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(5)

「そんなことより、これが証拠の本なのか?」


 セインは結界に関する話は自分の中では周知のことなので完全に興味がなく、テーブルに置いてある本の中身を確認しようと包帯が巻かれた右手を伸ばす。


「あ、ダメッ!」


 テーブルに手を伸ばそうとしたセインを止めるため、大きな声を上げるアイリ。

 その声にびっくりしたのか、アイリの指示に従い、セインは手を慌てて止め、引き戻した。


「まだ結界を張ったままなんだよ。現在、その結界にケガなく触れることが出来るのは、ボクとユナお姉ちゃんだけだよ。あ、結界から本を引き出したらユーヤお兄ちゃんも読めるけど、ボクは三人以外、本を読ませるつもりないから結界からは出さないよ?」


 結界が継続中なこと、自分を含めた三人以外は読ませるつもりがないことを、アイリははっきりと言い切り、セインだけではなくアイナとミゼルも睨み付ける。

 アイナとミゼルは、自分たちまでもそこまで警戒されると思っていなかったらしく、お互いがお互いの顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。


「どうして私たちもダメなんですか?」


 しかし、その理由を聞かなくては納得出来ないと思ったのか、アイナがそうアイリに尋ねる。


「ちょっとね、敏感になってるってのが答えかな? これでも襲われた側だから、そのせいだよ」

「そうですね。その気持ちは分かるので、落ち着いたら、読ませてくださいね」

「うん! もちろんだよ! ごめんなさい、王女様」


 さすがにエルフの王女であるアイナにまでこんな態度を取ってしまっていることに罪悪感が生まれたのか、軽くだが頭を下げるアイリ。


「それならしょうがないね。自分たちは協力するという立場であるものの、『証拠である本を見せてくれ』って、無理矢理言える立場ではないから。ここは素直にユーヤくんたちの考えに賛同するよ」


 ミゼルもアイリの考えには賛同してくれているらしく、腕を組み、仕方ないかとでも言いたげな雰囲気を出しつつもそう言って頷く。


「ありがとう、先生! それで――」


 アイリはミゼルにもお礼を述べた後、セインへと視線を向ける。少しだけ不安そうな表情を浮かべながら、


「セインは賛同してくれる?」


 分かっていると質問を改めて尋ねる。

 さすがにこの場の空気を読んでいるためか、心外とでも言いたそうな口調で、


「王女様もアイリの意見に従ったのだぞ? それなのに私が拒む理由などあるまい」


 と、アイリに意見にしぶしぶ賛同した。

 その答えを聞いたアイリの表情はパァっと明るくなり、


「ありがとう、セイン!」


 セインにも頭を下げて、改めてお礼を言った。


「本当にすみません。裕也くん、本を読みたい場合はちゃんと言ってくださいね? じゃないと火傷しちゃいますから」


 ユナもまたアイリの考えに賛同しているらしく、改めて裕也へと本を読む際の注意を促す。


「分かってるよ。ここまでピリピリとした状態の中での注意なんだから、そんなバカなことしないっての」


 まさか、ここまで注意されると思っていなかった裕也は、ちょっとだけムスッっとした口調で不満を漏らすと、


「本当ですか?」


 と、ユナは完全に信じてない口調で裕也へ聞き返す。


「どういう意味だ?」

「だって、『あ、ちょっと本でも読むか』みたいなノリで、結界が張ってあることを忘れて触りそうですから」

「……」

「ほら、何も言えないじゃないですか」

「ちょ、ちょっとシミュレーションしてたんだよ! その状況の時を!」

「はぁ……、それで?」

「まだ終わってない!」

「じゃあ、どうぞ」

「お、おう……!」


 そうやってユナに促されるも、そのシミュレーションをすることはなかった。いや、する必要が全く感じられないほど、そんなノリで本に触りそうなことが安易に予想出来たからである。

 そのことをユナも分かっているのだろう。ずっと疑いの目で見つめたまま、そのウソで言ったシミュレーションが終わるのを大人しく待っていた。

 もちろん、それがウソであることは四人もまた気付いているらしく、裕也が全員に助けを求めるように視線を向けると、「諦めろ」と言わんばかりに首を横に振って、負けを認めることを促す始末。


「……気を付ける」


 だからこそ、裕也は最終的にはそう言って、負けを認めることしか出来なかった。


「はい、気を付けてくださいね」


 ユナはそのことに対し、深く追及することなく、今度はセインの方へ顔を向け、


「それでセインさん」


 と、セインの包帯を巻かれた右手を見つめる。


「なんだ?」


 セインはその右手を隠すように背中に隠しながら、ユナの呼びかけに答える。


「その包帯の巻かれた、背中に隠した右手はいったいどうしたんですか?」


 問い詰める様子ではなく、ただケガしていることを心配しているかのような口調での質問に、


「やっぱり気が付いてたか」


 セインは隠すことを諦めたのか、その右手を全員に見せるようにして掲げる。


「はい、利き手が右手である以上、さすに気が付きますよ」

「それもそうだな。それでこのケガの理由だろう?」

「もちろんです。心配であることは間違いないのですが、状況的にそのケガのことを聞かないといけません」

「だろうな。最初から分かっていたから、気にする必要はない。このケガはただの火傷だよ。紅茶でも飲もうと思って、お湯を作っていたら騒ぎのせいでお湯が手の上にこぼれてな。一応、水で冷やしたが……」


 珍しくドジってしまったことを恥ずかしそうに苦笑いを溢しながら、説明する。


「セインったらドジなんですから」


 アイナはそんなドジを踏んだセインがちょっとだけおかしいらしく口元に手を置き、クスクスと笑いを溢す。


「まったく、そういうのは先に言いな。ほら、右手を出して。応急処置の魔法ぐらいかけておくから。あとで来るように」


 ミゼルはそんなセインに呆れたように近寄り、両手をセインに向かって伸ばす。


「すまない、先生。助かる」


 この状況で拒むなんてことは出来ないことを悟ったのか、セインは素直にミゼルに向かって右手を伸ばす。

 ミゼルはその右手から少し離したところで両手を構え、光らせ、治療を開始する。その瞬間、何かの違和感を覚えたのか、「ん?」と不思議そうな表情を浮かべる。

 その表情を見逃さなかった裕也は、


「どうかしましたか?」


 と、ミゼルに尋ねると、


「いや、予想以上に酷いなって思ってさ」


 気にしないでいいと言わんばかりに意味深に首を横に振った。


「なるほど。それは大変だ。セインさんも無理しないでくださいね」

「ああ、分かってる。私らしくないドジをしてしまったよ」

「みたいですね」


 苦笑いしながら言うセインの言葉に、裕也は頷きながら、ユナとアイリをチラッと見る。

 二人とも裕也が何を言いたいのか分かったらしく、真剣な表情で頷いた。


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