国をすててぇ♪
ヴェルナー王子は御歳、十八。
彼は北欧デンマルク人(デーン人)よろしく、美しい金髪を束ね、羽飾りのついた兜をかぶった。
だいたい、五、六世紀の欧州なんて、国家形成がしっかり整っていなかった。
よくてカエサルの切望した王国、パクス・ロマーナとか、フォロ・ロマーナ(理想郷だったが)と呼ばれる夢の跡地、くらいなものだ。
メロヴェ(メロヴィング)家をとりしきるヴェルナー王子。
そしてカロリング。
どちらもゲルマン系ではあったが、カロリングのほうはルイ王朝の礎となった。
「祖先のクローヴィス一世とやらは、どうやら残忍な謀を好む狂戦士(オーディンの操る熊の皮をかぶった裸の男ども)らしい」
ヴェルナーは祖先と、女が好きではなかった。
いや、愛さなかったわけではないが、嫉妬されることは非常に疎ましいと思えた。
なにしろ女同士の争いというのは、すさまじい。
なぜあそこまで執拗になれるか、謎だったのだ。
「ばかやろう、俺はお前ら女の私欲を満たす道具じゃねえ!」
そんなわけで、ヴェルナーは地位を捨てて国を飛び出したのだった。
弟に国を任せて!
て、あんたは、ブッダか!
そのヴェルナーも恋をする。
心から好きだと思える人が。
ルイーゼ、と言う娘で、とりわけてきれいではないが、ヴェルナーは歌声の美しさに惹かれてしまったのだ。
いつも歌う歌は、鳥の鳴き声に似てもいた。
ヴェルナーは娘のそばに何度も通う。
しかし娘はヴェルナーに警戒心を抱いた。
「私は誰も愛したくないのだ」
じつはルイーゼには、ハインリヒという恋人があったが、彼女は手痛く裏切られたのだと打ち明けた。
「俺はそいつと違うよ。絶対君を裏切らないから」
「いいや。誰でもそういうんだ。けど無理だよ、いつかは、私を裏切るんだから」
ヴェルナーは手ごわい相手に出会ってしまったと、興奮をおぼえた。
なんとしても手に入れたい!
それはちょうど、お宝を狙う海賊の心境だった。
「きっと彼女を手に入れて見せるぞ・・・・・・」
名前ですが、当時としては、アウレリア(女の名前、男はアウレリウス)、マリユス、ルキウス、ピピン(宰相はじめとすると三名ほど)とにかくラテン語名が多かったようですな。
メロヴェはむろん、ゲルマン系が多かったと。
それにしてもどうなるんだ、このヴェルナーの勝手な妄想・・・・・・。




