ひだまり御膳
目指すは名蛾野県。
だが出発するまでに、俺達は丸一日を費やしてしまった。
装備は完成していたし、すぐにも出発したかったのだが、館長達と、今後の行動について、様々な議論を交わしておく必要があった。
館長の……いや、イナヅ人達の言い分の殆どは、俺達三人が『イナヅマン・チーム』として活動する上での注意事項であった。
やれ行政とは関わるな。一般人はもちろん、現地のヒーローにも正体を知られるな。ばれないように変身時のお約束、決めポーズは変えて、決めゼリフにもイナヅマンの名は入れるな……とまあ、うるさいことこの上ない。
表向きはどうあれ、枇杷湖の異常水位と翅蛾県での事件は、ヒーロー界ではビッグニュースだ。
そんなセコい小細工したって、すぐにバレそうなもんだと思うんだが。
しかしまあ、館長や立花さん達の立場を考えれば分からなくもない……つまり、イナヅ人たちにとっては、それほどまでに危ない橋であるのだろう。
彼等の真の目的は、この地球を侵略することなのだから。
俺達もまったくもってややこしい事態になったモンだ。とはいっても、今の俺達には彼等の力が必要なのだ。
ただ、一番もめたのは、変身後の名称だった。
俺はイナヅマン一号、二号、三号でいいんじゃないかと言ったのだが、おまつさんは断固としてそれに反対した。
「それじゃあ何? あたしが二号ってわけ? 絶対イヤよ!! まるであんたの二号さんみたいじゃない!!」
おまつさんの性格からして、名称なんかにそこまで拘るとは思わなかったのだが。
その時、おずおずと手を上げたのは小鮎ちゃんだった。
「あの……じゃあ、雷鎧の色で呼ぶっていうのはどうでしょう?」
色……って、おまつさんはピンクで小鮎ちゃんがブルー? っと思ったが、小鮎ちゃんはそんな単純ではなかった。
「おまつさんは、赤っぽいし火を使うからイナヅマン・フレイム。私がイナヅマン・アクアでどうですか?」
なるほど。それなら悪くない。
おまつさんも、満更ではない様子だ。
「いいわ。それで。でも……私達だけじゃ不公平だから、あんたも……そうね。色が黄色っぽいし、武器が電撃系だからゴールデンサンダーボルトって付けなさいよ」
イナヅマン・ゴールデンサンダーボルト!? いやいやいやいや長いッス!!
「何? 不満だっての!? あんただけただのイナヅマンだと、私達がなんかニセモノみたいじゃない!!」
「まーまーまー。そんな名称なんかどうでもいいんじゃないかね? 我々としては、あまり大声で名乗って欲しくないわけだし」
「冗談じゃないわ!! 名乗りもあげないヒーローなんて聞いたことないわよ!!」
名乗り上げに、妙なこだわりがあるようだ。
館長の一言に、ついにキレて怒り出したおまつさんをなんとかなだめ、結局、俺の名前はフツーにイナヅマンということで落ち着いたのであった。
*** *** *** ***
「……にしてもなんで私がサイドカーなの? フツー逆でしょ? 実力から言って」
バーニングサヴァズシのハンドルを握る俺を横目で睨み、ふくれっ面のおまつさんが今日三度目くらいの悪態をついた。
うう……ホント文句の多い人だ。
まあたしかに、実戦経験やヒーローパワーで言えば、たぶんおまつさんがこの中で最強なんですけど。
「し……仕方ないじゃないですか。マスズシ単体だと車検通らなくて、公道走れないんですから」
「マスズシじゃないわ。ササズシ改。間違えないで」
うう、また睨まれた。もういいじゃん、どっちでも。
俺のバーニングサヴァズシ――まあ、めんどくさいからヤキサバズシとしておこうか――の横には、二つに折りたたまれ、半月型となったピンクゴールドのマスズシことササズシ改がドッキングしているのである。
