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ラーメンは味噌時々煮干し

『ラーメン』日本人にとって米にも匹敵する消費量の料理。醤油、塩、味噌、豚骨。この枠に囚われないさらなる味が生まれている現代。皆さんはつい選んでしまう絶対的好みの味はどれですか?




 一度は男の体に戻ったはずだったが、またも女体化してしまった蒼。

 どうやら寝ている間に性別が変わるらしいことが分かった。変身の瞬間は蒼本人に自覚は無く、眠ることがどうやらスイッチだと思われる。

 緊急搬送→集中治療→女体化→リハビリ。約一ヶ月間お世話になった病院の先生なら何が分かるかも知れないと思い、検査してもらいに行った蒼と龍久だったが、結果から言えば決定的な原因はまだ分からなかった。女体化したまま一ヶ月入院していた間は一度も変身が起きなかったからだ。



「100%な原因は分からなかったな」


「うん……。まあ、"眠ること"が当たりだったとしても、眠らないなんて解決策はあり得ないしな」


「それ絶対無理だろ」


「とりあえずこのまま普段通りに生活してみて、変身する度に記録しておけばそのうち何か分かるだろ」


「日記書くとか?」


「そんなんでもいいかな?このままじゃバイトも出来ないし、ヒマだし。また戸籍変更するのも面倒だからいっそ女のままってのも有りかな?」


 俺が何気なくそう言うと、


「お前ってやつほど付き合いやすい女友達は他にいない。俺は賛成だ。是非その方向で頼む!たまに目の保養にもなるしな」


 俺の胸をガン見しながら何故かガッツポーズをしてくる龍久。


「すぐそこに交番あるけど……行くか?」


「笑顔が怖い笑顔が怖い。冗談だよ!」





 それから俺は龍久のマンションに居候という形で、謎の性転換現象を検証し続けた。


 ――あれから一週間。

 寝ても覚めても何の変化も起きなかった。


「ただいま〜!」


「おかえりおつかれ〜!」


「家に買って来れば美人な彼女が手料理を作って待っててくれる。俺はなんて幸せなんだ!」


「キモチワリィ!彼女じゃねぇ!手料理も作ってねぇ!あとキモチワリィ!バカなこと言ってないでたまには外で何か食べてぇんだけど?」


「お前、居候の分際で図々しいな。冗談ぐらい受け止めろよ。あと『キモチワリィ』2回も言ったな」


「俺だって俺なりに洗濯、風呂掃除、コロコロかけてるだろ!?」


「可愛げねぇなぁ〜。せっかく見た目美人になったんだからもっとこう……女らしく出来ないか?『おかえり!お風呂にする?ご飯にする?それともワ·タ·シ?』とかさ。冗談でもやってみろよ」


「チッ……。はぁ〜……」


 居候で一応世話になってるのでとりあえずやってみる。


「お、おかえり……。お風呂で死ぬ?ご飯で死ぬ?それともコ·ロ·ス?社会的に」


「全部殺意しかねぇーよ。怖えーよ!?でもちょっと色っぽかった」


「マジでヤるぞ?」


「美人顔でその目つきはやめて。マジで怖いから……」


「美人言うな!嬉しくねぇから!」

 

「美人な同居人がそこまで言うなら今夜はデートにするか」


「全部お前の奢りな」


 「マジで!?」と驚きの表情で語る龍久。


「そこまで俺を女扱いするなら男見せろ。デートなんだろ?」





 龍久の運転で来たのは、大型ショッピングモールだった。ここなら街を歩き回るよりも飲食店がまとまっているから手っ取り早い。フードコートだけでもラーメン屋は三軒。ラーメンメニューがある店は他にも数軒ある。


「お前はエスパーか?俺が今ラーメンが食べたいと何故分かった?」


「いや……、それ、たった今知ったんだけど?」


「……。うん。ラーメンなんだよ。ここ3日間くらい前からそろそろラーメン食いたいって思ってたから。いいよな、ラーメンで?」


「お前本当ラーメン好きだよな?そのせいで一回死にかけたってのに」


「ちょいトイレ行ってくるわ!」


「あ、俺も行くわ」


 2人で揃ってトイレに向かう。……が、入口まで来て龍久が声を上げた。


「……ってちょっと待て!」


「な、なんだよいきなり!?」


「蒼お前、今どっちに入ろうとしてる?」


「は?」


 そう聞かれてから一瞬考える俺。

 男子に決まって……ハッ!そう言えば俺今女の体だった!!


