(4)
あれから何時間経ったか分からないが、二人は未だに森の中を始めていた。もちろん、途中でユナがあの空間に保存していた水筒で水分補給や休憩を取りながらである。
しかし、食べ物はさすがに入っていないらしく、裕也のお腹が鳴り始めてしまう。
「お腹、空いた……」
そう呟くこと何度目が分からない言葉を漏らす。
ユナもそれには同意しているのか、最初の方は戒めが入っていたが、今では、
「そうですね。お腹空きましたね」
と、賛同し始めていた。
「不思議なもんだな。疲れは全然来ないのに、お腹だけが空くなんて……」
「それは『ACF』のせいがあるのと、この世界の環境のせいですよ」
「環境も?」
「はい。裕也くんが生まれた世界とこの世界では重力が違うんです。こっちの世界は軽いので、身体も軽いんだと思います。それに……」
「それに?」
「はい、魔力が使えるせいもあるのかもしれません。魔力が放出出来る世界だからこそ、溢れんばかりの魔力が肉体を活性化させてる可能性もありますね。あくまでこれは予想ですけど……」
「あれだな、漫画とか小説である主人公みたいになってるな」
「ぶっちゃけると、裕也くんはまんまその立場なんですけどね」
「それを言うな。少なくとも、オレはチートキャラになるつもりはない」
「何を言ってるんですか。すでに能力がチートじゃないですか。能力だけじゃないですけど……」
「……は? 能力だけじゃない? まだ何かあるのか?」
「私って魔力探知能力が優れた設定なんですが――」
「だから、設定言うな」
「分かりましたよ。優れてるんですが、さっきから裕也くんの魔力が減るどころか、増えてる気がするんですよねー」
「増えてる? オレ、何もしてないんだが……」
裕也は一度、足を止める。そして、自分の身体を確認し始める。
確認したのは、なんとなくであり、意味なんてものはない。
それにつられるように、ユナも二歩ほど先で同じように止まり、裕也のその行動を見ていた。
「魔力を集める機械とか付いてないんで安心してください。どちらかというと体質ですから」
「体質?」
「これもあくまで予想ですよ? それで良かったら説明しますけど……」
「それでいいから頼む」
「分かりました。とにかく進みながら話します。ジッとしてる時間がもったいないですし、お腹を満たせることも出来ません」
「そうだな。歩きながら話そう」
ユナの提案に従い、裕也は歩き始める。
裕也がユナと同じ位置に辿り着いてから、ユナも歩を進め始めた。
「えーとですね。まずは魔力の集め方について説明しますね。順番的にそちらからの方がやりやすいので」
「そこら辺は任せるよ」
「分かりました。この世界の住人は空気中に存在している微量の魔力を吸収して、体内に溜めるんです。人によって、その貯蓄限度はありますけどね」
「あー、なんとなく察することが出来たぞ」
「さすがですね。どうします? 答え合わせします?」
「そうだな。どっちが言うんだ?」
「んー」とユナは唸り声を上げた後、
「裕也くんの口から聞きましょうか。そうじゃないと答え合わせになりませんから」
時間を潰すことを考慮したのか、そう言った。
「分かった。じゃあ、答え合わせといきますか」
裕也もちょうどいい時間潰しになると思い、素直に了承した。
「あれだろ? オレがいた世界の空気中に含まってる魔力はこの世界よりも少ない。だけど、それを貯蓄出来ていた。つまり、それはオレの魔力収集能力がかなり良かったってことだ?」
「正解ですね。しかも、貯蓄量も元々多い。だからこそ、裕也くんの魔力量が増えてるんですね」
「貯蓄量も多いのかよ」
「元々と言っても、ある程度はあの世界で限界まで溜め込むという理不尽的状況のせいで、
少しだけ大きくなったりするんですね」
「理不尽的状況なのは否定しない。っていうか、普通の人と比べて何倍あるんだ?」
「んー、四倍ですかね?」
「また多いな!?」
「才能ですよ、才能」
「そうか、才能か」
「はい」
「今は才能よりも食い物が欲しい」
その発言と共に裕也のお腹は「ぎゅるるるるー」は鳴ってしまう。
そのお腹の鳴き声につられたのか、隣でも同様にお腹が鳴る音が裕也の耳に入る。
自然と裕也がその音が鳴った人物――ユナの方を見ると、恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。
――状況が状況だけにからかえないな。
自分自身も似たような状況のため、そう思っていると、
「わ、私は鳴ってませんから!」
と、ユナの苦しい言い訳が放たれる。
ものすごくそのことにツッコミを入れたかった裕也だったが、現状そんな元気もないため、
「そうだな。うん、分かってるよ」
そう言って、スルーすることしか出来なかった。
「ちょっと待ってください!」
そして、止まるユナの歩み。
「なんだよ、何に怒ったんだよ?」
スルーされたことが気に食わなかったのか、と思った裕也は、空腹から少しだけ沸点が下がっていたため、同じように不機嫌を露にしながら振り返る。
しかし、ユナのそのことに対しての不満が帰ってくることはなかった。それどころか、目を閉じて、耳を澄ませるかのように神経を集中させていた。
ユナの様子を見た時点で、何かに意識を集中させていることに気が付いた裕也の中から、怒りはなくなり、逆に緊張感が生まれていた。
「何か感じるのか?」
「はい。もうちょっとだけ静かにしてもらっていいですか?」
「ああ。すまん、声をかけて」
「大丈夫ですよ」
そう言って、ユナは口を閉ざす。
裕也もユナが口を開くまで、口を閉ざした。が、何を感じているのか分からない裕也は周囲を何度も見渡し、危険がないかを確認した。
こうして一分ほど経過した後、ユナがゆっくりと目を開け、
「付いて来てもらえますか? 危険はないんですが、なんかある箇所でずっと止まったままの魔力を感じるんですよね」
そう裕也へ尋ねる。
「ああ、だから止まったのか。本当に危険はないのか?」
「そう言われると分かりません。けど、一人しかいないので危険はないと思いますよ」
「一人、か……。オレたちは二人いるからなんとかなる……のか……?」
「なりますよ。私が魔法使えますし、裕也くんには『ACF』がありますから」
「……そんな自信満々に言われると行くしかないな」
「ありがとうございます」
ユナはペコリと頭を下げて、裕也に感謝の言葉を伝えた後、
「ちなみにそこにいる人は、子供みたいですから」
と、付け加える。
その瞬間、裕也はユナの頭を叩いた。それは意識してなどではなく、反射だった。
「いたっ!? な、なんで叩かれたんですか?」
「子供だったら迷子の可能性があるだろうがよッ!」
「おお! その可能性ありまし――じゃあ、急がないと!」
ユナは納得しかけると、即座に納得している場合じゃないと思ったらしく、走り始める。
裕也もその後を追い、走り始める。