随筆/未確認生物 ノート20141004
未確認生物
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二〇一四年ハリウッド版ゴジラで、主人公怪獣ゴジラに食われる蜘蛛のような悪役怪獣ムートが、自宅からそんなに遠くないところでサナギをやっていたようだ。……いやパノラマにした風景には富士山と原発が映っていて東側からふかんしていたことと、職員が白人系でアメリカ人がいたこと、高層ビルや高架橋道路が密集した都市廃墟は第一原発周辺というか福島県自体ではない。するとだ、東京湾岸に臨んだ千葉県浦安あたりに外資系電力会社が原発を建てた設定か。なんてシュールなんだ。
前置きはこのへんにしておこう。
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さて東北・福島県だ。
いまでこそ高速道路・磐越自動車道が開通し、いわき-新潟間も三時間弱で着くようになったので、あまりい利用しなくなくなったのだが、昔日は、故郷のいわきから郡山経緯湯で会津方面にでるときは、磐越線を利用したものだった。
自分がかなり子供のころは、機関車が走っていて、それに乗ったのを憶えている。
「トンネルを抜けた後に窓枠に腕を置いちゃだめだ。服の袖が煤だらけになるからね」
と親に注意された。
単線でやたら待たされる上に、郡山で新潟ゆきに乗り換えなければならないので、いわきから会津にゆくのにも一日がかりだ。
海に突きでたいわき、そこから西にむかって郡山盆地、会津盆地と抜けるには、阿武隈山地と奥羽山脈を越えなければならない。
阿武隈山地は高原とおきかえるべきところで、なだらかな山間では、水田もあるのだが、台地の上では煙草の葉を栽培するか酪農をやっていた。そこを抜けると郡山盆地にでる。郡山はちょっと大きな町で現在は東北新幹線の駅がある。
現在、いわき駅と名称を変えた平駅で磐越東線の列車に乗り、郡山で乗り換えるとすぐに奥羽山脈を越えなければならない。トンネルは開削されていなかったので、中山峠という難所をスイッチバック方式という坂道を列車はジグザグ登坂してゆくのだ。
登り切ってから下り始めると、標高一千メートルのところで磐梯山の麓に広がる猪苗代湖が望める。戦前に皇族が建てた別荘・天鏡閣や野口英世博士の生家がある集落をかすめて城下町・会津若松に着く。そこから先の西会津を抜ければ新潟だ。
さて、本題の未確認生物だ。
とある冬。
兄弟で会津の親戚宅からいわきにかえるところだった。
一面は雪が積もって銀世界になっていた。
中山峠あたりだったか、あるいは阿武隈山地の山中の沿線だ。車窓から横をみると、谷筋に沿って群生する冬枯れした広葉樹のてっぺんに寝そべって猫科の生き物がみえた。
山吹色の短い体毛でやたらに長胴だ。全長は二メートル以上、立ち上がれば恐らく一メートル以上はあるだろう。脚や尻尾は長い。
突っ伏した格好で、前脚で押さえつけながら、なにか捕えた生き物を食べていた。毛皮からはみでた赤味の肉が生々しい。
横の路線は崖に突き出た橋脚のようなところにいて、そいつがこちらに飛び越えてくることはありえないように思えた。ゆえに自分たち兄弟はその姿をマジマジと観察することができたのである。
――豹というかチーター。あるいは幻の剣歯虎・サーベルタイガー。
目の錯覚。……いや兄弟二人でみたのだからそうではあるまい。
動物園から脱走したのか。……ニュースや新聞で大騒ぎになったはずだ。
個人が猛獣の子供を飼っていたのが大きくなって飼いきれなくなりこっそり山に逃がした。……一番リアリティーがある。
異界の蓋が開いたのか。……実際はどうかしらないが、これが一番面白い。
サーベルタイガーは、三百万年前から十万年前の氷河期に、南北アメリカ大陸に渡って棲息していた。全長三メートル、肩高一メートル強。上顎犬歯が発達して二十センチの三日月刀みたいな牙になっていた。狩で獲物をしとめるときにつかったのだろう、とされている。
昨今、アメリカの沼地跡でみつかった遺体は、興味深い事例だ。骨折して狩ができるような状態ではなかったのが数年生きていたようだというのだ。ということは、家族のような群れで行動し、怪我をして狩に参加できなくても、周囲がケアしてくれていたということを証明している。この個体は水を飲みにいったとき底なし沼の泥に沈んだのが死因のようだ。
サーベルタイガーがまだいた、三十万年前くらいあたりに、ネアンデルタール人が幅を利かすなか、ひっそりと現生人類が登場する。
こういうのはどうだ。
自分たち兄弟は、銀世界の峻厳な谷合に広がる冬枯れした森をみて、遺伝子レベルで氷河期の記憶を一時的に蘇らせて、奴をみたのではなかろうか。
あるいは。
SF的には開いた門から魂魄を飛ばしてタイムトラベルした。
カルト的には前世の記憶。
うむ、そういうことにしよう。(←なっ、なんだこの妄想オチは!)
そういうことにしよう。(←リバースしてんじゃねえ!)
END