(4)
しばらくは危険があるかもしれないと周囲だけではなく、部屋の外までも兵士たちでいっぱいになっていたが、さすがにここまで騒ぎが大きくなると再び襲ってくることもないと思ったのか、アイナの命令により兵士たちは部屋から引き上げられる。そして、この場に残ったのはアイナ、セイン、ミゼルを含めた六人となった。
「うん、大丈夫だね。障害が残るような魔法は使われてないみたいだ。部屋はめちゃくちゃだけど」
裕也の診断をしていたミゼルはホッとした表情を浮かべて、裕也にそう言った後、黒ずくめによって攻撃によってめちゃくちゃになっている部屋を見る。
黒ずくめが行った爆風の威力は部屋を破壊する威力まではなかったが、家具の破壊と壁に多少の欠損を残す程度の威力はあったらしく、結界に守られていたテーブルとベッド以外は全部だめになっていた。
「なんか、すみません」
「貸してもらったのにすみません」
裕也とユナは自分のせいではないことは重々分かっていたが、それでも一枚噛んでいることは間違いなかったため、謝罪すると、
「気にしないでください」
と、アイナが裕也とユナにそう声をかける。
「私以外にも分かっていたとは思いますが、ユーヤくんたちが犯人に狙われることは最初から分かっていました。だから、部屋の破壊ぐらいで謝らなくても大丈夫ですよ。部屋は時間回帰魔法でなんとかなりますから。ね、セイン」
アイナにいきなりそう振られたセインは、
「まぁ、そうだな。分かっていたことだから気にしなくていい。あとは王女様の言う通りだ」
少しだけ動揺した様子でアイナの意見に賛同した。
「いや、部屋よりも問題なのが、何の魔法を食らってこんな風になったんだ?」
この部屋がボロボロになった魔法の方が気になったらしく、そちらをユナかアイリに説明を求めるように二人を交互に見る。
二人はお互いに交互を見合わせた後、アイリが自分を指差したため、ユナが頷いて、アイリが説明することに同意した。
「じゃあ、ボクが説明するね。どこから話そうかな?」
「最初からに決まっているだろう?」
「分かったよー。まったくセインはすぐにそんな睨むんだから」
「勿体ぶる時間が無駄だと思ってるだけだ」
「はいはい。簡単に説明すると、ボクたちを襲ってきた奴を逆に捕まえようとして、ボクがフェイクの攻撃、ユナお姉ちゃんが拘束魔法を使ったの。そしたら、防がれるでしょ? それが吸収型の防御結界だったらしくて、そのままボクの放った攻撃魔法を爆風として返されたんだよ。それでこんな風になったの」
それは裕也も後から聞こうと思っていたことだったため、アイリの説明を聞いて、「へー」と頷く。
「なるほどな。部屋がこんな状態になった理由が納得いった。それで犯人にも逃げられた、と……」
セインも裕也同様納得しつつも、犯人を逃したことについての説明を求めるように、拘束担当だったユナに説明を求めるように見る。犯人を逃したことについて、不満を隠せないらしく、アイリ以上にユナを見る目は鋭くなっていた。
その視線から逃れるようにユナは俯き、
「えっと、その逃げられたのは私が甘かったのは否定出来ないんですが、瞬間移動系の魔法を使われたからなんです」
と、おそるおそる説明し始める。
「瞬間移動? 魔法を使えないように魔力拘束型の拘束魔法を――」
「それは使いました。それを使ったんですけど、瞬間移動させられたんです」
「……なるほどな。そういうことか」
「はい、そういうことです」
セインはユナの言いたいことが分かったらしく、二人で勝手に納得し始める。
それはセインとユナ、その場にいたアイリの三人だけではなく、アイナ、ミゼルの二人もセインとユナの会話から察したらしく、
「こればっかりは予測してないと無理ですね」
「失敗は成功の元。逃げられたことを教訓として、次に生かせばいいよ」
「あればかりは、本当にね……」
三人はユナのフォローをし始める。
ユナは三人のフォローを受け、少しだけ罪の意識が薄れたらしく、さっきまで暗かった表情が明るくなっていく。
が、この場で唯一理解出来てない裕也が、その会話を打ち切らせかのごとく、「はい」と手を上げながら挙手した。
「何ですか?」
それに反応するユナ。
他の四人もまた裕也へと視線を集中させる。
「オレ以外は逃げられた理由が分かったみたいだけど、その説明をしてくれよ」
「……あっ! そうですね! 裕也くんにはまだその知識がありませんでしたよね!?」
「おい、忘れてるんじゃない」
ユナの口調から『ACF』によって気付くと思っていたらしく、改めてその知識がないことに気付き、そのことを誤魔化すように笑う。
裕也はそんなユナに呆れ、ため息を溢した。
「セインさんの話の続き……もうちょっと詳しく話しますと、自分の魔力が使えないように魔力の仕様を制限する拘束魔法を使ったんです」
「おう、それは理解出来た」
「それで制限そのものは成功したんですが、この部屋とどこかの部屋に魔力入りのマーキングみたいなものを作っておいたらしくて、それを使って瞬間移動したみたいなんです。だから、私の拘束魔法から逃げられた。これが私たちの解釈です」
「なるほど、それじゃあ逃げられても仕方ないな。ちなみにあいつが使った結界が消えなかったのは?」
ユナの説明から魔力の制限をさせられていたにも関わらず、魔法を使えた矛盾点に気が付き、その説明を求めるようにアイリを見ると、
「あれは拘束する前だからね。結界ってのは効果が切れるか、術者の意思で消すものだから、それのせいだよ」
その説明をしないといけないことも分かっていたらしく、悩むことなくすぐに答えてくれる。
「なるほどなー」
二人の説明を聞いた裕也は改めて魔法の奥深さを知ったような気がした。
それほど知らないことが多くて、元居た世界との差を見せつけられるような気持ちにさえなってしまうほど、魔法の便利さにも気付かされてしまうのだった。