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6-6

学校を離れてしばらく。寄り道すがら、


「確か2年の時かしらぁ。同じクラスになったこともあったわねぇ、憧ちゃんと一緒に。ねぇ憧ちゃん?」


聞いてもいないのに、聖が『黒咲さん』についての話をし始め、聖と憧の会話で彼女について少しの情報を得た。


「ぁん?そうだっけか?アタシは初めて見る顔に思えるがな」


「はいはぁい、貴女に尋ねた私が愚かだったわぁ」


「はっはっはっ、全く愚かだな!聖!そもそも、アタシが覚えていないっていう時点で、少なくともアタシに取っちゃ印象の薄い奴だったてことだ。加えて、アタシはどんな事であれ実力がある人間には一目置く。つまり、そのナントカって奴はこれと言った特徴も持たない、所謂モブだったってことに相違ねェ!そんな奴のことをいちいち覚えている方がよっぽど馬鹿らしいぜ」


「本当に極端ねぇ。そんなだから友達が少ないのよぉ?まぁ黒咲さんは、中学のころから大人しくて目立つ方ではなかったけれど、他の女の子より飛び抜けて美人だったわよぉ。それだけでも十分な特徴になり得ると思うけれど?」


「うんうん!同感であります!」


想依が思わず同調を繰り返す。



「あんな綺麗な人……見たことないよ!」


「確かにねぇ。でも、」


聖は笑顔で肯きながらも、微量の怪訝を顕わにする。


「なぁんか雰囲気が違うのよねぇ、彼女」


「そうなの?」


「えぇ。……何て言うか、あんなに『眼を惹く』タイプの美人じゃぁ無かったわぁ。昔から綺麗だったことは間違いが無いのだけれどぉ、だからと言ってちやほやされたり、持てはやされたりはしていなかったと思うわぁ」


「へー?あーんなにかわいいのに?」


「そうねぇ。近寄り難いって言うのかしらぁ。おしとやかな美人って言うのは、中学生には与するのが少々難しかったんじゃなぁい?中学の頃は笑った顔も見たことが無かったように思うしぃ。だから、さっきは一瞬誰だか分からなかったわぁ」


俄かには信じがたい話だ。


確かに、一見するだけでも、彼女が『高嶺の花』であったということは想像に難くない。


それにしても、あれ程佳麗な女の子を放っておくなんて、想依だったら考えられない。


いの一番に友達になりたいと思うくらいだ。



「と言ってもぉ、私も彼女とは仲が良かった訳じゃないから、もしかしたらぁさっきのが彼女の本当の表情(かお)なのかもしれないけどねぇ」


聖は苦笑して、そう付け加えた。


(普段はおしとやかで人前で笑うことも無いような子が、あんな素敵な笑顔を向けて話す相手かぁ……)


「ふふっ、どうしたのぉ?想依ちゃぁん。すっごい難しい顔してるわよぉ?」


「へぇ?な、なんのことやら?あたしのお顔はいつでもイージーモードですよー?」


「あらそぅ。ところで、どう言う関係なのかしらねぇ。黒咲さんと想依ちゃんのお友達」


「さ、さぁ?ふつーの友達じゃないのかなー?」


「ふふっ、だと良いわねぇ」


何が良いのかは皆目不明だが、聖が悪いことを考えていることは十分伝わってきた。




     ⇔




三守高校、校門。


時刻は既に六時半を過ぎ、文化部のみならず、帰途へ着く運動部の生徒もちらほらと見られるようになっていた。


門から吐き出されては散っていく生徒たちを京志郎は横目に流し見る。


一人、見知った顔の男子生徒が門を抜けて家路に着いた。7組のクラスメイトだ。



「しかし、待ち伏せとは。考えたな、京志郎!」


隣の恋火は感心した様に言う。


「我にはまるで考え付かなかった。この学舎はやけに広く開けている故、一つの敷地の中であると言うことを失念しておった」


「確かに、この学校にその感想を抱くのは理解できますね。俺もまだ入ったことのない場所も多いし」


「だが、塀で囲まれた場所ならば門があり、出入りにそこを通るのは、即ち是れ必定。むしろ待ち伏せには打って付けと言うわけだな」


恋火は「ふむふむ」と肯いているが、京志郎は、最初からこの手段を取っておけばよかったと、歯噛みするだけだ。


そうすれば、わざわざ探しに行かずとも、件の参拝者を見つけられただろう。



もう時間も時間なので、帰ってしまった可能性も高い。と、京志郎は心配したが、


「! ――近づいて来る……」


幸い、それは杞憂だったらしい。


パッと恋火が校舎の方へ向き直り、真剣な表情を取り戻して静かに言う。


「……例の女子ですか?」


「そのようだ。真っ直ぐとこちらに向かって来る。あと数十秒でここを通るだろう」


「いよいよお出ましか……」


と、京志郎は携帯電話を取り出した。


「お、そのカラクリが、例の『現実を写し絵として切り出せる』シロモノか!」


「ケータイですよ。あと、写し絵じゃなくて写真。まぁ、これがメイン機能じゃないんだけど」


そう言って、京志郎はカメラ機能を立ち上げる。



京志郎たちには、参拝者を特定出来ても、直接的に接触することは許されないという制約がある。


願いを叶えるために裏で実際に行動している人間がいるということがバレて仕舞っては、この作戦の効果は大幅に失われる。


あくまで、望みが成就したのは『神さまのお陰』。これが鉄則である。



直接がダメならば、間接的にターゲットの素性を調べる必要がある。


そこで、気は進まないものの、作戦実行のために隠し撮りをさせてもらうことにしたのだ。


後に聞き込みで素性を調べればいい。



「お、彼奴だ…!」


恋火が小声で興奮気味に言う。


彼女の人差し指の先に、遠くに二人の女子がこちらに歩いてくるのが見えた。


「どっちですか?」


「右の背の低い方だ!」


よし、と京志郎は携帯を構えた。


校門の陰に隠れつつ、画面を覗き込んで、恋火が指した方の女子にピントを合わせる。


――今この場を教師に見つかって仕舞えば、一発アウトで生徒指導室送りになるであろう程の怪しさ全開の格好だ。誰にも見つからないことを切に祈って、シャッターボタンに指を置く。


カメラでも顔がはっきりと分かる程度まで相手が近くなり、ボタンを押そうとした、その時、


「え?あれって……」


しかし、シャッター音が鳴ることはなく、代わりの京志郎の声が小さく放たれた。


「桜……?」




   ⇔

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