随筆/雪が好きなわけ ノート20141206
新潟県はナーバスなところがある土地柄だ。
外国工作員による日本人拉致事件やら、引き籠り青年による児童誘拐監禁事件やらがあった。
そのため、駅待合室のポスターに、
「子供が傷ついています、声をかけないでください」
というのがあったり、
郊外の集落を抜けて小学校前を通るものなら、
「許すな不審者」
というのがあったりした。
最初の駅待合室のポスターは広報機関によるもので痛々しい土地柄を示し、また、小学校前のポスターは怯える小学生を示している。
後者に至っては、
「不審者は怪しいというだけでまだ犯罪者じゃあるまい」
とツッコミをいれたくなる感じだ。
ところが。
西は逆巻く波の日本海、東は越後山脈。あたりが、刈り取られた広大な田圃に舞い降りた白鳥の群れが、雑草のようなものをついばんでいる、新潟市から山形市に北上する国道バイパスの路上を、通勤時間帯に所用車でゆくと、学生風のバックパッカーが歩道を歩いているのが目に入った。
特に注意するということなく、仕事仲間ときた所用車を、集落前にあるコンビニに立ち寄らせ、朝食を買ってまた走らせる。
するとだ。
コンビニから数百メートル離れたところで、パトカーが駆け付け、バックパッカーの青年が警官二人に両脇をつかまれ車内に引きずりこまれるのが目に入った。
「――ここじゃ、車じゃなく、歩道を歩くよそもんは不審者なんだ」
「出張できているわれわれもうかつに散歩なんかできたもんじゃない」
そんな話になった。
やがて一年が経ち、警察に補導されることもなく、無事に仕事を終えた。さらにそれから何年か経ち、また新潟県にきて冬になった。
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以前きたときの冬、大雪のため電線が雪の重みで切れて大規模停電になったことがある。
そのとき、スーパーやコンビニ、個人経営の店が一斉に店を開け、自家発電のほの暗い明かりのなかで、店員さんが電卓片手に食料品を売ってくれたのを思い出す。
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十二月六日。
初雪があった。
塩化カルシュウムは冬場にまく氷解材で日陰の根雪を溶かすパチンコ玉くらいの大きさをした白い塊だ。週はじめの大雨の後、大風が吹き、塩カルに似たアラレが落ちてきた。そして今朝、三十センチを超える雪になった。
宿舎にしているアパートは安部屋で部屋だけはけっこう広い。しかし雨やら雪になると、湿気を含んだ風が畳の隙間をぬけ、かすかに部屋に抜けてくる。ここのところ、エアコンはフル稼働。うちのガレージから天井裏配線工事用の蓋があって、風で開いていたので、洗濯棒で突いて直す。
朝七時、部屋で飼っている文鳥の巣籠を掃除して、近くの神社境内にあるゴミ集積所に、ゴミ袋をだしてくる。
アパートの駐車場には、小中学生・幼稚園くらいの子供が五人ばかりいて遊んでいた。
男の子と小さい女の子は人懐っこい。
年長のお姉さんは大人の男というものを警戒するような教育をされている様子で、挨拶をしても返さなかったものだが、同じアパートの住人で、無視するわけにもいかないので、「おはよう」と声をかける。
珍しく、返事が戻ってきた。
この土地に関して、雪の季節はちょっと好きになる。
ノート20141206