掌編小説/妄想探偵事務所 『ソチ五輪・閉会式の怪』 ノート20140228
高速道路・東関東自動車道・千葉県富里インターチェンジ付近にはベイシアとかショッピングモールがある。学校卒業後、吹けば飛ぶような中小企業に就職し、ローンを組んで、都心から遠く離れた千葉県でも、「田舎だ」といわれているこの地に、ようやくマイホームを手にいれたのが、私・奄美であります。
私には平凡なサラリーマンの顔とは別な面があります。それは、自称「探偵」だということ。(←だからなんだよ!)
夜更け、いや早朝未明だというのに、中学生の娘・美咲と、リビングの長椅子に並んで座わり、無理して買った大型テレビを観ていたのでありました。
「美咲、いやはや、先日のソチ冬季オリンピックは圧巻・美しいの一言につきるねえ」
「こ、これは、1931年ナチス=ドイツによるベルリン夏期オリンピック大会を凌駕する芸術性。まさに歴史に残るアトラクションだわ!」
「え、君って百歳?」
「まさかあ。図書館にビデオがあったのよ。モノクロだったけれど、それはそれは美しかったわあ」
なんだ。そのとろけるようなまなざしは。危ないぞ!
テレビの画面のなかは、さながら、テレビゲーム『ファイナル・ファンタジー』が随所につかうCGムービーのよう。
選手入場のときのロシア士官学校の軍楽隊による太鼓とシンバルの演奏、ボリショイ劇場、マリインスキー劇場の二大バレエ団、それからボリショイ・サーカスほかのサーカス団員がつぎつぎと登場。フィナーレ―には盛大な花火が華麗かつ幻想的に港町につくられた、CG建造物をそのまま実体化したような競技施設群を彩ったのでありました。
さてさて、冒頭、アトラクションを紹介する縫いぐるみの熊を抱いた白いドレスの少女リュボフちゃんと、お友達たち赤服のお兄さんと青ドレスのお姉さんの二人が、森を駆け、メインスタジアムに宙吊りにされた髭の船長操る帆船に乗って、会場を展望するシーンがありました。
ロシア文化を紹介するアトラクションでは、芸術、ピアニスト、バレエ、文学、サーカスが紹介され、カメラは三人の子供たちを追ってゆきます。帆船に乗った三人は、各コーナーの会場で探検するように駆けまわったり、腰掛けたり、愛くるしさをふりまいています。
このとき、うちの愚娘がツッコミを入れました。
「ねえねえ、パパ、これって、収録じゃなくてライブよね?」
「そのはず」
「さっき、宙吊りした船から、スタジアム内のコートにでる時間がどう考えても早すぎないかと思ったの。逆に鏡にコートから船に乗るも早すぎるわよ」
「このトリックは!」
私と愚娘は目を皿のようにしてテレビ画面に釘づけとなりました。
しかし、このアトラクション、トリックの種明かしも、しっかりやっています。
黒子さんたちが巨大な鏡をいくつも会場に運んできて仕切部屋をつくったところに、三人の子供たちが飛び込むと、鏡部屋から巨大な熊やら猫やらの縫いぐるみが登場。その足元に三人が座って、会場観客に愛嬌を振る舞いましたが、そのとき、会場の天井を宙づりの帆船がまた漂っていました。するとそこにも、リュボフちゃんと、お友達たちがいるではありませんか。
――つまり、三人の子供たちは、コートと天井の双方に二組いた。二組の少年少女は遠目に背格好がよく似ていて同じ服装髪型だった。
そして聖火消灯のセレモニー。巨大な熊の縫いぐるみ(ミーシャ?)が、別れの涙をこぼしつつ火鉢の火を消すと聖火台の火も消え、花火が撃ちあがったのでありました。
ノート20140228
注意/
オリンピック以外の、舞台・登場人物は、すべて架空のものです。ここに登場する奄美および家族も著者の妄想世界住人です。その旨、ご了承ください。




