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烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)  作者: はくたく
第四章 株式結社 ゲル・ファーザー
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ゲル・ファーザー・ガーデン


「へええ……ここ、いいとこですねえ、敬太郎さん」


 小鮎ちゃんは、このゲル・ファーザー・ガーデンがいたく気に入ったようだ。

 案内されたのは、製品開発部のあるビルだった。だが、その建物自体が美しい芝生と花壇に囲まれているのだ。ゲル・ファーザーという会社そのものが、雑木林の中にあり、農園や蕎麦処、美術館まである。驚いたことにおみやげ屋もあって、ゲル・ファーザー印の健康食品や農産物が販売されていた。


「シルキー・ゲル……さん? これ、どういうことです? これが悪の組織?」


「我々は、名蛾野特産のトロロアオイを栽培しておりまして、それから採れるゲル状物質を利用しての世界征服を企んでいるのです」


 人間型に戻ったシルキー・ゲルは、見たところ二十代半ばの女性だった。背筋のぴっと伸びた美人であり、笑顔も爽やか。その口から世界征服の言葉が出てきても、どうもイマイチ実感が湧かない。


「それは設定上でしょう? やはり、ヒーローと協力してイーヴィルを倒していたんじゃ……」


「いえ。我々は本気で世界征服を狙っております。イーヴィルは邪魔なので、むろん退治しておりましたが、ザザムC殿とも、けっこう本気で戦っておりました……」


 説明を受けながら歩いていくと、美しい花壇に囲まれた白い建物から、グレーの作業服を着た背の高い男性が現れた。四十代半ばと見えるその男性は、こちらに気付くと、途端に笑顔になり、軽く手を上げて駆け寄ってきた。


「やあやあ、聞いておりましたよ。あなた達が、イナヅマン・チームですか。思ったよりお早いお着きで。てっきり、屈強な警察官がいらっしゃると思っていたのですが、これほど美しい方達だとは……」


「当社の専務です」


 シルキー・ゲルが耳打ちしてくれた。

 専務は、名刺を配り始めたが、あいにく俺達は名刺など持っていない。そういえば、そもそも立花おやっさんから、隠密行動をとるように言われていたんだった。

 だが、もうおまつさんが変身して名乗っちまったし、この期に及んでウソも言えない。俺達は、それぞれ自分の名前を言って頭を下げた。

 名刺の肩書きはたしかに専務取締役だが、驚いたことに名前には『ゲル・ホッパー』と書かれている。

 目を白黒させている俺達に、ゲル・ホッパー専務は笑って言った。


「はっはっは。驚かれましたか。我々は怪人名とビジネスネームを統一しているのですよ」


「ビジネスネーム?」


「ご存じありませんか。ビジネスの際の名前を本名以外に設定し、仕事上はその名前で通すのです。大手の建機レンタル会社が有名ですがね」


 なるほど。だがこれでは、この専務が一体何者なのかサッパリ分からない。


「あ、本名は裏に書いてありますよ。津久田稲吾と申します。私もヒーローの光持ちでして……ホッパーはバッタのこと、つまりイナゴの怪人なのです」


「そういえば……聞いていらしたんですか? 我々のことを……」


「はい。腐杭県は、普通人でもイーヴィルに対抗できるスーツを開発したと連絡がありました。いつになるかは分からないが、生産が出来次第、装着者とともに派遣する、と」


「そ……そうです。それで我々は派遣されたのです」


 そういうことにしておいた方がよさそうだ。

 たしかイナヅマンシステムは、今のところ北陸三県に配るので精一杯のはず。どうせ、一日や二日でバレはしないだろう。


「良かった。まさにグッドタイミングですよ。ここしばらく苦戦続きで、幹部も何人か倒されてしまっているので、ヒーローどもの猛攻をしのげるかどうか、心許なかったのです」


「攻めてきているヒーローの名前は分かりますか?」


 小鮎ちゃんが、手元に取り出したタブレット端末に、検索画面を表示して聞く。


「渓流王ザザムC殿以外は、皆目分かりません。こちらの怪人は倒される一方で、ヤツらの姿すら……ただ、当社の幹部クラスまで葬られたことを考えると、複数の他県ヒーローが来ている事は間違いないでしょう」


 ゲル・ホッパー専務は、深刻な表情で言った。

 おまつさんも小鮎ちゃんも、辛そうに目を伏せる。その中にトシイエイザーとウミニンレッドがいるかも知れないのだ。


「この一週間、ここゲル・ファーザー・ガーデンを拠点として、我々は否市を守り戦ってきました。見てください」


 ホッパー専務の広げた市街地図には、赤い線が引かれている。なるほど、否市の殆どはゲル・ファーザーの支配下の印の赤で塗られているが、山岳地帯の一部だけ、青で塗られた部分がある。どうやら、それがイーヴィルの勢力圏ということらしい。


「あんたら、大組織なんだろ? この程度なら一斉攻撃で潰しちまえば………」


「とんでもない。当社の社員数は二百人程度。しかも、その半分は普通の人間です。向こうは夜叉猫と百鬼猿だけでその倍はいます。しかもこの向こうは隣の市。沫元市です。そちらはすべてイーヴィルの勢力下なのですよ? 真っ向勝負したら、攻め滅ぼされるのはこっちです」


