紀行・舞鶴/洋上の貴公子、票的艦「旧護衛艦しらね」
票的艦というのは、老朽化した艦船を、演習用の的にするために改装したフネだ。東舞鶴港の真ん中に浮かんでいるのは退役・除籍して間もない護衛艦「しらね」だった。自衛隊OBが運営する遊覧船「あさなぎ」の解説員によると、解体スクラップ化した場合の純利益というのがわずか八〇万円だとかで、それならいっそ、昨今の騒がしい日本近海で演習をしたほうが効率的ではないか――となったのだそうだ。
「実は、私もこないだまで、あれに乗ってましてね……」
感慨深げに元自衛官がアナウンスした。
現役時代の護衛艦「しらね」は貴公子とでもいうべき自衛隊の華だった。
基準排水量五二〇〇トン、全長一五九メートル、幅一七・五メートル。一九八〇年に、海上自衛隊で最大の艦船として就航した。優美なデザインで知られ、各国要人をもてなす貴賓室まで備えていた。除籍は、二〇一五年三月二十五日、私が舞鶴を訪れる十日ほど前のことだ。
住友・日立といったグループ造船部門や、日本を代表する造船会社が合併に合併を重ねて出来上がったジャパン・マリン・ユナイテッド㈱。かつての海軍工廠は同社の造船所になっていて、ほどなく「しらね」はそこへゆく。
造船所には先客がいた。海洋汚染防止のための油抜き作業を行い、これからダーツの的のようなカラーリングをしようとするところだった。作業終了後、曳船に引かれて日本海沖合にゆき、実弾訓練の的となって海底に眠ることになる。……「しらね」は自分の番を従容と待っているのだ。
ノート2015.04.07/取材2015.04.07
票的艦改装を待つ「旧護衛艦しらね」 右舷から
票的艦改装を待つ「旧護衛艦しらね」 艦橋部分
造船所で票的艦改装中の退役艦




