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烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)  作者: はくたく
第二章 初めての戦闘 
5/28

公民館

「何だったんだ……いったい」


 ようやくある程度の事は分かってきた。

 とはいえ、現実として受け入れるには、どうにも突飛すぎる。

 彼等の言うことが全くの嘘っぱちではないことは、あの巨大笹寿司とおまつさんの能力を見れば分かる。何より俺は昨日、そのイーヴィルとかいう連中の手先を倒して……あれ? ってことは俺がリアルで『イナヅマン』だってのは、夢でも間違いでもないわけだよな……

 だが、一向に『我が地域のサポートチーム』とやらから連絡がないのは何故なんだ?

 あいつら、認識が無いだのレベルが低いだの言いたい放題言ってくれたが、そんなもん、説明されなきゃ分かるわけないだろ。

 俺は猛然と腹が立ってきた。

 おまつさんはたしかに俺好みの美人だが、その辺をきちっと理解させて、謝らせなければ気が済まない。

 俺は通学用自転車に飛び乗ると、稲津町公民館、すなわちイナヅマンの本部基地へと向かった。




「え? 何コレ……」


 国道×××号線を横目に、田植えが終わったばかりの水田地帯を抜けてやって来た稲津集落。

 そのほぼ中心部にそびえているはずの、無駄に立派な公民館は……瓦礫の山と化していた。

 突然、肩を叩かれて俺は我に返った。どうやら自転車に跨ったまま、数分間そこで固まっていたようだ。

 人間、本当に驚いた時は、何も出来なくなるものらしい。


「堤君……来たのかね」


 振り向くとそこには、見知った顔が立っていた。

 企画打ち合わせからイベント作業まで、ずっとイナヅマンをプロデュースしてくれた公民館長だ。役所のOBらしいってことくらいしか知らないが、なにかと気を使ってくれる上に気前もいいので、俺も気安く話させてもらっていた。


「館長。これは一体どういうコトなんです!?」


 館長は哀しげに頭を振ると、思いがけないことを言いだした。


「残念だ。伊志河県に続き、この腐杭県までもヤツらの手に落ちようとは……」


「ヤツらって……あの、悪魔みたいな連中のこと、やっぱ館長も知ってたんスか!? どうして、ヒーローの俺にそのこと、教えてくれなかったんス!? それに、手に落ちたって……俺はまだ負けてません!! むしろ昨夜は……」


「いや。腐杭のヒーローは既に負けたんだ」


「だから!! イナヅマンはまだ――――」


「イナヅマンは当地のヒーローでは、ないんだ」


 は? 俺は館長の目を見たまま凝固した。

 何言ってんだこの人。俺はご当地ヒーローとして選ばれたはずで、ずっとそのつもりで活動してきた。そりゃ、本物だなんて思ったことはないが、昨日は変身もしたし、武器も使えた。

 何より、おまつさんもササズシも、おれを適格者ヒーローと呼んでいたではないか。


「違うんだ。本当のヒーローは別にいた。だが、彼等はあまりにも一般ウケしないヒーローだったから、君に表の顔をやってもらっていたんだ」


「表……?」


「これが、当地の真ヒーロー……ヘレンボイジャーだ」


 うわあ。何コレ。

 館長がスマホに映し出した画像を見て、俺は全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった。

 そこに映っていたのは……五体の怪人、いや怪物の姿だったのだ。濁ったような緑に、黄土色のストライプ。全身がぬめったように光り、目も鼻も耳もない。口と思しき部分からは透明な粘液を垂らし、五人とも這いずるような姿勢からこちらを向いて……。

 あ? コイツら!?

 暗がりだったから、ディテールはよく覚えていないが、あまりにも似ている。


「あの……コイツら……いえ、この方達ってもしかして……」


「分かっている。君が……いや、君達が昨夜、倒したそうだね」


「まさか……彼等が本当のヒーロー?」


「そうだ。だが、気に病むことはない。あの時点で彼等は既に敗れ、ダークネスウェーブの尖兵と化していたのだから」


 いやまあ、敵でも味方でも、キモイ事には変わりはないが。

 申し訳程度に短い手足がついた、あまりに怪物じみたこの姿は……水田でよく見かけるヒルに雰囲気がよく似ていた。


「ヘレンボイジャー……ヘレンボって……まさか?」


 ヘレンボ、とはこの辺の方言でヒルのことなのだ。


「そのまさかだ。吸血変神ヘレンボイジャー。彼等五人は、チスイビルの戦士だったのだ」


「どどっ……どうしてそんなもんをモチーフにッ!? デザイン変えればいいやないですかっ!?」


 しかも吸血って……たしかにそんなもん、ヒーローとして表に出すことは出来ないだろう。


「そうか。君はまだ何も知らんのだったな。いいかね。何がモチーフになるかは、こちらで決めることは出来んのだ。ヤツらが境界面ボーダーを越える時に破壊されたこちらのモノが再構成される際に、周囲の生物や器物、場合によっては人間にまでも取り憑き、その敵に対応した強力な戦士を産み出す……それがご当地ヒーローなのだよ」


「へ? でも、俺のイナヅマンは……」


「たしかに君がデザインした。それは間違いないのだが、あの烈空装甲アーマーの基本機能は、ヘレンボイジャーの乗機ファミリアーである、サワガニーのコピーなのだ」


「さ……サワガニ?」


 サワガニってアレか? あの、山の方で谷川の石ひっくり返すといる、あの小さいカニのことか?


