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烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)  作者: はくたく
第四章 株式結社 ゲル・ファーザー
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シルキー・ゲル


 ひだまり御膳は実に美味だった。

 俺はおまつさん達の分を奢ろうとしたんだが、頑なに拒否られてちょっとショックではあったが。

 おまつさん曰く


「お金の関係とかそういうの、きちんとしとかないとイヤなの」


 だそうだ。そのお金も、立花さんから当面の軍資金として数十万ずつ渡されたものなのだが、後できちんと返すと言い張っているくらいだし。

 そのくせ、小鮎ちゃんの分はおまつさんがこっそり払ったの、知らないとでも思っているのだろうか。まあ、俺に心を許してないって意思表示なんだろうな。当たり前ッちゃあ当たり前か。


 さて、俺達はそのサービスエリアで、さっそく情報収集を開始した。

 ヒーロー不在の名蛾野県。必ず不穏な噂が聞こえてくるはずだと思ったのだが、おまつさんと小鮎ちゃんが聞きつけてきた情報は、耳を疑うものだった。


否市いなしは、悪の組織に占拠されてるって話なんですけど……本当なんでしょうか?」


 売店のおばさんが、何故か大笑いしながら教えてくれたらしい。


「分からないけど……その割に、べつにニュースにもなってなさそうだし……っていうか、不愉快。なんで質問したあたし達が大笑いされなきゃいけないわけ?」


 おまつさんはえらく憤慨している。どうやら、自分のヒロインっぽい紅白の衣装を笑われたと思っているらしかった。


「まあまあ。おまつさんのことを笑ったって感じじゃなかったですよ。あれ、たぶんその悪の組織が笑えるんですよ」


「何それ? 悪の組織が笑えるって……聞いたことないよ?」


 おまつさんの不満そうな表情は変わらない。


「否市ですか……ここからだと、だいぶ南の方ですね。とりあえず他に情報がないんです。とにかく否ICで降りてみれば分かりますよ」


「でも、占拠されてるって話なのよ? 危険じゃない?」


「おばさんが大笑いしてたってことは、それほど危険じゃないってことじゃないですかね?」


「そりゃそうだけど……」


「まあ、とにかく行ってみましょう。危険そうならサバズシも何か言ってくれるはずです。な?大丈夫だろ?」


『まあ、今のところ、危険だという情報は出ていない』


 それまでずっと黙っていたサバズシがしゃべると、小鮎ちゃんが歓声を上げた。


「きゃー!! はじめまして!! あなたがサバズシさん?」


『そうだ。あ、イヤ違った。私はサヴァズシ。Superior Absolute Variable And Zoological Utility Sacrifice High Spec Interceptor つまり、SAVAZUSHIだ』


 こんな喜ぶんなら、もっと早く話しかければ良かったな。


「どうしてずっと黙ってたんだよ?」


『私はこのボディの制御コンピュータだ。戦略・戦術時などの必要時以外に、無駄な会話はしない』


 ああそう。ま、いいけど。

 何やら急に話が弾み始めた、小鮎ちゃんとサバズシの掛け合いを聞きながら、オレ達は一路、否ICへと向かった。



***    ***    ***    ***



「今度はETCレーンでいいんだな?」


『何を今更。高速に乗る時大丈夫だっただろう?』


 だが、そう言いつつくぐろうとしたETCゲートは開かなかった。通り過ぎるつもりでいたオレは慌てて急ブレーキをかけ、おまつさんと小鮎ちゃんが悲鳴を上げる。

 徐行していて助かった。


「何やってんのよ!! もう少しでハンドルに顔面ぶつけるとこだったじゃない!!」


「す……すみません!! でも聞いてたでしょ!? コイツが……サバズシが大丈夫って……」


「機械のせいにするんじゃないわよ!! ちゃんとカード入れてあんの!?」


 カードはちゃんと入っているし、ゲートには料金表示も出ている。

 だが、いつまで経ってもゲートバーだけが開こうとしないのだ。そう混んでいる料金所ではないのだが、後ろに何台か乗用車も並びはじめて、オレは焦った。 こういう時は係員を呼ぶしかない。

 オレは機械に付いているインターホンのボタンを押した。


「どなたかいませんか!! なんか、バーが開かないんですけど!!」


『あー。すみませんねえ。おたく達、当社の基準に引っ掛かっちゃったみたいで。今すぐ担当がまいりますから、少々お待ちください。』


「……今、なにか変なこと言ってませんでした?」


 振り向くと、小鮎ちゃんがきょとんとした顔をこちらに向けている。

 たしかに。当社基準とか何とか言っていたが、高速のゲートをくぐるのにそんな基準が必要だとは聞いたこともない。

 

『お待たせしました~。ヒーローさん二名ですね~』


 妙なアクセントでくぐもった声を出しながらやってきたのは、茶色い体を黒と灰色の装甲で包んだ、地味な印象の……怪人だった。

 あっという間に俺達は、数人の怪しい連中に取り囲まれてしまった。それにしても、全身黒タイツにガイコツ状の白い紋様って……おきまり過ぎる。


「イー!!」


「イー!!」


 かけ声までデフォルトか。


『驚かせて申し訳ございません。否市へはご観光ですか? それともお仕事で?』


 茶色い怪人は、見た目に似合わぬ高い声で、礼儀正しくオレ達一人一人に頭を下げた。


『私、株式結社ゲル・ファーザーの戦闘課長、シルキー・ゲルと申します。お客様のうちお二人から、ヒーロー反応が検出されました。ヒーロー能力に目覚めておいでの場合、否市に見えられた目的をお話しいただきたいのです。できない場合は、ここで私と戦っていただかなくてはなりませんが、ご了承いただけますでしょうかッ!?……』


 口上を述べている最中の怪人の頭が、一瞬で炎に包まれた。見ると、オレの隣に座ったおまつさんの手には赤い銃が握られている。どうやら、あの炎はこの銃から……って、おまつさん、いきなり攻撃かよ!?