「俺今女じゃん!」


「バカ。声でけぇよ!」


 慌てて両手で口を隠して周りを見る。幸い誰もいなかった。

 入院中の時は当たり前に男子トイレに入ってしまって騒ぎを起こし、その後何度もつい男子トイレに入りそうになっては毎度注意されていた。退院後ここしばらくは家のトイレで男女の別も無かったせいか、ついまた男子トイレに入りそうになってしまった。

 


 用を済ませ、ズボンを上げようとした時だった。突然立ちくらみがして、堪らずまた便器に座った。が、俺はそのまま気を失ってしまった。

 気が付くと、ポケットの中のスマホが電話の着信音を鳴らしていた。気を失っていたことに気付き、慌ててスマホを見る。龍久からの電話にすぐ出ると、


「蒼、大丈夫か?ちょっと長くないか?」


「すまん。なんか立ちくらみがして。気失ってた」


「マジか!?で、今大丈夫なのか?助けに行くか?」


「いや、いい!もう大丈夫だ。てか、何分くらい経ったんだ?」


「15分くらいだ」


「なんだ。そんなもんか……。今出る……」


 と、そこまで言いかけて、俺は異常事態に気付いてしまった。


「やべぇ……、龍久」


「どうした!?」


「俺、今、男の体に戻っちまってる」


「……ハァ!?マジかそれ!?なんで!?」


 そこからはマジでミッション・イン・ポッシブルだった。

 男の姿で女子トイレから出て、もし他の女性客と鉢合わせなんてしたら即通報決定。龍久と通話をしたまま、細心の注意を払って絶対安全なタイミングで出なければならなかった。俺が声を出すわけにはいかず、龍久から一方的にトイレに入って来る人を見張って、良ければ合図をする作戦だった。一時は出入りが激しくてなかなかタイミングが難しかったが、なんとか隙を見て無事脱出することが出来た。




 広いフードコートの隅の隅。話の内容を聞かれずに済む席に座り、俺はテーブルに突っ伏した。


「もぉ〜、何なんだよこの体ぁ〜……。この一週間何も変化無かったのに、公共のトイレでいきなりとか。予測出来る訳ねぇだろ」


「しかも今回は"眠る"じゃなくて"気絶"がスイッチになったみたいだしな」


「ホントマジで意味分からん!」


 疲れたのでヤケ食いというか、ラーメンを好きなだけ楽しむことにした。

 ここのフードコートには3店舗のラーメン屋が集まっている。具だくさんの家系、スタミナ系札幌味噌、煮干し中華そば。

 今の俺の気分は、スタミナ系札幌味噌ラーメンだ。因みに今日は2軒ハシゴで食うつもりだ。煮干し中華で〆る。


 スタミナ系札幌味噌は厚切りチャーシューと黄色い太ちぢれ麺が特徴。スープの味噌は鶏ガラベースで濃厚に思えて意外にサッパリ。トッピングにおろしニンニクとすりゴマと味玉が最高。ライスも追加装備で。


「やっぱうめぇ〜……!五臓六腑に染み渡るぅ〜……。ニンニクとすりゴマをチャーシューに浸けて……。ふぁ〜!これがまた白飯に合う!」


「ホンットウマそうだな」


「ご馳走様でした。ヨシ。〆の2軒目、煮干し中華だ!」


 煮干し中華そばは本当にシンプル。煮干し出汁に鶏ガラ醤油ベース。麺は平打ちちぢれ麺。透き通るようなスープに旨味を帯びた油の気泡。シンプルにチャーシュー一枚にナルトとメンマ。帰るべきラーメンの故郷(ふるさと)はここ。





