恋愛殺人事故
交差点。
外は少し肌寒くなり街を歩く人は早足だ。
俺もイヤホンをつけ曲をかけながら早足で歩いていた。
ふと、女性とすれちがった。
俺は思わず振り返る。
「なんて…綺麗な人…」
俺は一目惚れをした。
いやしかしこんな街の中ですれ違った人に惚れたって叶うはずもない。
俺は信号をさっさと渡った。
渡り終わったあたりだ。
「キャアアアアアアアアア!!!!!」
叫び声。
振り返るとさっき見た綺麗な人は
通り魔に胸を包丁で刺され死んでいた。
恋愛殺人事故
鬱。
アレから、一週間がたった。
ようやくこの前の通り魔による殺人だと気づいた。
一週間の間に俺は三人に一目惚れをした。
一週間の間に俺は三人の死人を見てきた。
バスにひかれたり、関電したり、窓から落ちたり。
そう、全て事故。
でも間違いなく僕が一目惚れをした人が死んだ。
ふらふらと歩いていると街より二本外れた道路にでた。
「…びっくりした。」
街!という道路を歩いてた僕には驚くに驚ききれないほどガランとしている。
屋台が何件かあるくらいだ。
こうゆう場所に出るとなんとなく楽しくなる。
普通なら。
「まぁ、また来る事も無いだろうし一杯飲んでくか。」
俺は酒が売っていそうな店に入った。
「うぉっ、客!いらっしゃいませ!」
中に入ると居酒屋をやっているとは思えないほど真面目そうなメガネをかけたお兄さんがスマホをいじっていた。
「やってますか?」
「えぇ、やってます。」
誰も、人がいない。
俺はゴザの四人程座れる場所に座り酒頼んだ。
一杯だけ。
飲みすぎた。
頭がクラクラする。
最近お酒は飲んでないからまぁたまには良いだろう。
ぼーっとゴザの上に寝転がっているとガラッと扉の開く音が聞こえた。
客?
「お兄ちゃんただいま。」
近くの中学の制服を着た女の子が現れた。
お兄ちゃん、って事は妹だろうか。
「酒くさっ!わっ、客!?」
こっちを見ると嫌そうな顔をしながらこっちに来た。
そのまま俺の顔の前でしゃがむ。
パンツではないがスパッツが見えている。
「お兄さん飲みすぎたら帰れないよ、バカじゃないの。」
「パンツ見えてるよ。」
「きゃっ!変態!」
バカバカしい。
「大丈夫、俺子供には興味無いから。」
そう言ってくらくらする中起き上がり顔を見ると真っ赤にして頬を膨らましていた。
「会計、良いですか。」
「あ、はーい。」
女の子は怒ったのか二階へと上がっていってしまった。
「思春期なんで。」
「しょうがないですよね。」
店を出ると外はもう暗くなっていた。
「あぁ〜…」
ビールを飲み干すとカウンターのテーブルにジョッキを叩きつけた。
「また、例の特性?」
壮太が話しかけてくる。
「もう困っちゃいますよ…」
なんだかんだでここに通うようになってしまった。
扉の開く音がした。
「ただいま〜…うわぁまた飲んでる…」
恵美は嫌そうな顔をして隣に座った。
「ここは酒を飲む場所だろ。」
相変わらず人が来ないここが俺は好きだ。
普通の場所だと大体酔っ払いどもが騒いでいてゆっくりできない。
「あのさ、拓人さんの言ってる事って本当なの?」
「え?」
「人を好きになったらその人が死ぬって。」
「本当じゃなかったらこんな辛くならない。」
紛れもなく俺のせいだ。
「じゃあ、殺してみてよ。」
「は?」
ぐっとひっぱられ立たされる。
そのまま店の外へと連れてかれる。
「この時間帯ね、すっごい綺麗な人が通るの、ここ。」
「だ、だめだよ!これは嘘じゃ…」
カツカツとヒールをならして誰かが近づいてくるのがわかった。
俺はたまらず後ろを振り向く。
見なければ、見なければ恋はしない。
「何してんの!」
「や、やめ!」
顔の方向を戻される。
その目には髪の長い綺麗な女性が歩いているのがうつった。
俺の心はドキドキと動く。
恋を、した。
「なんて事を…」
「死なないじゃん。なんだ、つまらない。」
飽きたのか恵美は店に戻ろうとした。
ドサッ
誰かの倒れる音がした。
あぁ、もう…
「嘘でしょ…?」
恵美の表情から笑顔が消える。
目を開くとそこにはマンションの上の階から落ちて来た鉢を頭にぶつけた女性が倒れていた。
「ごめんなさい…」
恵美があやまって来た。
「いいよ、俺のせいだから。」
頭を撫でる。
いっそ引きこもってしまいたい。
「私は子供だから、大丈夫だよね。」
「…」
本当に、引きこもってしまった方が良いのかもしれない。
恵美に会うたびに、恵美が好きになっているような気がした。
それがまだ恋愛対象ではないのはわかっている。
まだ。
もし、もしもそれが恋に変わったら。
「そうだね。」
そんな事、考えたくもない。
休日、いつも通り店へと向かう途中だった。
「アレ?拓人さん?」
恵美とあった。
「まさか買い出し途中に会うなんて。」
恵美は少し微笑んでみせる。
「本当だね。」
いつもより思考がはっきりしているせいか、恵美の方ばっかり見てしまう。
彼女はこんなにも、可愛い。
なんとなく会話していた。
なんとなく。
信号を渡り始めた時だ。
「私ね、拓人さんの事好きなんだ。」
足が止まる。
ダメだ、受け流すんだ。
「そ、そう。」
「両思いになりたいけど、怖いんだ。」
「へ、へぇ。」
「聞いてくれて、ありがと。」
「うん。」
「大人になる頃には、特性なおってるかな。」
思わず、口を開いた。
「なおってたら、付き合おう。」
「え?」
つい、口にでた言葉。
終わった気がした。
「恵美ちゃん、…ごめん。」
「嬉しい、嬉しいよ。」
手を繋ぎ信号をいそいで渡る。
この子だけは、守りたい。
約束したんだ、もう。
長い道路。
もうすぐ渡りきる。
渡りきると思ってた。
俺の体に何かが突進してきた。
「えっ?」
飛ばされてから自転車にひかれた事に気づく。
その横に恵美はいなかった。
恵美との手がはなれた。
「恵美ちゃん!」
まだ、信号は青。
恵美が起き上がり、こっちに走ってくる。
くる。
く…
信号を無視した車が恵美を突き飛ばした。
奇跡なんて、起こらない。