 夜叉猫……あの悪魔みたいなバケモノか。察するところ向こうの下っ端怪人ってところなんだろうが、それに百鬼猿? 相当強そうだな。待てよ。沫元市が敵勢力圏って事は……


「なんだって!? じゃあ、俺達は敵のど真ん中を通ってきたワケか? だけど、そんな気配は全然……」


「当然でしょう。ヤツらもバカじゃない。パニックにするより、少しずつ必要なだけ人間を食い、こちらの世界をイーヴィルの世界に置き換えていく……見た目何も変わらないようですが、すでに県の上層部はそっくりイーヴィルに置き換わっています」


 なんてことだ。


「もしかして日本中が……?」


「わかりません。ヒーロー同士の連絡は全く付かない状況ですし、我々、ゲル・ファーザーの情報力も、名蛾野県内が精一杯ですから……」


「で? 力を貸して欲しいってのは、どういうこと? 作戦があるんでしょ?」


 おまつさんが、腕組みをしてゆっくりと聞く。おお、こうなるとさすがに頼もしい。


「はい。じつは明日、この沫元市で『りんご祭り』があるのです。りんご祭りは県内外から多くの観光客が詰めかけるイベント。イーヴィルにとっては重要な『狩り場』となるに違いありません」


「つまり……そこにヤツらの主力が集中する、というわけね?」


「はい。それに乗じて、このイーヴィルの勢力圏。ここに我々が攻撃を掛けます」


「それじゃあ、何も知らない市民をおとりにするってわけ?」


 ホッパー専務を睨むおまつさんの鋭い目が、怒りで熱を帯びた。


「いえ。拠点に攻撃を掛けるのは我々、幹部怪人の数名だけ。りんご祭り会場では、一般市民に化けた戦闘員が正午を合図に一斉に正体を現し、市民を会場内の体育館に保護します。あなたたちヒーローには、そこを死守していただきたい」


「ちょ……俺達三人で、ヤツらの主力を迎え撃てってんですか!?」


 しかも、体育館みたいな大きな建造物を守る。となると、三人ではキツイ。


「びびんないの。ちょうど良いハンデじゃない」


 うーむ。おまつさんは頼もしいを通り越して、少々無謀だ。

 とはいえ、決戦が日中ならイーヴィルは出てこないはず。相手はまた操られているヒーローってことになるワケか。それなら、数は大したことないかも知れない。


「いえ。あなたたちだけではありません。ザザムC以外の地元ヒーローは健在ですから」


「へえ? 名蛾野じゃあ他に何人もヒーローがいるの?」


「はい。アップルレンジャーの六人、魚籠鳥居びくとりいローメンマン、聖女ラ・フランスの八人が、今回の作戦に参加してくれる予定です」



***    ***    ***    ***



「どう思う?」


「どうって……頑張るしかないんじゃないですか?」


 突然聞かれて驚いた俺は、目を白黒させながら答えた。

 ここは、ゲル・ファーザー・ガーデンの喫茶室である。ハーブティーを淹れてくれたシルキー・ゲルさんが、席を立った隙に、おまつさんがヒソヒソと話しかけてきたのだ。


「鈍いわね。この作戦、あいつら、本当にイーヴィルを倒すだけが目的なのかってこと」


「そりゃあ、世界征服が本来の目的だって、堂々と言ってましたけど……」


 それだけに、卑怯なことはしそうにない、というのが俺の感想だった。

 サービスエリアの売店のおばちゃんが、大爆笑しつつ話してくれた理由も、おおよそ分かってきていた。

 ゲル・ファーザーという組織は『秘密組織』なんかではないのだ。

 基本的に非合法な活動はしていないようだし、表向きは……というか、普通に営利法人として認知されている。ちゃんと『社是』として、世界征服まで掲げられているほどだ。

 地元民は、これらをほぼネタとしてしか見ていないわけで、その組織が否市を支配下に置いた、なんて状況も、少しブラックジョークの効いた企業キャンペーンくらいにしか捉えられていないわけだ。

 だが、おまつさん的には『悪の組織』である。というだけでも、拒否感があるらしい。


「来たばっかりのあたしたちに、あんな大事な作戦をさらっと喋っちゃうとこなんか、めちゃくちゃ怪しくない?」


 まあ、言われてみればそうかも。

 でも、彼等のフレンドリーな対応見ていてそんなこと考えるなんて、おまつさんて頭がいいっていうか、猜疑心が強いというか……。


「もしも……もしもよ? ゲル・ファーザーがイーヴィルと結託していたら、あたし達は市民を捕獲する手伝いをすることになりかねないわよ?」


 たしかにそういう考え方もある。そう思ったのか、小鮎ちゃんまでも少し心配そうな表情になって言った。


「そもそも、イーヴィルは太陽に弱くて夜間しか動けませんよね? だから倒したヒーローを操ってるんでしょうけど、もしゲル・ファーザーみたいな組織が味方に付けば……」


「でも、シルキー・ゲルさんと交信してウソじゃないって判断したの、おまつさんでしょ?」


 そのことがなければ、俺だって怪人や黒ずくめの戦闘員を信用したりはしない。


「そうよ。彼女がウソを言っていないことは事実。でも、彼等が一枚岩とは限らないでしょ。上層部にイーヴィルの息が掛かっていたら、どうすんの?」


 そうか。だとすれば、かなりまずい状況だ。


「どうします? 明日の作戦……」


「とりあえずは、乗るしかないわ。でも、用心するに越したことはないってこと」


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