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(1)

 その日の夜。

 裕也たちは自分たちに貸してもらっている部屋で持ち帰った本を読み、0時あたりまで読んだ後、就寝に就いた。

 裕也からすればもうちょっと読み進めたかったのだが、ユナとアイリに明日の訓練のことを考えて早く寝るように注意されたため、大人しくベッドの中に入ることにした。


 ――けど、寝れないんだよなー……。


 仰向けで頭の下の手を置いた状態からぼんやりと天井を見ながら、心の中でそう呟く。

 昨日の件がトラウマとして残っているわけではなかったが、眠気が全く来ないせいだった。今までこんな状態がなかったとまでは言わないが、それでも寝つきは良い方の裕也からすれば、あまり居心地がいい状態ではなかった。

 さっきからずっとこの体勢でいたため、身体の向きを変えて、ユナたちが寝ているベッドの方へ、身体を横向きにする。

 アイリが裕也に背中を向け、ユナに抱き付くような形で寝ていた。


 ――姉妹か親子みたいだな……。


 抱き合って寝ている二人を見ながら、ちょっとだけ裕也の心は和んでしまう。

 それだけ裕也の心は昨日からずっとちょっとした緊張した状態になっていたのだ。


 ――アベルが殺された今、オレも殺されかねないからかもしれないけどな……。


 それが裕也の緊張している理由だった。

 証拠である本を手元に置いてあることに加え、真犯人を探しているという状況の中、自分が狙われない理由が全くないからだ。

 ふと、頭の中に思い浮かぶ一つの考え。


 ――もしかして、今日狙われるから寝れないとか……?


 初日にユナに言われたことを裕也は思い出したのだ。

 それは『ACF』が自分のピンチになりそうな時に発動するということ。

 王女様が暗殺されそうな時に一度発動した限り、あれ以降は全く発動していない。だからこそ、すっかり忘れていたことだった。


 ――そんなバカなことがあってたまるかよ。


 裕也はその頭の中によぎった考えを否定するべく、一度大きく息を吸って吐く。

 そして、気持ち良さそうに寝ている二人を見て、心を癒そうと思っていた時のこと――ゾクッとした悪寒が裕也の背筋を襲う。


「なんだ!?」


 裕也は声に出して、ガバッ! と身体を起こす。

 そして、起きた先には裕也の視界に入るのは、一人の黒ずくめの衣装を纏った一人の人間が裕也をジッと見ていた。


「い――」


 「いつの間に!?」という言葉が途中で裕也は言えなくなってしまう。


 ――なんで声が……ッ!


 恐怖から声が出ないということがあることは、もちろん裕也も知っている。

 が、それが今回の件では適用されないような気がしていた。

 なぜなら、頭が全然パニックっていないからだった。むしろ、目の前の相手に対して、『どうやって対処しようか?』とACFが働いていたからだ。

 そこから導き出される答えは一つ。


 ――金縛り系でやられてるのかッ!


 そのことを確認しようと身体を動かそうとするも、全身が石になってしまったかのように動くことが出来なかった。


「真犯人探しは諦めろ。そして、この本は貰っていく」


 今まで感じたことのない殺気の混じった冷たい声で、裕也は黒ずくめに忠告しながら、テーブルに置いてある本を手に伸ばす。


 ――ふざけんなッ! てか、本に触ろうとしてんじゃねーよッ!


 声が出ないことが分かった状態での忠告に対しての答えと本を奪おうとしていることに怒りを感じながら、そう心の中で吠える裕也。

 しかし、裕也の声は黒ずくめには伝わらない。いや、伝わった所で聞くはずがなかった。そして、黒ずくめの手はゆっくりと本へと伸び――バチン! という音ともに、その手は弾かれる。


 ――な、なんだぁ!?


 弾かれた手がプスプスと白い煙を上げ、その場から軽く横にジャンプすることで距離を取る黒ずくめを視線で追う裕也。

 いきなりの出来事に驚きつつも、本に触れようとした黒ずくめの手が弾かれた理由について、すぐに裕也は察しが付き、


 ――よくやったぞ、二人とも!


 未だ寝ているユナとアイリに心の中で褒める。

 どうやら裕也以上にこの本を狙われていることを危惧していたらしく、自分の知らない内に結界を張っていたらしい。

 ただ、そのことを事前に言っておいてもらえれば、二人のように熟睡出来ていたのかも知れなかったが、下手をすれば起きる前に殺されている可能性があったため、そのことに対して文句を言うことは止めることにする裕也。


 ――くそッ! 不意打ちを突かれたのに、金縛りはやっぱり解けないか……ッ!


 いきなりの出来事に動揺し、自分にかけている金縛りが少しでも緩むかと思い、全身に力を入れてみるも、やはり解けそうになく、そう心でぼやくしか出来なかった。


「なかなかやるじゃないか。まさか日記の周囲に結界を張っておくなんて。さすがに予想外だったよ」


 黒ずくめは少しだけ苛立ちを隠しきれない様子で漏らすも、


「が、一回限りの手段だったな。この結界を解けば、それで終了だ」


 そう言って再び近付き、本に向かって手を伸ばす。が、今度は一定の距離でその手を止めて、ぶつぶつと呟き始める。


「うん、それはどうかな?」


 瞬間、アイリの声。

 黒ずくめは解呪の呪文を止め、さっき以上に慌てた様子でその場から飛び退く。

 カンカン! と結界に何かが辺り、そのアイリが攻撃したらしい音が部屋中に響き渡った。


「な、なんだと……!?」


 黒ずくめもこればかりには動揺を隠しきれないらしく、予想以上に慌てた声を上げる。

 そのせいなのか、裕也の硬直していた身体の力がガクン! と抜け、金縛りの魔法が解けたことを裕也へと伝える。


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