「プハァ〜……!食……ったぁ~!」


「食ったな。マジで。お前すげぇな。人の金で」


「デートって言ったら男が奢るもんだろ?」


「デートかこれ?そもそもお前今男に戻っちまってるし」


「あ、そうだった。忘れてた」


「幸せで愉快な奴だな。どんだけラーメン好きなんだよ」


「褒めるな褒めるな」


「いや、褒めてないぞ」





 家に帰り、再び男に戻った原因を考える2人。

 今回は突然の立ちくらみからの気絶だった。意識が無くなるという意味では"眠る"とほぼ同じなのかもしれない。変化が無かったこの一週間の行動を振り返って考えてみる。が……。


「分かんねぇ……。全然分かんねぇ。いったいが何がスイッチだったんだ?」


 そこからしばらく迷走する2人。


「ダメだ!俺一回風呂行ってくるわ」


 龍久は風呂へ。

 数十分後……。


「ふぅ〜!スッキリしたぁ〜。お~い風呂次いいぞぉ〜!……ってまたかよ!?」


 龍久が風呂から上がって来て蒼を呼ぶと、蒼はテーブルに頬杖を付いたまま眠っていた。女体化した姿で。






「蒼、お前入院中、病院食は週一でラーメン出てたって言ったよな?」


「うん」


「その時はラーメンが食べたくてしょうがないって衝動はあったか?」


「ラーメンが出る曜日は決まってたから、その二日前くらいから我慢したりしてたな」


「二日前……」


 龍久は伸び始めた顎鬚を擦りながら考え始めた。


「もしかして、何か分かりそうなのか?」


 蒼は病院では週一でラーメンは食べれていて、衝動と我慢は二日前から。女体化した状態で退院して来て、最初に男に戻ったのは今から一週間ちょい前。その日の夜に蒼の家でインスタントラーメンを食べて、翌朝起きたら女体化していた。それから今日までで一週間、蒼は1食もラーメンを食べていなかった。


「今回蒼は『ラーメン食べたい衝動』は何日前から出てた感じか分かるか?」


「なんだよその『ラーメン食べたい衝動』ってのは?三日前くらいからだと思うけど」


 病院では二日前からの衝動で男には戻らず。でも今回は三日前から我慢していて男に戻っている。『ラーメン食べたい衝動』の我慢が三日以上続くと男に戻ると仮定して、逆に我慢が二日以内でラーメンを食べれば女体化は維持される。

 もっと分かりやすく言うと、


「蒼、ちょっと俺の推理を聞け」


「お、なになに?」


「一、ラーメンを食べなければずっと男のままでいられる」


「え……、は?」


「二、ラーメンを食べて、そのあと眠ることで女体化する」


「……?」


「つまり、衝動のままに定期的にラーメンを食べて女でいるか、ラーメンを絶って男でいるか、今日までみたいにコロコロ入れ替わるか。お前はどうしたい?」


「なんだそれ……?」


「俺が考えた仮説推理だ」


「お、男のままでいたいなら、ラーメンを……食べるなってか?一生?」


「たぶんそうなる」


「食べたい時に食べてたら、女のまま?」


「衝動が起きてから三日以内ならたぶん女のまま。だと思う」


「なんだよそれ……」


「実際に検証してみるか?今お前は女になってる。さっきラーメン食って寝たからな。今日からラーメンを食べずに一週間、衝動を我慢して本当に女のままでいれるかどうか。男に戻ったら戻ったで、またラーメンを我慢して本当に男のまでまいられるか」


 ラーメンが食べたいならずっと女として生きてゆく覚悟が必要。逆に、男に戻って、ずっと男のままでいたいならラーメンを一切断つ覚悟が必要。


「つまりそういうことだ。あくまで仮説だけどな」


「……」


 蒼は俯いたまま、動かなくなった。


「蒼?大丈夫か?」


「俺は男だ。産まれて20年間、普通に男として生きて来た。男でいたいに決まってる。でも……!一生ラーメン食えない人生なんて無理だあり得ない!性別がコロコロ変わるのも嫌だ!」


