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「遅いぞ。イナヅマン」


「すみません立花おやっさん」


 湖北の小さな漁港。

 そこは、立花おやっさんとの合流予定場所でもあった。

 連絡入れてから約一時間。

 修理工具を満載して、例の軽トラをすっ飛ばして来てくれた……って、この軽トラ、どんだけの速度超過で来たんだ?? そういや、あの重量級のサバズシを乗せても大丈夫だったみたいだし、やはり、普通の作業用軽トラではないのだろう。

 港内には俺達が連れてきたフナやコイ、ナマズ、ウグイ、オイカワなど、無数の魚が渦を巻いて泳ぎ、水面が真っ黒に盛り上がっている。その異様な光景を小学生が数人、大騒ぎしながら眺めている。目立ちたくはないのだが、まあ、俺達が出撃するまでの十数分のことだ。勘弁してもらおう。

 そう思って苦笑する俺の背中に、厳しい声が投げつけられた。


「……たった半日で、ここまで壊してくれるとはな……」


 どうやら、こっちは勘弁してくれそうにないらしい。

 ぐったりした生サバと、黒焦げにされ、変形した雷鎧を前にして、立花おやっさんは大きくかぶりを振った。

 ここにはないが、名蛾浜港の駐車場に停めてあるサバズシ本体は、二重装甲を召還されたことでフレームしか残っていないであろう。


「予想以上に酷いな。雷鎧はドック入りさせないと直らない。こんなことなら予備パーツをもっと持ってくるんだった」


「……すみません。コイツら強かったもんで」


 俺はピンクを指し、立花おやっさんに頭を下げた。……でもこれ、俺のせいか?

 そもそも戦闘の素人を無理矢理派遣したのはそっちだし。本来仲間であるはずのヒーローにボコボコにされるなど、予定外もいいところだし。それで怒られてはたまったモンじゃない。


「まあ、戦えば壊れもするか。わしの鎧が負けなかったのはいい。だが……何だその格好は?」


 どうやら立花おやっさんは、俺がウミニングリーンとなっているのが、いたく気に入らないらしい。


「いやまあ……急だったし、使える武装も無いですから……」

 

「それで武装になればいいがな……」


「は?」


「いや、言っても仕方ない。とにかく、これだけでも持って行け」


 立花おやっさんは用意してきた予備パーツの中から、両手に嵌める籠手部分と、雷獣剣を取り外して渡してくれた。


「雷獣剣は、エネルギーチャージできていないから、切れ味だけだ。技を使うな。籠手だけでも多少の防御強化にはなる。着ていて分かるだろうが、そのスーツ、過信するな。防御力はないものと思っておけ」


「何言ってんだ。この爺さん?」


 その言葉を聞いてムッとした表情になったのはアメノだ。


「俺達のスーツになんか文句でもあるってのか? 武器だって充分……」


「ピンク、ここで言い争っているヒマはねえ。もう時間だ」


 俺は立花おやっさんに殴りかかりそうな剣幕のアメノを、後ろから羽交い締めにした。

 この作戦は、全員同時に魔法陣に攻撃を掛けるのがキモ。ここでキレている場合じゃねえだろ。っていうか、この血の上りやすさは何だ。コンビニにたむろするヤンキー以上じゃねえか。

