~epilogue~
二〇二二年七月十六日。この日、日本中がテレビの前に釘付けになった。四年に一度のサッカーワールドカップにおいて、日本代表が史上初の決勝戦に進出したのだ。
その決勝戦、現在後半四十三分で一対一の同点。そしてボールを持つのは日本のエース、西条薫!西条は単独で相手ディフェンスを次々と突破していくーー
「ママぁ、香織もう眠いー」
三歳くらいの可愛らしい少女が、眠たげに目を擦りながら母親に寄り添っている。
日本のどこにでもある普通の家庭。ここでもやはり家族でサッカーを見ていた。
「もう少し頑張って。パパも頑張ってるから」
母親は娘をなだめながら、果敢にゴールへと攻め込む西条を固唾を飲んで見守った。
おっと西条、ゴール目前で敵ディフェンス三人に囲まれた!だがここは西条、冷静に敵をかわしてシュートを打ったぁ。キーパー届かない! 日本代表エース西条薫、後半四十四分で見事決勝点を叩き出したー!!
この瞬間、日本中が歓喜の渦に飲み込まれた。勿論先程の母子も。
「香織、パパが決めたわよ! ねぇねぇ見てた!?」
「もう、わかったから離してよぉ」
興奮で顔を紅潮させながらきつく抱き締める母親から逃れようと、娘が躍起になって腕をほどこうとしていた。
ともあれそのまま試合は終了し、日本は史上初のワールドカップ優勝という快挙を成し遂げた。
試合後のヒーローインタビューでの注目の的は、勿論日本のエース西条薫だ。
「あっ、パパだ!」
無事母親の腕から逃れた香織は、顔を綻ばせながらテレビへと張り付いた。
大量のフラッシュに囲まれながら、感涙にむせぶ西条薫がマイクの前に立った。
「俺は昔からずっとこのワールドカップに出場して、そして優勝することが夢でした。けれども一度だけ、その夢を諦めた事があります。高校一年の時、俺は交通事故に遇って生死の境を彷徨いました。何とか生還出来たのですが、今度は事故の後遺症に悩まされることになるのです」
会場内がどよめきの渦に巻き込まれた。だが西条はそれを気に止めず話を続けた。
「現在では無事その後遺症を克服する事が出来ましたが、当時はとても苦しみました。死のうと思ったことさえあります。
けれど、今は当時の事は全て必要なことだと思っています。お陰で彼女に再会出来ましたから」
若干顔を赤くしながら頬をかく西条の薬指が、フラッシュの反射で光った。
このインタビューをテレビで見ていた御門薫の、娘の香織を抱く手の薬指も、西条に共鳴するように光った。
二つの指輪は、二人の永遠の紡ぎの証。もう二人が彷徨う事はないだろう。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
この作品は昔、自身のアメブロで投稿していた作品(現在は削除済み)です。一話一話の字数があまりにも少なかったので、このような形式をとらせていただきました。