読書/神林長平 『戦闘妖精・雪風』ノート20160905
一口でいえばクールな物語だ。
学生の頃、「類は友を呼ぶ」というものか、周囲に、オタク軍団がおり、中には作家様になった人もいた。そういう人たちが、これが面白いと紹介した作品の一つが、『戦闘妖精・雪風』。
戦艦・巡洋艦・空母というのは国名や地名なのだが、駆逐艦というのは、なぜだか詩的でロマンチックなものが多い。陽炎型駆逐艦なんかは最たる例だろう。洋上をゆらめく夏の妖精・陽炎。それに対して、冬をゆくのは、雪風だ。
雪風は強運の駆逐艦で、戦艦大和の護衛艦としてその最後を見届け、戦後は大陸からの前線から復員兵たちを乗っけて日本に送還させたのち、中華民国海軍の艦隊旗艦となった。1965年に艦籍を離れて解体。軍艦としては老衰・大往生を遂げる。――雪風の全長は118.5mで2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』の怪獣の高さと同じだ。また、『宇宙戦艦ヤマト』では、異星人ガミラスとの艦隊戦で主人公古代進の兄・守が吹雪の木星衛星で艦と運命をともにした。――宮沢賢治の詩よろしく、雪原をゆく、雪女というか、妖精のイメージである。
『戦闘妖精・雪風』は、『ガンダム』『マクロス』『エヴァンゲリオン』といった派手さは全くない。だが早川書房1984年刊行された、神林長平著の短編SF小説。短編ながら、『SFマガジン』に1979年に初登場してから、現在に読み継がれる名作だ。
先日、古本屋をぶらついていたところ、バンダイビジュアルが2002年にDVDでだした同名のアニメ作品版・第01巻をみつけて購入・視聴してみた。――とても素晴らしい! ――ただ、私が読んだ段階での雪風はグレードアップしていて『戦闘妖精・雪風〈改〉』となり、それが原作となっているのだが。
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アニメの第一話でいうと、米国女性ジャーナリストが、海路で南極にゆく。そこに「超空間通路」というキノコのような雲の柱がある。――そのあたりの概況を説明する。
ネットが発達した近未来。人類ではなく、コンピューターに敵対心を持った知的異星生物が「超空間通路」を南極にこしらえて、地球に襲来した。エイリアンは、ばい菌を意味するものか、ジャムと名付けられた。――電磁的な情報生命体である、ジャムは、人間を、地球のコンピューターがこしらえた、兵器として考えていた。――勘違いである。
そのため、人間がつくりだす航空機を真似、はては人造人間までつくって対抗した。緒戦で勝利した人類はジャムから「超空間通路」を奪取。その先にある惑星フェアリーに前線基地を築く。そして、有能なはぐれ者たちを結集し、フェアリィ空軍 (FAF)を結成した。
主人公は深井零。戦術戦闘電子偵察機スーパーシルフ3番機・雪風のパイロットだ。人格障害があり、意志をもった雪風のみを信頼した。零の唯一の友人で上司ジェイムズ・ブッカーは薄々ジャムの正体に気づき、「この戦いに、人間は必要なのか?」と疑問を投げかける。そんななか、ジャムが地球側のものに擬態した戦闘機で、雪風に損傷を与える。深井零は救助されたと思いきや、ジャム側がこしらえた、人造人間たちによる空軍基地に捕えられ、雪風のブラックボックス・キーワードを教えるように迫るのだが、雪風が正体を見抜いてしまった。そしてジャム機の総攻撃で不時着したところを雪風は襲われ爆破されてしまう。その際、雪風は深井零を脱出させた。
――初版原作本では、唯一愛した機体が、俺たちネット生命体の戦いに人類は無用だと、慈悲にほっぽりだすのだが、アニメには、恋人を守るような愛を感じる。さらに敵基地で、深井零を介護したジャム側人造人間女性が妖精のようで美麗だ。しかも主人公を愛しているようでもある。
改訂版である『戦闘妖精・雪風〈改〉』及び、アニメ版第2巻では、その後、ジャムは人類に宣戦布告するのだそうだが、そのあたりは後日また楽しみに拝見するとしよう。
なお、2012年、ワーナー・ブラザーズから、トム・クルーズ主演 『ユキカゼ』映画の製作発表があったが、2016年現在、消息不明となっていることから、企画倒れとみている。ハリウッド実写版をいつかみてみたいものだ。
ノート20160905