 収まらない様子のアメノを引き摺って、無理矢理フナズシに跨らせると、俺も出発の体勢に入る。


立花おやっさん、行ってきます。サバの修理、頼んますよ?」


「まあ、任せとけ。それより……気をつけてな」


 何か含んだ様子の立花おやっさんに見送られ、俺達はその漁港を後にした。



***    ***    ***



 魚から生命の光を貰う。

 といっても、どうするのか分からなかったが、やってみると簡単だった。呼び集めた魚たちが増えるに従って、俺の乗るフナズシの機体が光り始めたのだ。

 ふと見ると、ピンク=アメノの体も光り輝いている。だが、俺は、と見るとまったくさっきと変わりはなかった。


「やっぱ、急にウミニンジャーになってもダメっぽいな」


 自嘲気味に笑う俺に、ピンクは慌てて近づいてきた。


「おかしいな。そんなはずあるか。スーツが故障してるんじゃないか?」


「同時にウミニンジャーとイナヅマン、複数のヒーローにはなれないのかも知れないぜ? これが立花おやっさんの言っていた、防御力はない、って意味かも知れないしな」


「しかし、このままじゃ、戦えないだろ?」


「……この籠手も雷獣剣もあるし、フナズシも乗りこなせた。大丈夫、援護はするよ。魔法陣を突破するのはお前らに任せるぜ」


 ごちゃごちゃとやっているうちに、時間が来た。もう待ったなしだ。

 ここから沖の黒石までは十㎞ほど。

 今回の作戦は、六機のフナズシが何の通信もせずに、同じタイミングで別方向から敵の本拠と目される場所へ突っ込む。

 いくら魚どもの命の光を受けた、とはいっても、俺達六人はほぼ孤立無援。

 相手の戦力が量れない以上、奇襲で目的を達成し、すぐに離脱するのが得策というわけだ。

 ただ、敵に取り込まれたヒーローがいる以上、通信などすれば傍受されるに決まっている。その点、ウミニンジャーの乗機・フナズシは全機を束ねる一つの意思を持っている。

 だから、同じタイミングでの突撃が可能なのだ。

 サバズシやササズシのようにべらべらしゃべりはしないし、言うことを聞かない時もあるようだが、充分に命令を理解するだけの知能はあるらしい。

 っつーか、まさにそれ、馬か何か動物だろ。名前通りフナってこたぁないと思うが……。

 

「大丈夫かイナヅマン。いや、ウミニングリーン」


「グリーン……か。できればイナヅマンの方がいいな」


 まあ、ウミニンジャーに正式加入したわけではないからな。


「どっちでもいいさ。沖の黒島まではお互い通信もナシだ。遅れるなよ。グリーン」


 ピンクの中では、俺はグリーンで定着したらしい。

 仲間と認めてくれた、ってことなんだろうな。なんとも不器用な女の子だ。

 ちくしょう。守ってやりたくなっちまうじゃねえか。


 俺達の乗るフナズシは、沖の黒島へと一気に辿り着いた。

 だがさすが忍者系戦隊。全員が真っ正面から突っ込むようなことはしない。

 レッドとブルーは上空から。

 ブラックとイエローは水中から。

 水面を行く俺とピンクは、いわば囮だが、その速度は時速三百㎞以上。

 ちょっとした波でも吹っ飛ぶ可能性があるが、そこは半有機メカ、独自の判断で波を読み、水面を駆け抜ける。


 水面に出た幾つかの岩礁が見え始めた、と思った時には、もう目の前に迫っていた。


「いた!!」


 ピンクが叫んで、フナズシからジャンプする。

 たしかに、一番大きな岩の上に、二人の女性が縛り付けられている。あのコスプレ衣装に重々しい鎖を巻き付けられ、広げた両手首には、黒い手枷がはまっている。

 斜めに俯いた白い顔。すらりと伸びた白い脚が眩しい。

 うう……こんな時になんだが、やっぱおまつさん、色っぽいなあ。


 なんてことを思っているウチに、俺はジャンプのタイミングを外してしまい、そのまま岩の上にフナズシを乗り上げてしまった。


「ク……クソ。よく分かったな。さすがはウミニンジャー!!」


 フナズシの下敷きになった岩が呻き声を上げる。

 え。ウソ。敵が潜んでたの!?

 まったく気がつかなかった。ウミニンジャーと同じ忍者系ってわけか?


