(6)
「それより、これからはどうしましょうか?」
セインのケガのことで話題がズレてしまったと感じたのか、アイナは本来の話に戻そうと裕也たちへと尋ねる。
「これから、どうするか……」
その質問に対し、裕也は少しだけ悩んでしまう。
本来であれば、部屋などを移動して身の安全を図った方がいいのかもしれなかったが、証拠になる本がある時点でどの部屋に移動しても襲われることは間違いない事実。いくら部屋を破壊され、時間回帰魔法で部屋の修復してくれるとは分かっていたとしても、その破壊されてしまうことに心が痛んでしまうからだ。
けれど、そのことを一人で悩んだところで仕方ないと思った裕也は、
「ユナとアイリはどうするべきだと思う?」
と、改めて二人に尋ねる。
すでに二人も考えるだけは考えていたらしく、
「私は裕也くんの考えに合わせるつもりでいますけど、意見としては部屋の移動することを提案します。さっきのマーキングによる移動を考慮して」
さっきのドジを二度と踏みたくないと思っているユナは、少しだけそのことを強めに主張した。
「確かにマーキングが残されてる以上、移動した部屋からこの部屋にも移動出来るって考えた方がいいか……」
マーキングによる移動の件を全く考慮していなかった裕也は、ユナの提案に納得し、今度はアイリを見る。
「ボクもユナお姉ちゃんに賛成かな? 部屋の移動は賛成だとしても、移動した後にちょっとだけ提案したいことがあるんだけどね」
「移動した後?」
「うん、賛成反対はユーヤお兄ちゃんが決めたらいいよ。ボクもユーヤお兄ちゃんの考えに任せるからさ」
「言うだけ言って見てくれ」
「うん! じゃないと判断が付かないもんねッ! ボクの提案としては、移動した部屋に誰も来させないこと。ベッドメイキングとかそういう類のメイドさんも。それに――」
そこでアイナ、ミゼル、セインの順に顔を向け、
「王女様たちも部屋に入らせない。ううん、ボクたちに用事があったら会いに行く形にして、そっちから接触することは止めてほしいんだ」
今まで協力してくれていたアイナとミゼルにまではっきりとそう言い切る。
その言い方にミゼルはともかくアイナは少しだけショックを受けていた。まるで自分が疑われていることに気付いてしまったらしい。
――やっぱりショック受けるよな……。
アイナがショックを受けてしまうことは、最初から分かっていた裕也は心の中でそう思うも、
「別に王女様を疑ってるわけじゃないけど、それだけ自分の身は自分で守らないといけないってことか……」
そう言って、自分たちの近くにいる危険さとそれだけ状況が緊迫していることを遠まわしに伝える。
「そうだね……。本当に王女様たちに悪いんだけど……」
アイリもまた言いたくて言ったわけじゃないことを、申し訳なさそうに俯き加減で漏らす。
「そうだな、王女様には悪いが接触を控えてもらうしかない。そうすることがまた王女様のためになるかもしれない」
最初から裕也たちと接触することは快く思っていなかったセインからすれば、そうすることが一番だと言いたそうに、あっさりと乗っかってきた。
アイリがそう言い出しそうだと心のどこかで思っていたのか、まったく驚いた様子を見せなかったミゼルもまた、
「そうだね。自分たちが疑われてるとは思いたくないけど、少なくとも疑われても仕方ない状況と一緒にいる危険があるからね」
セイン同様に賛同してくれる。
セインとミゼルがアイリの考えに賛同してしまったため、アイナも状況上賛同するしかない立場に追い込まれてしまったらしく、
「ですね。ここはアイリの考えに賛同しましょう。で、ですが、お話したい時は呼んでもいいですか?」
と、最後の部分だけは譲れないらしく、すがるような思いで裕也へ尋ねた。
その質問に対し、アイナを除く全員の視線が裕也に向けられる。
ユナとミゼルは「それぐらいいいんじゃない?」という少しだけ甘い考えの視線、アイリとセインは「もちろん断るよね」という厳しい視線だった。
――この分かれ方はなんだよ……。
三対一の状況ならば、その答えは自然ときまったものの、見事に真っ二つに分かれた視線に対し、裕也は自分一人での判断に仰がれたことに息を飲んでしまう。それほど、重要な局面な状況だと分かっていたからだ。
しかし、その質問に長時間を食っているわけにもいかず、
「じゃ、じゃあ……お話したい時は念話でお話しましょうか? ほら、念話の練習にもなるので!」
魔力の訓練を含めてという意味合いを少しだけ強めに含めて、アイナの要望に応える形で答えた。
その答えが嬉しかったのか、さっきまで落ち込んだ表情から少しだけ明るくなり、
「そうですよね! 部屋に会いに来なくても念話でお話すればいいですものね!」
話そうと思えば話せる状態を作れることに気付くアイナ。
同時にアイリとセインから非難の目が向けられたため、
「あ、でも、あれですよ? 念話の練習ですから、自分からコンタクトを送るようにします。だから、ユナかアイリにまずは王女様から念話を送ってもらって、その後に自分が送るようにします。しばらくしても成功しなかったら、またユナかアイリ経由で伝えてもらって、王女様から自分にコンタクトを取るっていう形でお願いします」
即座にそう付け加える。
「はい! それで大丈夫ですよ!」
アイナはそれでもいいらしく、コクコクと首を縦に振って、元気に頷いて見せた。
しかし、アイナは気付いていないことがあった。
それはユナかアイリを経由することによって、二人の判断で裕也に返答を聞かずに会話を拒否することが出来るということを。そのため、場合によってはアイナが話したいタイミングで話せないことが多いことが多いのだ。
そのことを察したユナからは非難の目を向けられるが、裕也はそれを無視した。
これ以上、重要じゃない問題で振り舞われたくなかったからだ。
こうして、三人は証拠である本を持ち、新しく用意された部屋へ移動するのだった。