「名蛾野なんて直線なら二百キロくらいでしょ!? 別々に行けばいいじゃない!! ササズシもフナズシも飛べるんだし!! あんた一人で高速乗って来なさいよ!!」
おまつさんはどうにも収まらない様子だが、そんなことをさせるわけにはいかない。
「ダメですよ。それじゃ、待ち受けているかも知れない敵に、どう対処すんですか? バラバラに動いて各個撃破されたら、コウもトシイエイザーも助けられませんよ?」
そう言っておまつさんの方を振り向いた俺は、後方から迫ってくるトラックに気付いて慌ててハンドルを切った。
「うわっとっと!! 危ねえなあ……」
俺達をすごいスピードで追い抜いていったのは、4トンの箱トラだった。
コンテナの横っ腹には翅蛾県猫日市のゆるキャラ、『ねこにゃん』が見事なカラーリングで描かれている。ねこにゃんは、猫日城という城と武士と猫が合体した、なんとも形容しがたいゆるキャラだ。
これから、県の広報活動にでも行くのであろうか。
「ホラ、こういうこともあるから、別に行った方がいいって言ったの。事故ったら全員死んじゃうじゃない」
おまつさんが、むすっとした表情のままで言う。
たしかに危なかった。
「おまつさん、わがまま言っちゃダメですよ。敬太郎さんの言う通りです。私なんか、免許無いですから逆に助かります。それに、こうしていれば全員でお話しできて、道中退屈しませんし」
俺の後ろに座っている小鮎ちゃんがフォローしてくれた。つまり、フナズシ一号機はヤキサバズシの後部にさらに連結しているわけだ。ああややこしい。
それにしても、やっぱりいいコだし、しっかりしてるよなあ。一番精神年齢高いのはこのコかも知れない。
しかも、『敬太郎さん』だって。嬉しいねえ。
こんな変則的な三人乗りバイクの車検が通って、ササズシ単体だと通らない理由は簡単。もともとエアバイクタイプのササズシには車輪がないからだ。
今も、サイドカー側の車輪はサヴァズシから出されたものである。
それはフナズシ一号機も同じで、飛行タイプであるがゆえに車検が通せず、サバズシの後部にドッキングする形になっているわけだ。
全部合体して飛べれば問題無かったんだが、それの為の出力はまだしも、制御機構が作り込めなかったらしい。
「べ……べつに話す事なんて無いじゃない。私達は、戦うために協力してるだけなんだし」
おまつさんは小鮎ちゃんの手前、つっけんどんな言い方が出来なくて困っている様子だ。
真っ赤になってしどろもどろ。うん、でもそういうところも可愛い。
「まあまあ、そう言わないで。そうだ。そろそろ昼にしませんか? 次のサービスエリアのレストラン、『ひだまり御膳』ってのが美味いらしいんですよ」
「あ、知ってますそれ。朝ドラの「ひだまり」をモチーフにしたお弁当なんでしょ? 私、食べてみたいー」
俺の提案に、小鮎ちゃんが無邪気な声を上げる。
「私達はドライブに来たんじゃないのよ? ちょっとくつろぎすぎじゃない!?」
おまつさんも口ではそう言いながら、声に険が感じられない。
腐杭を出発してからこっち、トイレ以外はほとんど休憩無しだったから、いい加減疲れてもいるのだろう。
「もちろん分かってますよ。でも、息抜きも必要です。それに、高速を降りる前に現地の情報を得ておくべきですよ。少なくとも、ご当地ヒーローのザザムCがいなくなって、イーヴィルの好き放題になっているはず……名蛾野県警にはイナヅマンシステムは配備されていませんし。じゃあ、次のSAで休憩ってコトで」
「さんせーい」
「し……仕方ないわねえ」
そっぽを向いたまま答えるおまつさん。でも、ちょっと口元はほころんでいる。難儀な性格だなあ。