「貴様!! ヒーローか!?」


「サルボボファイター!! 彼等の思想に感銘を受けてな。イーヴィル側につかせてもらった!!」


「バッカ野郎!! 人間を食うヤツらの何に感銘受けたッてんだよ!!」


 斬り掛かってきたそいつの剣を、雷獣剣で辛うじて受け止める。

 えーと……サルボボってどこの名物だっけな。


「きゃあっ!?」


 ピンク=アメノの悲鳴。

 見ると、空中で動きが止められている。ジャンプしないで正解だったってワケだ。

 飛んでいたら、二人まとめてジ・エンドだったところ。


「渓流王ザザムC!! 見参!!」


 口から吐いた糸で絡め取るってワケか。どう見ても怪人にしか見えない技だが、コイツもヘレンボイジャーみたいに、裏ヒーローやってるクチかも知れない。

 助けに行きたいが、剣と籠手で相手の攻撃をはじくのが精一杯だ。赤い覆面にかすり模様のスーツを着込んだこのサルボボ野郎は、なかなか手強い。


「く……そ!! お前ら!! 操られてんだよ!! 分かんねえのか!?」


「んなこと言っても無駄だぜ!! イナヅマン!!」


 声は頭の上から降ってきた。

 レッドウミニン=本諸コウだ。

 飛行タイプのフナズシ一号機に、ブルーと二人乗りで急降下してくる。

 ブルーが、フナズシに付属した大型のガトリング砲みたいなものを、撃ちまくりながら通り過ぎ、レッドは剣を振りかざして飛び降りた。

 と、見るやもうピンクを糸から助け出している。

 やるじゃねえか。

 ピンクをお姫様抱っこしたレッドが、そのままザザムCとやらに蹴りを入れて、見事に着地。


「ば……バカ!! 放せ!!」


 うーむ。セリフとは裏腹に、声はめちゃくちゃ嬉しそうじゃねえか。よかったなアメノ。

 ピンクを下ろしたレッドは、駆け寄りながら、俺と切り結んでいたサルボボファイターとかってヤツに棒手裏剣を投げつける。

 慌てて飛び退るサルボボファイター。やっと一息付けた。


「イナヅマン!! イエローとブラックは!?」


「分からん!! まだ来てない!!」


「そんなはずはねえ!! まさか……」


 途端に岩の周囲の水が渦巻き始めた。

 水中で、何かが戦っているのだ。

 続いて爆発音。

 小鮎ちゃんとおまつさんに一気に向かって行ったブルーのフナズシが、何者かの攻撃を受けて墜落したのだ。


 二人を縛り付けた岩の上に現れたのは、例のブラックバス将軍ことマグニフィカとかいうヤツ。

 そしてもう一人。日本刀を振りかざした、鎧武者っぽいヒーロー。

 どっちもかなり手強そうだ。

 サルボボファイターがその横に並ぶ。レッドの蹴りを受けたザザムC、墜落したブルーはまだ動けない。

 だが、この勢いを殺したら終わりだ。操られているヒーローを殺すわけにもいかない以上、一気に二人を救い出して、逃げ去るしかない。

 俺とレッド、ピンクの三人は、それぞれ剣を振りかざして突っ込んだ。

 ピンクがサルボボファイター。

 レッドはマグニフィカ。

 そして俺は鎧武者っぽいヒーローに斬り掛かる。一瞬。それぞれが剣で相手を受け止めた。

 これで作戦は……次段階!!


「ブルルォオオオオ!!」


 響くエンジン音。

 鎖を引き千切って、二人を救い出したのは、動物型のロボット四体。俺達の乗ってきたフナズシが秘かに変形していたのだ。

 レッドの一号機は鳥に。

 ブルーの二号機はイルカに。

 ピンクの四号機は馬に。

 そして俺の六号機は何だか平たくなって…………ミズスマシかよ……絶対いじめだろコレ。

 

「よし。逃げるぞ。イナヅマン!!」


 レッドの声と同時に、俺達は剣を引き、後ろへ飛ぶ。

 レッドとピンクはさすがの脚力。一気に隣の岩まで下がったが、俺はとてもじゃないがあんなには跳べない。


「どうした!? 早く来い!!」


 二人の隣にブルーも並び、叫んでいる。

 いや、どう考えても無理だろソレ。十m以上は離れているし。イナヅマン装備でも身につけていれば跳べただろうが。

 後ろには立ち直ったザザムC。逃げ道……ふさがれた。


「出来損ないが一人、混じっていたか。だが、そんなヤツはどうでもいい。予定通りだな」


 鎧武者風のヒーローが、冷たい声音で言い放つ。もしかして、コイツが親玉?

 でも予定通り……だと?

 次の瞬間。水面を割って現れたのは……巨大な金属の塊。それがロボットの頭だと理解するのに、数秒かかった。

 ソイツの巨大な手にぐったりして握られていたのは……ブラックとイエロー!!


「イセジンガーZ。見栄県のヒーローだ」


 鎧武者が言う。

 二人は水中で、あんなもんと戦っていたのか。っつーか勝てるわけねえだろ。

 巨大な手がレッド達三人のいる岩に、イエローとブラックを投げ捨てた。


「大丈夫か!?」


 レッド達が駆け寄るのが見える。

 うん。

 まあしゃあねえな。小鮎ちゃんとおまつさんを乗せたフナズシ一号機は、もう影も見えない。

 あとは、彼等が三機のフナズシに分乗して逃げるだけ。

 つまり、逃げそびれたのは俺一人ってこと。

 俺はがっくりと膝をついた。

 だが、マグニフィカが放った次の言葉は、もっと残酷なものだった。


「ご苦労だったな。ウミニンジャーの諸君。そこが、君達の墓場だ」


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