(8)
「ん?」
その言葉と共にアイリの様子が真面目なものへと変わり、目を閉じる。
裕也とユナは何が起きたのか分からないため、自然とアイリを見つめたまま口を閉ざす。
「先生から念話届いたけど、みんなで共有する?」
先ほどの反応が、念話が届いたことだと知り、そのことを尋ねられた裕也は、
「それって重要っぽいのか?」
と、話の重要性について尋ね返す。
こうやって話を持ちかけられるということは、基本的には大事なことの方が多いは分かっていたが、さっきまで気を張っていたため、なるべくはそういう状況を今は避けたいという気持ちが強かったせいである。
「ちょっと待ってて、聞いてみるから」
アイリも内容までは深く聞いていないらしく、そう言って、再び無言になってしまう。が、すぐにその内容を把握したのか、
「やっぱり繋げた方がいいね。ユーヤお兄ちゃん、身体を起こして!」
そう言いながら、アイリは裕也のベッドに移動してくる。そして、寝ている裕也の足を軽くペチペチと叩きながら、身体を起こすように指示を出した。
「んー、なんだよー」
そのことに少しだけ不満を感じながらも、裕也はしぶしぶと身体を起こす。
すると、アイリは無理矢理裕也の足を組ませて、その上におそるおそる座る。
「ふふん! ユーヤお兄ちゃんの魔力の波長がまだいまいち掴めないから、こうしないといけないの」
「……密着する必要性はないんじゃないか、これ?」
「…………なんで分かったの?」
「いや、なんとなく? たぶん、魔力の波長の感覚を掴むためなら、別に触れる程度でいいんじゃないかなって予想……」
「変な所で察しがいいんだから。とにかく、念話を接続するよ。ユナお姉ちゃんもいい?」
アイリはユナにそれを確認するように見つめると、ユナもあっさりと頷き、繋ぐことを了承。
『あーあー、聞こえるかい?』
接続されると同時に、裕也の頭の中にミゼルの確認の言葉が届く。
――大丈夫です、届きましたよー。
ちゃんと届いていることを裕也はミゼルにそう伝えると、
『良かった良かった。ちゃんと繋がったね。ユナちゃんの方はどうだい?』
無事に繋がったことに安心した声を漏らすと、次はユナへ確認の言葉を送る。
『はい、大丈夫です!』
ユナの方も無事に繋がったことをミゼルに報告し、この場にいる三人とも無事に念話の接続が成功したことを裕也は知ることが出来た。
同時に裕也はある物足りなさを感じるも、その原因はすぐに気付くことが出来た。
――王女様は?
それはよくあるこのメンバーであるアイナがいないことだった。
『あ、言われてみればそうですね。なんとなく物足りなさを感じたのは、王女様がいないせいですか……』
ユナもまた同じように何か物足りなさを感じていたらしく、裕也の発言によって、この物足りなさの原因に気が付いたらしい。
『それについてはちょっと理由があってね。とにかく、自分が話したいことを言っていいかい? 三人とも犯人と交戦して疲れてるだろうし……』
――はい、いいですよ。
『ん、ありがとう』
ミゼルの雰囲気からして、この会話にアイナを入れたくない気持ちがよく伝わったため、裕也はそのことについて深く聞くことは止めておくことにした。
『私もそれで大丈夫です』
『うん、ボクもそれでいいよ。というより、ユーヤお兄ちゃんがそれを言うまで気が付いてなかったし……』
どうやら裕也の考えを察したらしく、二人ともそのことに了承してくれた。
ただ、まさかアイリまでもがアイナの存在を忘れていることに裕也は少しだけ呆れてしまっていたが……。
『自分が話したいことは、セインのことだ』
ミゼルはそんな場の空気を無視するように、自分の話したいことを口に出す。
――セイン?
『ああ、さっきの火傷の件なんだ』
――ああ、あの火傷ですか。
『あれって確か紅茶を飲もうとして、私たちの事件が起きたせいで、手にお湯がかかって出来たやつですよね?』
裕也とミゼルの会話にユナが口を挟み、あの時聞いたことを確認するように繰り返す。
『うん、そんなこと言ってたね。包帯を巻かれてたから、それが本当かどうかボクには分からなかったけど……』
アイリはユナの確認に対し、姿は見えないものの、何度も頷く姿を裕也の頭の中で想像することが出来た。
『そこなんだ。触ったというか、自分は治療でそのケガをスキャンしたから分かったことがあるから、それを報告しておこうと思ってね』
アイナが疑問に思っている内容について、唯一確認出来たミゼルがそう言うと、
『だから、こうやって念話をしてきたんだ! 報告したいことを潰すような真似してごめんなさい……』
自分からその報告内容を潰してしまったことに対し、アイリは素直に謝罪した。
『わ、私も口出ししたせいですね。黙っておくべきでした……。ごめんなさい……』
それにつられるように、なぜかユナまで謝り出してしまう。
――謝罪合戦はもういいから。先生、報告の方をお願いします。
そんな謝罪合戦になりつつある面倒な空気を裕也は呆れを隠すことなく、ミゼルにそう促すと、
『あ、ああ……そうだね……』
ミゼルもまた二人の謝罪に関して戸惑いを隠しきれないらしく、ちょっとだけ動揺した様子で裕也の指示に従い、ミゼルが気付いたことを話し始める。