随筆・ざっくり考古学08/初源期の船について
船を大別すると3種類の系統がある。第1は植物を束ねた筏の系統、第2は丸太をくりぬいたカヌーの系統、第3は獣の革を利用したカヤックの系統だ。
第1の筏の系統は、木材を紐で組むものもあるが、メソポタミア文明では葦船、エジプト文明ではパピルスを編んだものだった。いつごろ出現したのかはよく判らないが、次に述べる丸木船よりもつくるのは容易であろうから、それより古いものであろう。中南米インディオ湖上生活をしている部族も葦船をつかっている。メソポタミア・エジプトといった地域の筏系の船は、やがて、木材に素材が移り、板材を組んだ構造船に進化する。
第2の系統はカヌー、つまり丸木舟だ。1万年前から2万年前あたりに、斧の進化とともに、森林伐採が可能となり、木をくり抜いてこしらえたタイプで、世界中でつくられた。丸木船により交易がおこなわれるようになると、積載量を増やすために、船の上を箱で囲ったり、丸木船を2つ重ねて双胴船としたりした、準構造船に進化し、やがて、これも構造船に進化してゆく。日本の場合は、縄文時代にカヌータイプ、以降は中国の影響を受けて、弥生時代に準構造船、奈良時代にジャンク船タイプの構造船に進化する。
第3の系統はカヤックだ。これもいつごろかは判らないが、丸木舟をつくるよりも容易なので、起源は同じかそれより古いものではなかろうか。北極圏の狩猟民がアザラシなどの海獣の革を剥いで袋をつくり、内部に船材を突っ込んで形をつくる。これが構造船化したものが、中世に突如として出現して消えたバイキング文明のバイキング船だ。竜骨といわれる心材が船体底部を走っていて、そこにあばら骨のような整然とした梁を並べて固定し、外側に薄板を貼りつける。
さて。
いまから12000年前に氷河期が終わり、北極圏に近い氷河に覆われていた地域一帯は豊かな森林になるのだが、中近東・アフリカ・南米・オーストラリアなどの地域ではけっこうな面積が砂漠化進行する。この気候変動の影響か、オーストラリアやインドネシアにわずかに残っていた原人系種族は絶滅する。原人系種族は氷河期の最中、ユーラシア大陸とオーストラリアが地続きだったかそれに近いころに、歩いて移動してきた人々だ。
また後期旧石器時代、4万年前あたりに、中南米に、筏・カヌー・カヤック、いずれかのタイプで、アフリカから渡ってきた黒人系種族も12000年前の気候変動でだんだん勢力が衰えやがて絶滅したということだ。
そのあたりからほどなく、インドネシア地域にいた海洋民族が、星や風それに潮流を読みながら、オールをつかわない帆船タイプである航海カヌーを利用して、太平洋を横断してゆく。他方で、ベーリング海をどのような手段を用いたのか、モンゴロイド系部族が新大陸に移動してゆく。ベーリング海ではなく直接、モンゴロイド系部族が太平洋を航海カヌーで渡ったという説もある。
ポリネシア人の祖先が南米から海を渡って渡来したアメリカ大陸の先住民だという説に関しては、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールらが、1947年にマストを備えた大型筏で航海実験を行い成功を収めている。
同説に近い説で、彼の地では、日本の縄文時代の土器に類似したものが出土してくることから、全部ではないにせよ一部は、どうも日本列島の縄文人の血筋が、イヌイットやインディオあたりに流れているのではないかという説もある。このあたりはベーリング海を渡ったか、ポリネシア系みたいに、太平洋を渡ったのかしたのだろう。……いや、縄文人そのものがポリネシア系だったりして。
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