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(3)

「なっ!」


 予想していた反撃が自分の忠告と同時にやってきたため、裕也は動揺から身体が硬直し、防御態勢が取れず、迫りくる爆風をジッと見つめることしか出来なかった。いや、むしろ魔法が使えない時点で、この攻撃を防御することは無理なことは分かっていたのだが自然と思考がそう働いてしまったのだ。


 ――……死ぬ?


 裕也の思考はそのことを目の前の出来事にそう悟ってしまう。

 が、命のピンチの時によく起こると言われる走馬灯や時間が遅くなる現象が裕也に起きることはなかった。異能と呼ばれる能力を持っていない普通の人間でも対処出来ない時に絶対に起きる出来事なのだから、『ACF』を持っている裕也なら、ちょっとした命の危険でも起きそうにも関わらず。

 目の前に迫る爆風を最終的に裕也は直視出来ず、目を閉じる。爆風の熱さや衝撃に耐えるように身体を強張らせて。しかし、その熱さや衝撃は一切来なかった。むしろ、さっきまでと同じ平静が訪れていた。


 ――もしかして……。


 頭の中に浮かんだ一つの答え――。

 ユナかアイリが防御魔法を使って、この爆風を防いでくれていることを確かめるために、裕也はおそるおそる目を開けてみると、案の定、二つのベッドから守るように張られた薄い緑色の膜が爆風を左右に受け流していた。


「これは……」


 裕也の現状を確認するかのような呟きに対し、


「大丈夫? 念のために防御魔法を準備しておいてよかったー」


 と、アイリが安堵のため息を溢す。


「やっぱりか……。サンキューな、アイリ。オレは大丈夫だ。アイリとユナは?」

「二人とも大丈夫だよー。ね、ユナお姉ちゃん」


 そう言って、隣で安堵した表情を浮かべているユナを一瞥するアイリ。


「はい、何とか大丈夫――あ!」


 アイリの質問に答えている最中に何か異変に不都合なことが起こったらしい発言と共に、悔しそうな表情へと変わる。

 その顔だけで裕也は何が起きたのか、すぐに悟ることが出来た。


「もしかして……」

「はい、そのもしかしてです……。テレポート系の魔法を使われて逃げられちゃいました」

「マジかよ……。いや、あいつならどうにかして逃げることぐらい予想付いてたけどさ……」


 最初から分かっていたこととはいえ、本当に逃げられると思っていなかった裕也は残念そうに言うと、


「すみません」


 黒ずくめに向かって伸ばしていた手を下ろし、裕也へ身体を向けて、土下座して謝り出すユナ。


「ちょっ! そこまでする必要ないから、頭を上げろ。そもそも、オレはそこまでして欲しいなんて望んでないぞ!?」


 謝ることも分かっていたものの、まさか土下座をしてくるまで責任を感じると思っておらず、裕也もまた慌てて頭を上げるように促す。


「ユーヤお兄ちゃんー……」


 爆風も治まったことにより、防御魔法を解きながら、アイリは裕也をジト目で見る。その目は口では語らないものの、「最初から言葉を選びなよ……」と言っていた。


「で、でも……! 私がちゃんと拘束してたら、こんなことには……。それにこれで全ての問題も解決してたんですよ? だから……」


 裕也に言われた通り、少しだけ頭を上げつつも姿勢は崩さず、ちゃんと拘束していなかった自分の甘さをぼやき始めた。

 が、裕也からすればちゃんと拘束出来ていたように見えたため、ユナが何のミスをしたのかが分からず、困っていると、


「あれはミスのせいじゃないと思うよ?」


 と、役に立たない裕也に変わり、アイリがテーブルに置いてある本の無事を確認しつつ、そう答えた。


「確かにミスではなかったですけど……。でも、そのこともちゃんと視野に入れておくことが出来たら……」

「ううん、そんなことないよ。きっと、あれはボクでも無理だから。だから、ユナお姉ちゃんのせいじゃないよ」

「……ッ! ……はい」


 アイリは何とかして元気付けようとするも、ユナはあまり納得がいかない様子ながらも頷く。

 その中で二人だけが知っている口ぶりに裕也は興味を惹かれないわけがなく、


「なぁ、いったい何が起きたんだ? そもそも説明してもらうことが多すぎるぞ」


 と、二人にそのことを尋ねる。


「んー、説明したいのも山々なんだけど……」


 アイリはその説明をしたくない雰囲気ではなかったが、少しだけ言いづらそうに歯切れが悪くなってしまう。

 何のことが分からない裕也が首を傾げると、


「そうですね。しばらくは無理になるかもしれません。時間切れなので……」


 ユナもまた意味深な発言を申し訳なさそうに言った。

 そして、その言葉を待っていたかのようなタイミングで、裕也たちの部屋の扉がドンドン! と勢いよく叩かれる。そして、返事を待たずに勢いよく開けられ、


「大丈夫ですか!?」

「何があった!?」

「ケガはないかい!」


 アイナ、セイン、ミゼルが口々にそう言いながら部屋の中に入ってくる。もちろん三人だけではなく、城にいる数人の兵隊たちも次々に遠慮なく入ってくる。


「な、なんだぁ!?」


 いきなり押しかけてきた人数に裕也は驚きを隠せずにそう言いながら、何か知っているユナを見つめ、説明を求める。


「犯人が、人が張って来れない結界魔法を部屋に張ってたんですけど、それを解いたせいですよ。と、とにかく説明は色々後です!」


 ザワザワと騒がしくなる部屋でユナがそれだけ言い残すと同時に、裕也たちはアイナたちに囲まれ、身の心配をされ始める。

 そんな状況の中、


「このテーブルに触らないでねー! 結界張ってるから!」


 と、大声でアイリがなんとか裕也の耳に入るのだった。


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