「うむ。サワガニーを立花君が複製し、君のデザインしたスーツに、その機能を付加した。だから大した攻撃力は持たないし、防御力も無いに等しい。無力、というわけではないが、実際に戦ったりしたら殺されるだろうから、君には黙っておいたのだ」


 主人公のはずの俺が完全に蚊帳の外だった理由が、これでようやく理解出来た。

 主人公は他にいたわけだ。そして俺は、偽物ってわけではないが、本来のヒーローじゃない脇役ってワケだ。


「ででで……でも……昨夜の俺の攻撃力は、すごかったッスよ? 本当のヒーローを倒せちゃったわけで……何でなんです?」


「そうだ。ヘレンボイジャーは全滅した。君の攻撃を受け、ただのチスイビルに戻ってしまったのだ。そして、イーヴィルの群れに襲われた本部基地もこの有様だ……」


 館長は跪き、悔しそうに瓦礫の上に手を置いた。

 それにしてもチスイビル……って……あのどう見ても怪人にしか見えない“本物のヒーロー”達は、人間ですらなかったらしい。


「ヘレンボイジャー達は、敗北の瞬間、君に……イナヅマンにすべてを託したのだ。」


「……託した?」


「そうだ。イーヴィルの総攻撃を受け、敗北し、ヤツらに操られるしかない、と分かった時、ヘレンボイジャー達は、悪に利用されるよりは、とブライトネスパワーをすべて、君の雷鎧ライ・アーマーに異空転送したのだ」


「……じゃあ……あいつら、自分のパワーで自分たちを……」


「そういうことになる……な。敵の手先として生き延びるより、君という希望を残したかったのだろう」


「どうしてこんなコトになっちまったんです? いきなり二県のヒーローが負けちまうなんて」


「分からん。だが、これまでヒーローが負けた例は数多くあるが、大抵の場合は隣地区のヒーローやサブヒーローがフォローして敵を倒してきたのだ……」


「その隣県がやられてんでしょ? じゃあ、反対側の偽婦県か翅蛾県のヒーローにでも助けを……あ!! そうだ。おまつさん、知ってます?」


「トシイエイザーのヒロインだな。彼女がどうした?」


「昨夜ウチに来て、助けてくれって……襲ってたのがヘレンボイジャーだったんスよ。で、俺、イナヅマンに変身して助けたんスけど、朝になったら、別のご当地ヒーローんとこに行くって飛び出しちまって……」


「バカな。彼女一人でだと? 何で止めなかったんだ」


「でも、ササズシとかって、めちゃ強い機械ロボットに乗っていきましたし、事情には詳しそうでしたよ?」


「ほう、トシイエイザーの乗機ファミリアーは無事だったか……しかし、危険なことには変わりない。堤君、いやイナヅマン。彼女を助けに行ってくれんか?」


 俺は顔の前で全力で手を振った。


「冗談じゃないッスよ。何で俺があんなクソ生意気な女を助けに……」


「彼女が死んでも……かまわないかね?」


「……死? まさか……」


 俺は言葉を詰まらせた。

 脳裏におまつさんの姿が蘇る。

 たしかに口が悪く、高飛車で、人の話を聞かないイヤな女だった……だが、死ぬってどういうことだ……そういえば、倒された伊志河県のトシイエイザーとかっておまつさんの相棒は……死んだってコトなのか?

 あの高飛車な態度も……恐怖を誤魔化すため、精一杯虚勢を張っていたんじゃないのか。

 大切な相棒パートナーの死。知らない土地で敵に囲まれ、疲労で倒れそうになりながら、細い足で踏ん張って立っていた彼女。

 肝心の俺は頼りにならず、やめるとか言い出す始末。

 そして、あの時、こぼれ落ちた……涙。


「腐杭と伊志河、両地区のヒーローがいなくなった今、君達が力を合わせる以外に、この地方を守る方法は……ない」


「あいつが言ってたように、よその県のヤツに助けてもらえないんスか?」


「現状、まったく連絡の付かない地区が複数ある。連絡がついたところも戦闘中とのことだ。おそらく日本全国が一斉攻撃を受けたのだろう。地域は地域で守るしかないんだ。それに、のこのこ行ってもし、敵に操られているヒーローに騙し討ちで殺されてしまうかも知れん」


「殺す……って、いったいヤツら何なんです? 何の目的でこの世界を侵略してくるんスか!?」


「ヤツら……ダークネスウェーブが、この世界を侵略してくる理由……それはな、人間を食うためだ」



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