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もう一度妻をおとすレシピ 第5冊  作者: 奄美剣星(旧・狼皮のスイーツマン)
散文
5/100

随筆/おい、吉田。かつ丼食べるか? ノート20141007

   おい、吉田。かつ丼食べるか?

.

 昔の刑事ドラマをみていると、こんなシーンがけっこうあった。

「おまえがやったんだろ!」

「刑事さん、俺、やってなんかいない。信じて下さいよお」

 ――信じられないから事情聴取やってんだろ。

 とテレビの前の私は心の中でツッコミを入れる。

 しかし孤独な状態で複数の強面警官に囲まれた上、密室に閉じ込められた容疑者は心細くなってゆく。アリバイも証明できないし、どうしたって分が悪い。

 訊問する刑事が声を荒げる。

「ネタは上がってんだ。あのとき、おまえは駅にいた。目撃者だってちゃんといるんだ!」

 警官が、容疑者の顔に強烈なライトを当てる。

 顔を机にバンバンぶつける。

 ひいぃぃ。

 目の周り、口の周りに痣。頬のあたりが青膨れしている。

 トレンチコートの中年刑事が、急に猫なで声でいい、机越しに容疑者の男の肩に手をやる。

「おまえ、田舎にお袋さんいたよな。泣いてだぜ。吉田、おまえよ、いま吐いちまえば罪は軽いぜ。早くムショからでて、安心させてやれよ」

「うううっ、……刑事さん、俺、やりましたあ。殺す気はなかったんですう。カッとなってつい」

 ――殺す気がなかったらやるなよ。かっとなって殺されてちゃたまんないよ。それに、容疑者に吉田って気のせいか多いような気がするぞ。

 とツッコミを入れる私。

 手錠をかけられた両手が、机の上に置かれ、そこに涙が落ちる。

「そうか。おい、吉田。かつ丼食うか?」

 廊下に控えていたかのように、夜中だというのに、かつ丼屋の親爺が扉を開けて、

「へい、毎度!」

 といって、取調室のドアをノックもせずに開けて小走りしてきて、机の上に出前箱を置き、丼を置く。

 むさぼるように容疑者は箸で口に掻きこみ、幸せの極致、といった表情を浮かべて画面はフェィドアウトするのだ。

.

 さて、先日の村祭りで出会った元警察官の氏子さんにインタビューした続きのお話。

「あの、『おい、かつ丼食べるか?』って本当にあるんですか?」

「ああ、ありましたよ、昔は」

「いまはないのですね?」

「利益誘導の罪になるんで現在は禁止です」

 考えてみると、ライトで容疑者の目をあぶったり、髪の毛をひっつかんで机に顔面強打するのも拷問だから、現在はやらないのだろう。

 淡々と物証や証言を集め、同じことを容疑者にいわせて、食い違ったらそこにツッコミをいれる。……という手法で追い詰めるのだろうなあ。今度お会いしたら、そのあたりをまたきいてみようと考える私であった。

     END


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