『な……なななんてことをなさられれますか!! 』


 周りの戦闘員に手伝ってもらい、頭の炎をようやく消し止めた怪人が、狼狽えきった様子で叫ぶ。


「先手必勝。怪人に情けは無用よ!!」


 そう叫ぶなり胸に手を突っ込んで取り出したのは、ライ・チャージャー。


「ダメだおまつさん!! ちょっと待っ……」


『天力招来!! 雷身変化らいしんへんげ!!』


 落雷が乗機のシートを吹き飛ばす。

 前にも言ったが、これは変身時の隙を襲われないよう、敵が近くにいる場合に自動で作動する安全装置なのだ。

 初めて実戦で変身するおまつさんには、その剣呑さが理解できていなかったようで、マスズシ……もとい、ササズシ改の座席部分は、ハンドルもシートカバーも計器類も……何もかもが吹き飛んでしまった。

 さらに装甲を構成していた雷鎧ライ・アーマーが、目の前のおまつさんにわざわざ時空転送され、体を覆っていく。後に残ったのは、ほぼ残骸となったササズシ改。


『平和を守る灼熱の炎、イナヅマンフレイムッ!! 悪党ども!! 狼藉はそこまでよ!!』


 乗機が大破したことなど意に介さず、口上を述べてジャンプしたおまつさんは、敵怪人の目の前に着地してポーズをとる。

 初変身とは思えないほど板に付いているのはさすがだが……どうすんだよコレ。


『真紅の怒り、受けてみなさいッ!!』


『お、お待ちください!! そのご様子……あなた達は、イーヴィルに支配されてはいないのですか!?』


 真っ赤な炎を右腕にまとい、茶色い怪人の胸ぐらを掴んで、まさにその土手っ腹に一撃かまそうとしていたおまつさんは、ようやく動きを止めた。


『あんた今更何言ってんの? 問答無用で戦闘開始しようとしたクセにッ!!』


 いやいや。向こうは紳士的でした。問答無用で攻撃したのはあなたです。おまつさん。


『ちょ……ちょっと待ってください!! じつは一週間前から、否市は我々、ゲル・ファーザーの支配下にあるのです!!』


『やっぱ悪の組織なんじゃないのッ!!』


「イヤ待て待ておまつさん!! そいつらもしかして……イーヴィルと戦ってんじゃないのか?」


『そう!! 私もそれが言いたかったのです!!』


 シルキー・ゲルに斬り掛かろうとしていたおまつさんが、半信半疑の様子ながら剣を収める。

 いつの間に燃える剣・不死鳥剣フェニックス・ブレードを招来したんだか。

 ホント、導火線短いなこのひと


「もしかしてあんた……ザザムCとかってヤツの……知り合いか?」


『黒川君を……いえ、ザザムC殿をご存じなのですか!?』


「ああ。翅蛾県で会ったよ。なんか、イーヴィルにいいように操られちまってたけどなあ」


『そうですか……でも、元気なんですね』


 ため息をつき、寂しげな様子で下を向く茶色い怪人。

 あ、今気付いたことが二つ。この怪人、名蛾野名物「サナギ」の怪人だ。そして……女の子だ。

 しばらく俯いていたサナギ怪人シルキー・ゲルは、ようやく顔を上げた。


『あなた方がイーヴィルに操られていないヒーローであるなら、ぜひ力をお貸しいただきたいのです。ご同行願えませんか?』


『……信用、出来るの? あんたら?』


 おまつさんは、武装を解かず、手にした武器も仕舞おうとはしていない。

 たしかに、コイツらはこの地域の悪の組織……なのであろう。だがもともとそれは設定だけのこと。本来敵は共通のイーヴィルであるはずだし、疑う方がどうかしていると思うのだが。


『あんたらがイーヴィルに洗脳されてないって、証拠を見せてよ』


『分かりました。では失礼ながらお手を……』


 シルキー・ゲルは、トゲトゲした右手を差し出し、おまつさんの手と重ねた。

 おまつさんの手にあるヒーローの光が輝き出す。同時にシルキー・ゲルの額にも、小さな光が輝き始めた。

 どうやらヒーローの光を共鳴させることで、自分の心の裡をおまつさんに見せているようだ。


『これで、ウソ偽りを申していないことがお分かりでしょう?』


「まあ、分かったわ……じゃあ、あんたたちの拠点へ案内して」


 ようやく武装を解いたおまつさんが、それでも不満そうな顔で自分のシートを振り返った。


「きゃあああああ!! 何よコレ!! ササズシがッ!! 誰がやったのッ!!」


 あなたがやったんです。おまつさん。

 まさか気付いていないとは……


『よ……よろしければ、当社で修理いたします。お詫び方々、当社経営のゲル・ファーザー・ガーデンへお越しください』


 おろおろしながら、おまつさんの機嫌をとるシルキー・ゲル。

 とことん礼儀正しいな。この怪人ひと



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