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もう一度妻をおとすレシピ 第5冊  作者: 奄美剣星(旧・狼皮のスイーツマン)
チャーチル・ノート
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チャーチル・ノート/019 チャーチルの逆襲

「アランブルック大将、判っているとは思うが、英国が欧州に渡り、元気いっぱいのドイツとまともにやりあっても勝ち目はない。ならばどうするか。弱点を突きまわして、じわじわ弱らせ、しかるのちに一気に叩く」

「弱点といいますと、閣下?」

「判らんかね。同盟を組んでいるイタリアだ!」

 ドイツによる英国への大空襲、バトル・オブ・ブリテンが収束にむかう九月。

 参謀本部を訪れたチャーチルは、片腕であるアランブルック大将にそう話した。

 当時のイタリアは、エチオピア、イタリア領ソマリランド、エリトリアといった紅海に面した地域を東アフリカ帝国と称して植民地とし、イタリア国王エマヌエーレ三世を名目上の皇帝に担ぎ上げていた。

 イタリアのムッソリーニ首相は、一九四〇年六月十日に、枢軸国側に立ち連合国に対して宣戦を布告。英国が、バトル・オブ・ブリテンでドイツの猛攻を凌いでいる隙を突く形で、ケニア、スーダン、英領ソマリランドに侵攻し広範囲な地域を支配した。

 しかし一九四〇年十月に、新首相チャーチル指導の下に、バトル・オブ・ブリテンでドイツ空軍の撃退に成功を収めかけてきた九月。地中海において野心的な作戦が準備されていた。イタリア沖合いに地中海に浮かぶ英国領マルタ島から偵察機が飛び、イタリア海軍最大の軍港タラントの仔細な情報を手に入れた。

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 十一月六日。チャーチルの命を受けた英国海軍ライスター少将は、エジプト・アレクサンドリア港にいた空母三隻、戦艦・軽巡洋艦・駆逐艦それぞれ四隻からなる艦隊を率いてマルタ島沖に移動。十日になると、そこに、英領ジブラルタルからきた戦艦一隻を含む艦隊が合流した。

 艦隊全船のなかでも異彩を放っていたのが、空母三隻。……否、最新鋭空母イラストリアスだった。

 十一日十八時、マルセイユ沖からタラント港の沖合にむかって艦隊が移動。二十一時、タラント港の沖合二百七十キロ地点から、空母イラストリアスからソードフィッシュ雷撃機を飛ばした。

 ソードフィッシュ雷撃機は、胴体の下に長い魚雷一発を携えた複葉機だ。その第一波が十二機、第二波が九機の合計二十一機からなる攻撃隊は、戦艦三隻を撃破した。英国側の損害は雷撃機二機のみである。

 結果、イタリア艦隊の三分の一が失われた。英国艦隊は大西洋から地中海までの移動が容易になった。

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 続く、翌一九四一年三月二十七日から二十九日にかけて、地中海のギリシャ・マタパン岬沖において、地中海艦隊司令長官代理・カミンガム提督率いる英国・オーストラリア連合艦隊と、イアキーノ提督率いるイタリア艦隊との間で戦闘が行われた

 英国の戦艦・巡洋艦には、世界最高水準のレーダーが装備されており、それによってイタリア各艦艇の位置を割りだし、情報をもとに航空母艦の艦載機や、英国側の基地があるクレタ島から雷撃機ソードフィッュの攻撃隊を飛ばした。

 海戦には、英国側が、空母一隻、戦艦・軽巡洋艦各三隻、駆逐艦十七隻が、イタリア側が、戦艦一隻、重巡洋艦六隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦十七隻が参加した。

 英国側の損害が雷撃器ソードフィッシュ一機だったの対し、イタリア側は、戦艦一隻、重巡洋艦三隻、駆逐艦二隻というもの。英国側の圧勝だ。

 この戦いで英国は地中海の制海権を得ることになった。

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 一九四一年早々、巻き返しにでたチャーチルは、北アフリカ・エジプトに駐留する英国軍をつかって、イタリア領東アフリカ帝国を攻略。十一月二十八日にはエチオピア内の全イタリア軍が降伏する。

 これによって、ペルシャ湾岸にあったイギリスが支配している豊富な産油地域からの石油・安定供給が可能になった。

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 イングランド島の港を出発し、モントゴメリー将軍麾下の軍団兵員と戦車とをエジプト・アレクサンドリア港に降ろした英国輸送船団が、帰りの便でイタリア人捕虜十万を連れてきた。

マスコミが捕虜の様子を撮影し新聞などで報道すると、勝ち戦さを実感した国民の士気は高揚した。

 捕虜たちは反抗的ではない。農場に送られるととても真面目に働いた。

「友好的な捕虜は大歓迎だ」とチャーチルは側近にいった。

 そしてこのころ、ドイツが暗号作成につかっていた「エニグマ暗号機」の入手に成功。プレッチリー・パークに置かれた政府情報本部が、暗号解読に成功する。ドイツの情報は筒抜けとなり、英国側の反撃を有利にした。

 また、チャーチルは、ドイツ軍団がソ連にむかって東進していると指導者スターリンに打電し、恩を売る形で、味方に引き入れることに成功した。

 陸軍総参謀長となった片腕のアランブルック大将を首相公邸に呼んで、椅子を勧めたチャーチルがいった。

「イタリアは欧州のヴァギナだ。あそこから、ずぶずぶ奥深くに突っ込めば、ドイツ中枢部は激しくあえぐこと請け合いだ」

「なるほど」

 いささか下品なジョークだった。

 首相と総参謀長が腹を抱えて笑っていると、ドアを開け、珈琲を運んで部屋に入ってきた秘書団女性スタッフが、二人を睨みつけた。

「ドイツより手ごわいぞ」

 二人が同時に肩をすくませた。

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