読書/『大鏡』 ノート20160906
概要
前述した絵本・常光徹監修『日本の妖怪大図鑑 ①家の妖怪』において、大人気の陰陽師・安倍晴明関連書籍は『今昔物語』『大鏡』『宇治拾遺物語』からの引用だとの紹介があり、早速、書籍に目を通してみることにした。前回は『今昔物語』。今回は『大鏡』の紹介だ。
『大鏡』の構成は、中国の歴史書『史記』にならっている。司馬遷が著した『史記』は太古から著者の時代の天子・武帝までを扱った歴代王朝皇帝のエピソド集「本紀」、著名な諸侯のエピソド集「世家」、その他著名人のエピソド集「列伝」で構成されている。『大鏡』は古い時代を『古事記』『日本書紀』にまかせ、もっぱら平安時代の人物に的をしぼっている。そして本紀を帝紀とし、世家とすべきエピソドを列伝として扱っている。――それで各エピソドの合間に、大宅世継、夏山繁樹という平安最強貴族・藤原道長に舎人として仕えた百前後の長老たちがコメントし、たまたま居合わせた述者の男がインタビューするという形式をとる。
〈帝紀〉は、第59代・宇多天皇から第68代・後一条天皇までを扱っている。〈列伝〉は一門が骨肉の争いをしていた藤原冬嗣から、一門を統一した藤原道長までの、〝華麗なる一族〟藤原氏歴代大臣史を描いている。著者は最終回の道長に焦点をあてており、分量は当然そこが多くなる。
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所見
さて、われらがヒーロー・安倍晴明はというと、〈帝紀第65代花山院――若き花山天皇の出家〉で登場する。花山帝が在位のときの朝廷最高実力者は、藤原伊尹だった。花山帝は伊尹の孫だった。ところが伊尹が急死してしまったため、権力は弟の兼家に移った。兼家は懐仁親王の祖父だ。後ろ盾を失った一条帝は孤立し、若くして従弟に帝位を譲った。――兼家は、皇女三人を犯して次々と妻にするくらいの、妖怪じみた実力者で、欲しいものは何でも手に入れた。――若い天皇は暗殺される危険すらあり、引きずり下ろされるくらいなら、潔く引退するとなったわけだ。
サイコパスな兼家と、正室・藤原時姫の腹で生まれた四男坊が、この父親の子かと思われるくらい温厚な、のちの太政大臣・藤原道長だ。
サイコパスな宰相・兼家の三男坊を道兼という。道長の一つ上の兄だ。その人は恐怖の父親に命じられて、いやな役を受け持った。19歳の帝に譲位を迫ったのだ。花山帝を乗せた牛車は大内裏の北東にある上東門をでて土御門の通りを東へゆく。西洞院の通りと町口の通りとの十字路には天文博士・安倍晴明の邸宅があった。その前を通ると、式神が主に天皇退位の報告をしているところだった。――たった、これだけの記述であるのだが、天意を帝に告げたという点で、物凄いファクトになるのだそうだ。
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出典
『日本の文学古典編 大鏡 上・下』海野泰男訳 ほるぷ出版1986年――上が第1巻の帝紀、第2-3巻列伝で、左大臣冬嗣から太政大臣公季までを扱っている。下が第4-6巻列伝で、太政大臣兼家-太政大臣道長までを扱っている。このうち道長に関しては5-6巻に渡っている。安倍晴明の記述は先述したように第1巻の花山院のエピソドのみだ。
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ノート20160906