 じゃあどうするか……。

 男として生きるか、女として生きるか……。


「龍久……?」


「ん?」


「悪い。家まで送ってくれ」


「え?」


「今日は自分ん家に帰る。一人で考えたい」


「……分かった。送るよ」





「悪い。ありがとな」


「おう。心配だから一応言っとく。……ヤケ起こすなよ。いつでも連絡よこせ」


「サンキュ」


 龍久にアパートまで送ってもらい、俺は一人、一週間ぶりの我が家に帰って来た。一週間も龍久のマンションに居候していたせいか、自分の部屋が自分の部屋じゃない気がした。そして何より、自分が自分じゃないようなこの気持ちも。成人してからまさかどちらかの性別を選ばされるなんて……。性同一性障害だったわけでもないし、女装癖があったわけでもない。俺は至ってノーマルタイプだ。

 ラーメンを食べると女体化する?女体化しない為の対策が『ラーメンを食べないこと』?そんなこと出来るわけが無い。ボディービルダーにプロテインを禁止するのと同じくらい無理なレベルだ。この世の大半の生物に食事を止めさせるくらい無理な話だ。俺はそのくらいラーメンが好きだ。毎日とは言わないが、3日に一度か週に一度はラーメンが食べたい人間なんだ俺は。




 

 あれから丸二日……。

 蒼からは何の連絡も来ない。どうしてるだろうか……。

 ラーメンを止めて男でいるか、男を諦めて女でいることとラーメンを選ぶか。

 蒼は親友だ。唯一俺が素でいられる家族みたいな親友だ。あいつがどっちの性別で生きようと、俺にとってはどっちで同じ望月蒼だ。まあ……一つ言えば、女体化した美人な蒼も気にはなるけど。そこはアイツの意思が何より最優先だ。今まで通り男の蒼でも全然いい。

 仕事をしながら俺はそんなことを考えていた。

 蒼から何の連絡も無いまま、仕事を定時で終えて、車のエンジンをかけた時だった。スマホからLINEの着信音が鳴った。見ると蒼からだった。


{仕事終わったら俺ん家に来てくれないか?}


{もう終わった。今から向かう}


{待ってる}


{了解}


 既読が付いたのを確認してから、俺はすぐに車を走らせた。



 アパートに着き、蒼の部屋のインターホンを鳴らす。するとすぐに中から、


「突然呼び付けて悪いな」


 ドアを開けて出迎える蒼。あれからまだ二日。蒼はまだ女体化したままだった。


「どっこらしょっとぉ〜!」


 部屋に入ると、蒼はダルそうにベッドに座った。


「お勤めお疲れさん!」


「お、おう。おつかれ。で、お前は大丈夫なのか?」


「まあ……」


「……」


 曖昧な返事に少しだけ空気が重くなった気がする。蒼は俯いて何かを言おうとしている。


「俺さ……決めたよ」


 そこで小さく息を吸うのが聴こえた。


「……」


 俺は蒼の答えをただ待った。


「俺、やっぱりラーメンは止められねぇ。コロコロ入れ替わるのももう勘弁だ。疲れた。だからさ……」


 この時俺は、心の奥で喜んでしまった自分の感情に気付いた。気付いて、同時に罪悪感も生まれた。


「俺、もう女でいいや!男にはもう戻らなくていい。ラーメンは我慢せずに食べたい時に食べる。そう決めた!」


 蒼はそう言って、ベッドにドサッと倒れ込んだ。それは本当に吹っ切れた気持ちの現れなのか、それとも……。

 俺の本音は……、本当は女になった蒼に惚れてるのかも知れない。でもこの本音はまだ、奥に閉まっておこう。蒼は親友だ。この関係を壊したくない。


「よし!じゃあそう決まれば、今から晩飯にラーメン食いに行こう!」


「いきなりテンション高けぇな。まあ、別にいいけど?奢り?」


「勿の論だ。あぁ……でも一杯だけしてくれる?」


「勿の論で!」



 ラーメンライフを諦めることは出来ず、女体化したまま、女として生きることを決意した望月蒼。そんな蒼に異性としての好意があることを自覚した深瀬龍久は、その本心を隠くすことを決めるのだった。

 精神はあくまで男だが、女として生きる望月蒼と、親友の深瀬龍久。2人のこれからの日常はどんな展開になっていくのか……。

 


 続く……

ラーメンを食べると性転換。我慢していると元の性別に戻る。

もしもみなさんがそんな体質だったら、どんな生き方を選択しますか?

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