が、裕也には昨日の問題について、あまり覚えていなかったため、「ん?」と思わず首を傾げてしまう。
「え? 昨日の問題だよッ!?」
裕也の反応が予想外だったのか、アイリは驚いた声を上げる。
その声にユナまでもが少しだけびっくりした様子で洗面所から姿を現す。
「どうしたんですか?」
状況が一切飲み込めていないユナの当たり前の質問に、
「ユーヤお兄ちゃんが昨日の言ってた謎について覚えてないみたいなんだよ! だから、思わず大きな声を出しちゃったの!」
と、そのことを咎めるようにユナへと報告した。
まさか、そんなに咎められるような言い方をされると思っていなかったため、
「ちょ、ちょっと待てって! なんで、そんな悪い言い方されなきゃいけないんだよ? てか、アイリが朝っぱらから驚かせるような真似をするからいけないんだろ?」
寝起きドッキリされていたことを棚上げにするようにして、裕也はそう反論した。いや、それ以外反論出来る術を想憑かなかったのだ。
しかし、そのことにユナとアイリは気が付いているのか、二人からは自然と冷たい視線が飛んできてしまう。その目からは「素直に言った方が身のためだよ?」と無言の圧力までもが含まっていた。
裕也はここで屈したら誤魔化していたことがバレると考えて、必死に二人から視線を外さないように見つめる。
それは二人も同じだった。
そして、最終的に、
「すまん。普通に忘れてました……」
と、裕也が二人の視線に屈し、謝ることとなった。
二人はその言葉を聞いた途端、冷たい目のままため息を吐き、
「そう思うなら、最初から素直に言ってください」
「まったく、もうしっかりしてよねー」
と、二人に注意されてしまう。
が、そこでユナはアイリの方へ顔を向ける。冷たい目のままで。
「え、何?」
まさか、その目のままで自分の方を見られると思っていなかったアイリは、少しだけ怯えた声で質問した。
「確かにこのことを忘れていたユーヤくんも悪いですけど、寝起き直後にあんなことをされたら、驚きすぎて忘れてしまうことだってあると思いますよ? だから、一概に裕也くんだけが悪いとは言えないってことは忘れないでくださいね?」
「え……あ、……ごめんなさい……」
ユナに真面目に注意されたため、アイリは反射的にユナへと頭を下げるも、
「私じゃなくて、裕也くんにしてください」
と、ユナは裕也を指差す。
「はい、ごめんなさい」
そして、アイリはユナの指示通り、裕也へ謝罪。
裕也もまさかユナがここまで真面目に注意するとは思っていなかったため、動揺しつつも、
「お、おう。大丈夫だから安心してくれ」
と、その謝罪を素直に受け入れることしか出来なかった。
「これでケンカ両成敗ってことで解決ですね!」
二人の様子を見て、満足そうに笑いながらそう言うユナ。そして、
「裕也くんも思い出したみたいなので、さっきの分身の意味で気付きましたよね?」
昨日言っていた謎の答えが解けたことを裕也へ尋ねた。
「確かに解けたのは解けたけどさ。行動の制限や魔力の感知でバレたりしないのか?」
「大丈夫だと思いますよ? 私も分身を作ろうと思えば、作れますから。試しに私も分身を作って、裕也くんの訓練側に連れて行きましょうか?」
「確認するためにはそれはちょうどいいかもな。……うん? 連れて行くのはいいけど、意識の共有とかも出来るのか?」
「自分の魔力を使いますから、ちょっとした情報の交換なら出来ますよ。経験したことを覚えるってことは出来ないですけど、常時念話状態みたいな感じなので知ることが出来るって感じです」
「ほうほう」
「ちなみに精霊を使役するタイプはどんな感じなんですか?」
ユナとは違うタイプのアイリを確認するように見つめると、
「そこらへんは同じだよー」
と、アイリはあっさりと答える。
「あ、そうなんですか! なら分身を作っても、誤差はほとんどないってことですね」
「うん、そうなるね。違うのは、ボクたちは精霊を使う分、常時念話状態にしなくても会話を精霊経由で分かるってことかな?」
「つまり、伝言みたいな感じで直接伝わるってことですか?」
「うん! だから、今回みたいに距離が近かったらそうでもないけど、遠くなればなるほど、ラグが起きちゃうの。もし、普通に会話をするとしたら、ボクたちも念話状態に切り替える必要性が出てくるね」
「必要に応じて、それを切り替えるってわけですか。魔力の消費が少なくて便利そうですね」
「消費に関してはね。でも、念話状態にしないと喋れないから、あまり変わらないと思うよ?」
「あまり変わりませんね」
「うん」
二人は魔力の使い方は違えど、分身を作った際のメリットがあまり変わらないことを知り、困ったように笑いを溢すのだった。