記憶の湖
どこまでも続く…真っ白な空間。
(今度は全て真っ白…。一体何なんだろう…?)
とりあえず前に進むありす。
(違うドアも見当たらないし…。)
ドアがあれば違う場所へ行けると思うありすは、歩きながらドアを探している。
しばらく歩くと、目の前に木の枠に付いたドアが見える。
(前に進むしか無いんだから!)
ドアに駆け寄り、ドアを開けるありす。
ドアを開くと、木の板に張り巡らされた階段に着く。
(あれ…これって、さっきまで降りていた階段…?)
白い空間に着くまで、ずっと降りていた階段と同じように感じたありす。
一つ違うのは、下はなぜか木の壁に遮られ上に階段が続いている。限りなく続いているように見える階段。
昇っていくありす。
棚には、様々なものが飾られている。
(あれ…どこかで見たような…。)
なぜか白い空間の前に見たはずのものを忘れているありす。
すると突然、上のほうから声が聞こえる。
「嬢ちゃん。そんなところにいたら、沈んじまうよ?」
ありすは見渡してみるが、姿は見えない。
「あなたは誰…?沈むって…?」
「海を通っていたら、下のほうに嬢ちゃんが見えたから、声をかけたのさ。」
「海…?ここって海の中なんですか?」
「ああ。嬢ちゃん、白い波の中で動いただろう?それで飲まれたんだろうよ。」
(ここが海?白い波…?)
ありすは何を言われているのかわからず、答えられない。
すると、
「もしかして、始めてか…?」
と半ば困惑ぎみの声が聞こえる。
「はい。どうしたらいいんですか…?」ありすは素直に答えると、
「まず…嬢ちゃんの名前を教えてもらえるかい?」
「時羽ありす…です。」
「ありすちゃんか。…まだ飲み込まれて間もないみたいだな。俺はマイクだ。」
「マイクさんですね。」
「いいかい、ありすちゃん。思い出して波…白い空間まで行くんだ。白い空間に着いたら、横になっていればいい。」
「思い出して…白い空間までですね。」
「ああ。そこは記憶の海だ。早くしないと少しずつ記憶をさらわれてくからな…。」
(えっととりあえず…戻ればいいんだよね…?)
今度は、階段を降りていくありす。
棚がある場所を通ると
(そういえば、これって…みんなわたしが気になったものばかりだわ…。)
と思いながら、壁で塞がれている所まで戻ってきた。
(行き止まりだわ…。この後、どうすれば戻れるのかな…?)
押してみたり引いたりしてみても壁はもちろん動かない。
(何か仕掛けとかないよね…。あっ…これって…。)
壁の周辺を調べてみると、蝶番を見つけたありす。
(ドアの部品…だよね…。
なんか、前にもあったような…。)
思い出そうとするが、なぜか頭にもやがかかったように思いつかない。
ありすは、困惑し下を向いた時に胸のネックレスが目に入った。
(このネックレスを見つけてから、こんなになったんだよね…。でも、ビーズでできた鍵じゃ開けられないよね…。)
とりとめないことを思っていた時に、思い出したありす。
(…って、鍵…ドア…。ああ…そうだったわ。)
蝶番から木の枠を目でたどり、枠全体を確認する。
(ということは、この辺だよね。)
枠にまるでドアがあるように手を伸ばし、有りもしないドアノブを回すように手をひねり、手を引く。
そして、中に入るように脚を前に出すありす。
前には壁があるはずなのだが、壁をすり抜けるように脚は抵抗なく前に着地する。
(成功だわ。でも、さっきの空間に戻れるかはわかんないけど…。)
ありすは、ドアの中に入っていった。
ドアをくぐった先は、何もない真っ白な空間。どうやら目的の場所にたどり着いたらしい。
(着いたら、横になるんだよね。)
床なのか地面かはわからず、硬さもわからないありすは、座ってみる。
(なんか…不思議な感じ…。でも、これなら寝そべっても痛くなさそう…。)
まるで水のようだが冷たさはなく、かといって沈まない。
ジェルのように、まとわりつかないし、隙間にも入る感覚もない。
安全かどうかはわからないが、溺れることは無いとわかったありすは、上半身を倒し脚をのばす。
(なんか…眠くなってきた…。)
目を閉じて意識が遠のく。
目を覚ますと、地面が砂っぽいことに気づき目がさめるありす。
上半身を起こすと浜辺らしく、上には青い空…前には小さい崖があり、上にいくつか建物が見える。「起きたみたいだな。ありすちゃん。」
後ろから、声が聞こえたので振り返ると、自分の背の半分くらいのネズミの背中が見えた。
「あなたが、マイクさん?」
訪ねてみると、頷くように頭が縦に振れた。
(マイクさんって、ネズミなんだ。まあ…色々あったし、驚かないけど。)
人間、慣れるものだ…と改めて思うありす。
「戻れて良かった。何人かここで沈んでるからな…。見てみるかい?」
「はい。」
返事をして、起き上がり後ろをむくと、穏やかな海が見える。
マイクの後ろまで来ると、
「ありすちゃん。ここから先は危ないからね。」
「はい。あの…ありがとう、マイクさん。」
「いいさ。人間の嬢ちゃんが海にいたのは珍しいからなぁ…。」
「そうなんですか…?」
「人間もいるにはいるが、公爵や王族だけで…俺らはめったにあわないからな。」
「そうですか…。」
「そろそろ家に戻るが、ありすちゃんも来るか?」
「えっと…。いいんですか?」
「ああ。家内も子供もありすちゃんなら、歓迎するよ。」
「では、お邪魔します。」
(マイクさん、家庭があるのね。この後どうするか考えないとね…。)
助けてもらったのもあるが、人柄も良く、ネズミだということも慣れたありすは、一緒にマイクの家に向かうのだった。




