(7)
新しく用意された部屋は今まで違い、少しだけ豪華な部屋になっていた。
それは裕也たちも命が狙われたことにより、完全にアイナ暗殺未遂とアベル殺人の犯人から外されたことを意味していた。
今回の部屋にはそれぞれにベッドが用意されており、裕也を真ん中、ユナとアイリが左右のベッドを選んだ後、各々が楽な姿勢でベッドに横たわる体勢になり、ぼんやりと視点の先を見つめる。それは今まで張りつめていた緊張がなくなったせいで、力が抜けきった状態であることを示していた。
「なぁ……、聞きたいことがあるんだけどいいか?」
そんな状態で裕也は、二人に声をかける。
「はい、何ですか?」
「なーにー?」
ユナとアイリは裕也へ視線を向けることなく、力の抜けた声で返事を返す。
「気になってたんだけど、犯人が襲ってきたときにオレにはどうとか言ってたよな……。あれって何だったんだ?」
そのことを聞き出すきっかけが今まで掴めず、ようやくそのことを聞けるタイミングだと思った裕也は、改めてそのことを二人に尋ねる。
すると、その質問に答えるべく、裕也の方へ身体ごと向けるように回転させ、
「あれはですね。裕也くんは絶対に起きてられるように、事前に対睡眠魔法をかけてたってだけの話です。だから、裕也くんは眠らなくて済んだんですよ?」
あの時、裕也にかけていた魔法を教えた。
「へー、だからオレは眠くならなかったのか……」
「それは関係ないですけどね」
「え? 眠くならないような魔法をかけたんじゃないのか?」
「眠くならないじゃなくて、『魔法によって強制的に眠りに就かされない』魔法です。だから、裕也くん自身が眠たいと思ったら、ちゃんと寝れたはずですよ? たぶん、証拠の本があるせいで裕也くん自身が緊張して、寝れなかったんじゃないんですか?」
「否定できないな、それは。ユナとアイリと同じように犯人が襲ってくるんじゃないかって思ってたし……」
裕也から何気ない一言なのだが、その一言を聞いたアイリもまた裕也の方へ身体を向けると、
「さすがだね! ユーヤお兄ちゃんならそう感じ取るんじゃないかって思ってた!」
と、自分の予想通りの流れに裕也を褒める。
「状況的に分からないはずがないだろ?」
「それもそっか! 王女様のピンチにも気が付いたぐらいだもんね。それぐらい察すること出来て当たり前だよね」
あの時のことを思い出したのか、アイリはしみじみとそう漏らす。
まだあれから四日しか経っていないにも関わらず、裕也はアイナ暗殺未遂のことがちょっとだけ昔のように感じてしまっていた。それだけ一日にやることが多すぎるのだ。
だからこそ、裕也はその一日の疲れが一気に胸の中に溜まってきたため、盛大なため息を溢して、それを吐き出す。
「本当にお疲れ様です」
裕也の胸の内を察したのか、ユナがそう労う。
「まだすることがあるからな。問題は山積みだよ」
「主に魔法の訓練ですか?」
「だな。そっちの進展が全くなさすぎる。さすがに一週間じゃ無理っぽそうだな。一応、矢の形成だけをすればいいだけの話なんだろうけど……」
「ですね。ユナちゃん、良い手はないんですか?」
そう言って、ユナは反対側にいるユナに身体を起こして尋ねる。
すると、アイリも「んー……」と唸りながら、天井を眺め、
「ないこともないんだけどね……」
と、意味深に呟く。
けれど、トリスを渡した時のような状況的に仕方なくというわけではなく、この方法はなるべくやりたくないという気持ちが雰囲気として出ていた。
「とにかく、今はこの方法で進めよう? それが一番だよ」
だからこそ、その方法は取らず、正攻法で進めることを裕也とユナへ伝える。
「そうだな。アイリの言う通りにした方が一番いいんだろうからな」
だからこそ、裕也はあっさりとそのことを同意した。
「ですね。私たちは余計なことを言わない方が良さそうですね。っと、そういうわけで明日から訓練から外れますね?」
アイリは裕也の考えに同意を示した後、唐突にそんなことを言い出したため、
「何を拗ねてんだよ。何か言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいだろ?」
と、裕也は不満を露わにして、そう文句を言った。
そんな受け取られ方をすると思っていなかったユナは「え?」と少しばかり動揺した声を出した後、自分の言った言葉の勘違い部分に気付き、
「違います違います! 拗ねてるわけじゃないです!」
慌てて裕也の勘違いを正そうと必死に首と手を横に振って、否定し始める。
「拗ねてないならどういうことなんだ?」
その必死さから自分が誤解していることは分かったが、ユナが何のために訓練から外れるのか、その理由が分からなかった。
「ベッドメイキングとかを教えてもらおうと思いまして。さすがに寝て起きて、グシャグシャになったシーツの上で寝たくないじゃないですか。だから、そのためですよ。部屋には王女様も先生もメイドさんも入れないんでしょ?」
「あー、そのためか」
「別にアイリちゃんがその方法を隠しているからって、そんな理由で拗ねたりしませんよ」
まさか勘違いされると思っていなかったのか、誤解がちゃんと解けたことにホッとしたのか、「はぁー」と盛大に息を吐いた。
「なんか、悪いな。変な風に勘違いしちゃって」
さすがにこの勘違いは悪いと思った裕也も素直に謝った後、
「それでアイリ、一人でも大丈夫か?」
と、責任が一人に押しかかるアイリに尋ねてみると、
「うん、大丈夫だよ! やるべきことはちゃんと押さえてるしね!」
アイリは笑顔でユナが訓練から外れることに同意した。
ただ、裕也から見たアイリの表情から察するに、二人っきりに慣れることの方を喜んでいるような気がしてならなかった。