表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/49

エピローグ&プロローグ

「おーい、いつまでメソメソしてるんだよっ。いい加減こっちも恥ずかしいぜ?」


「ぐすっ……ごめん、なさい……ぐすっ、でも、私、私、」


帰り道。


磐蔵神社まで、もうあと数分のところで、楓歌は思い出したように泣き始め、立ち止まってしまった。



あの後、しばらく落ち着かなかった楓歌の情緒が安定するのを待って、二人は恋火の待つ神社へと向かった。


のはいいが、少し歩くと楓歌は、まるで持病の発作が起こったかのように、突然、メソメソと泣き出したのだ。


泣き止むまで待って歩き始めると、また少ししてメソメソと涙を流し始める。



道行く通行人からは総じて奇異な目を向けられる。傍目には、痴話げんかの末に、京志郎が楓歌を泣かせたようにも見えているだろう。


見ず知らずの人間に知らぬうちに「ヒドイ男」認定を受けてしまっていてもおかしくない。


離れて歩きたい、と言う気持ちも芽生えそうになるのだが、それは出来ない契約だった。


泣きすぎてぐしゃぐしゃになって顔は、さすがの楓歌と言えどちょっと不細工で、その不細工な顔を見られたことと、後から「あの時は大変だった」と楓歌をからかう権利が得られたと思えば、これくらいの恥ずかしさは安い引換券だ。



神社に帰ると、恋火は相変わらずマッサージチェアの上で踏ん反り返り、全身を骨抜きに励んでいた。


「おぉ、漸く戻ったか。待ち侘びたぞ」


「『待ちわびたー』じゃないですよ。こっちがどれだけ劇的な時間を過ごしたと思ってるんですか」


普通に受け答えをする京志郎に、驚いたのは楓歌だった。


「久遠くん……!?見えてるの……!?」


「え?……あっ!ホントだ!恋火さんが見えるようになってる!」


姿も声も、オーラでさえ、以前と同じように認知できる。恋火は満足気に肯く。



「然うか然うか。其れは何より」


「でも、なんで?俺、結局月嶋に告白できなかったんですけど……?」


「ふむ。矢張り然うだったか。道理で御主の祈りが還って来ぬ訳だ」


恋火は事無さげに言う。


「告白が成功しなかったのに、どうして見えるようになったんですか?」


「成功しなかったと言っても、失敗した訳でも在るまい。御主の信心は大きな変動を見せて居らぬからな」


「それはそうですけど……」


「まぁ、然う固く考えずとも良い。本来、御主程の信心が在れば、我を視認出来ぬ筈が無いのだ。先刻、我の姿影を捉えられ無かったのは、元々、我の力が弱化している事が原因に在る。逆に言えば、我の力が戻れば、我を感知する事も容易く成ろう」


ぶっきらぼうなその説明からは、一切要領を得ない。


「だから、俺のお願いは叶ったって言えないんですよ?なのに、どうして恋火さんの力が戻るんですか?」


「さぁて、何でだろうのう」


恋火は、いやに開き直って笑いながら言う。


「若しかしたら、御主とは又別で、何処かで大きな願いが成就したのかも知れぬなぁ」


「え?マジですか?一体いつの間に……」



すると、恋火は「ふふん」と含み笑いを一つして、首を傾げる京志郎ではなく、楓歌を見る。


意味ありげな目線に、楓歌は肩をすぼめて俯く。


「ん?んん?黒咲、何か知ってるのか?」


楓歌はバサバサ髪を揺らして否定。が、目が泳いでいるので、恐らくは嘘だ。


「おいおい、隠しごとは良くないぞー?」


「や……そういうわけじゃ……」


「悲しいなぁ。せっかく友達になったってのに」


その言葉に楓歌の肩が跳ね、そのまま飛び上がって、


「わ、私、お茶淹れてきます……っ!」


慌てて部屋を飛び出した楓歌を、恋火の哄笑する声が部屋の中から追いかけて行った。



     ⇔



春休みのことだ。


少女は新生活に不安を抱いていた。


新たな環境に、自分の居場所があるのではないか、という期待も多少はあったが、そんなものは、そこへ身を投じることへの不安によって容易く押し流されて行った。


孤独が極端に辛いわけではなかった。


しかし、単なる「孤独」と、「自分を理解されないこと」とは、一見似ているようで全く異なるものなのだ。


新しい生活には、自分を理解してくれる人間が欲しい。自分を受け入れてくれる人が欲しい。


出来ることなら、『小さい頃に神社で一緒に遊んだ、あの優しい男の子』のような人が。


少女は毎晩、そう思いながら眠りについていた。



――それは、少女の無意識的な願いだった。


神に祈った訳ではない。


それでも、傍近くに居座る神にはそれが自分への祈りのように感じられた。自分に課せられた使命のように感じたのだ。



   ◆



入学初日、少女は驚愕した。


自分の前の席に、その願望が具現化して座っていたのだ。



今まではぼんやりとしか感じていなかった神の存在が、少女の目に初めてはっきりと映ったのは、そのすぐ後のことだった。






                         おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