読書/『今昔物語』ノート20160906
『今昔物語』
概要
前述した絵本・常光徹監修『日本の妖怪大図鑑 ①家の妖怪』において、大人気の陰陽師・安倍晴明関連書籍は『今昔物語』『大鏡』『宇治拾遺物語』からの引用だとの紹介があり、早速、書籍に目を通してみることにした。まずは『今昔物語』から、芥川龍之介の小説「鼻」「羅生門」、黒澤明監督の映画『羅生門』。荒俣宏の小説『帝都物語』、夢枕獏の小説『陰陽師』、それらのテレビドラマ、映画化作品群。はては中学・高校の教科書、試験問題と枚挙にいとまない古典だ。
『今昔物語』は仏教説話だ。信徒がお寺にきたとき、堅苦しいお経の合間にお坊さんがしてくれる面白いお話・落語のようなものだ。そのなかに仏教的なメッセージとか教訓がコンセプトとしてあるので、小説としても通用する。――そのあたりの事情は芥川龍之介がエッセイのような小品で熱弁を振るっている。
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構成
「天竺」「震旦」「本朝仏法」「本朝世俗」で構成される。「天竺」「震旦」「本朝」というのはインド・中国・日本の三国で、当時の日本人のもっていた世界観だった。
「天竺」編はあくびがでるのだが、それでも、印象深かったものもちょっとはあった。「微妙此尼の語」というのを挙げておこう。――「微妙」の語源となる尼さんのエピソドだ。素封家の亭主が本妻を追いだして若い後妻をもらう。本妻には子供いないのだが、後妻が美人だったものだから亭主が励みまくってすぐ子供ができてしまった。先妻は逆上して、留守の間に家に忍び込んで、継子の脳天に釘を撃ちこんで殺した。後妻はあんたがやったんでしょと詰め寄った。先妻はとぼけて、していませんよ、もしやったとしたら、転生したとき、嫁にいったら早死にする亭主を選んで、産んだ子はことごとく悲惨な死にざまをすることでしょう。そう宣言した。――先妻が転生するとその通りになってしまった。それで業を断つべく、お釈迦様が講義する、祇園精舎で修行し、マザー・テレサみたいな功徳をつんだ。それが微妙尼だ。――人々は微妙尼を称賛したのだが、ご本人は、前世の悪行と現世との功徳を足して二で割ったらゼロじゃない、天界に解脱できるかどうかは微妙ねといって笑ったそうだ。
つづく「震旦」は春秋時代の孔子、漢帝国の皇帝皇后の物語、「本朝仏法」は聖徳太子ほか日本の聖人・君子の話題となる。
「天竺」「震旦」「本朝仏法」ははっきりいってさほど面白くない仏教ファンタジーだ。そしておまたせ「本朝世俗」となる。われらがヒーロー、陰陽師の安倍晴明とか、武闘派の源頼光ファミリーが、鬼たちとやりあうのはここだ。――小説や試験問題の大半はここからの引用となっている。
「本朝世俗」ででてくる、巻24第24話〈玄奘琵琶、鬼のためにとられし語〉は源博雅が登場する。妖怪化して歩く琵琶を、弦楽の名手、源博雅がすばらしい演奏をしてやってなだめてしまう物語。――しかし小説『陰陽師』みたいに、親友役の陰陽師・安倍晴明は登場しない。安倍晴明は巻第24第16話〈安倍晴明、忠行に従ひて道を習ふ語 〉で登場する。――しかし私が手にした書籍は『陰陽師』ブーム以前の刊行書だったらしく、書籍には掲載されていなかった。ネットの〈青空文庫〉で現代語閲覧できるし、他で原文も読めるので、そっちで閲覧した。
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出典
『日本の文学古典編 今昔物語 上・下巻』小峯和明・森正人訳 ほるぷ出版1987年――上巻が「天竺」「震旦」「本朝仏法」、下巻が「本朝下俗」となっている。
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ノート20160906




