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翅蛾のヒーロー

 落雷が周囲の地面を吹き飛ばす。

 立ちこめる土煙が目くらましとなって、俺の姿を覆い隠した。変身時の隙を襲われないよう、敵が近くにいる場合にだけ自動で作動する安全装置だって話だ。

 イベントとかTVでは、変身シーンが見えないなんてあり得ないが、まあ実戦では、隙だらけでポーズとっているところを、見逃してくれる敵なんているワケない。

 また昨夜と同じように、体表面に稲妻がわだかまり、雷鎧ライ・アーマーがそこへ現れ、俺の体を覆っていく。

 積み込んできたサバズシ本体から、時空転送されているのだ。


「武装降臨!! うりゃあっ!!」


 先手必勝。

 相手のことはよく知らないが、たぶん百戦錬磨の忍者戦士。こっちは素人同然。

 昨日までおちゃらけイベントしか経験していない、ただの特撮マニアだ。

 とにかく、相手が俺の実力を知る前に、大ダメージを与える以外に勝つ道はない。と考えたのだ。ホラ、マンガとかでもよくあるだろ? 素質ある素人のラッキーパンチで、プロがのびちゃうシーン。

 俺は土煙が治まる前にさっさと印を組んで装着した武器を、いきなり振り回した。

 さすがサバズシ。俺の考えを読んでくれているみたいだ。

 降臨したのは長尺武器、雷矛サンダーランスだった。

 手元から十メートルまで伸縮自在。ただ、攻撃力は雷獣剣よりだいぶ劣るはず。

 相手はバケモノじゃなく人間。間違って、本当に殺しちまったらえらいことだしな。この年で人殺しになりたくはない。

 それに、見た感じコイツラは本物の本職っぽい。まあ全力で武器を使っても、怪我くらいで済むだろう、という計算もあった。五人のうち二、三人でも吹っ飛んでくれれば……と思っていたのだ。

 しかし、俺の思惑を軽く裏切って、振り回したランスには、まったく手応えがなかった。


(……下手な戦い方だな。まるで素人だ)


 囁くような声が耳元でする。

 イヤ素人なんスけど。などと思うヒマもなく、脇腹に強い衝撃を加えられて、俺は吹き飛んだ。


「が……がはっ……」


 雷鎧が全く役に立っていない。

 まるで体の芯にまで響くような痛烈な打撃に、俺は這い蹲ったまま嘔吐いた。


「ば……馬鹿野郎。サバ、お前先読みしてくれるんじゃなかったのかよ!!」


『敵の攻撃が早すぎる。今後情報は言葉でなく、刺激で伝える』


 その直後、背中に、突き刺さるような軽い電気刺激。そういうことか。

 吸えない息を無理矢理吸い、俺は地面を転がった。

 今、俺のいた場所に、棒手裏剣が連続して刺さっていく。

 おい待て、しかもその手裏剣、岩にも刺さってねえか。

 あんなもんに当たったら、雷鎧といえども無事で済むかどうかは分からない。

 俺は勢いを殺さないまま、一番大きな木の根元に転がっていき、その木を背にして立ち上がった。

 いくら素人でも、複数との戦いの定石くらいは知っている。

 相手にするのは一人ずつ。

 これで背中から襲われることはない。気をつけるのは前方の敵だけだ。っと思った瞬間、足首に電気刺激。だが、一瞬間に合わず地面から出てきた手に、両足を掴まれた。しかも続けて、頭のてっぺんに刺激。頭上からとどめってワケかよ。


 そういやこいつら忍者だった。まともなケンカの定石は通用しそうにない。

 俺は雷矛サンダーランスを地面に突き刺し、そのまま前に倒れこんで躱す。と、背中をかするように殺気が吹き抜けていった。間一髪である。

 息つく間もなく、両肩に電気刺激。刃が左右から降ってくる。それを雷矛ではじいて更に逃げる。

 さすが戦闘のプロ。凄まじい連続、連携攻撃だ。

 しかも、恐るべきことにウミニンジャーという連中、最初の名乗りの時以外は、俺の視界に誰一人として入ってこない。訓練された戦士、というのはこれほどのモノなのか。

 いくら戦闘頭脳の生サバがついているといっても、素人の俺では、避けるので精一杯。まったく太刀打ちできない。

 俺の武装の特徴までも調べられているのか、慌てて召還した雷空砲も剣も避けられた。

 万事休す。こうなったら……土下座して許してもらう意外にない。問題はどのタイミングで土下座するかだ。

 そう思った時。


『そいつはまだ早い』


 サバズシが言った。


「話し掛けんな。気が散って避けられねえ」


 コイツ、俺の思考読んでいるのか。


『いや、おまえの性格と状況分析による単なる予測だ。土下座しようとか考えていただろ?』


 図星。


『作戦がある。ちょっと痛いが、他に手はない』


 え? 痛いのはイヤだ。


『死ぬよりはマシだろう?』


「死?」


『コイツラの攻撃は容赦がない。殺す気なのはお前でも分かるだろ?』


「わかったよ。どうすんだ?」


『指示する通りに動け。まず、体力が尽きたふりをして動きを止めろ』


 その段階で、すでに俺は崖に追い詰められていた。動きは止めざるを得ない。

 体力が尽きたふりをする必要はなかったってワケだ。

 だが、何故かヤツらは襲ってこない。この慎重さもさすがプロ、ということなのだろう。


『いいぞ。今から新装備を呼ぶ。キーワードを叫べ』


 新装備?……そういや、昨日付けて貰ったばかりの新装備があった。

 考えってそれか……でも、あの装備って……。


『迷うな。呼べ』


「ち……地力招来!! 雷獣神!!」


 俺のかけ声と同時に、地面から稲妻が立ち上がる。

 俺の乗機ファミリアー、サバズシからもう一つの武器を呼んだのだ。周囲の敵を近づけないための、異空転送エネルギーによる落雷である。

 いやでも、この先どうしろってんだ? 土煙に紛れて逃げろってことか?


『いいから動くな』


 サバズシがひそひそと囁く。


『この目くらましがさっきと同じ程度のモノだ、と思いこんでくれれば勝機はある。むろん、雷鎧が耐えてくれればだがな』


 え? え? どういう意味だ?


(馬鹿め。新兵器のつもりか? 隙だらけだ!!)


 耳元で囁くような、ウミニンジャーの声。完全に読まれてない?

 必殺の気合いが迫るのが分かる。

 土煙の中で棒立ちの俺に、ウミニンジャーども全員の刃が叩き付けられた。


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