週に一度はラーメンが食べたい
この物語はグルメ路線の物語ではなく、ただラーメンと女体化系が好きな作者が好き勝手に描く日常系であります。
どうもはじめまして。俺の名前は望月蒼と言います。以後よろしく。
ところでいきなりなんですが、俺は今死にかけています。突然ぶっ倒れて、救急搬送されて、意識は無いはずなんだけど、周囲の声は聞こえてる。話の内容によると、どうやら心筋梗塞に加えて脳梗塞も。まあ……原因は分かってるんだけどね……。一応ドクターストップもかかってた。でも食べた。だってどうしても我慢出来なかったんだもん!。あぁ……短い人生だったな……。
俺は数日間死の峠越えに挑む羽目になった。死神デッドサンクスとかいう死神梗塞兄弟のRXー7に煽られまくった。ペーパードライバーの俺がなんでこんな……!?コーナリングもまともに出来るわけもなく、結局ガードレールを突き破って、崖から奈落の底へ突き飛ばされた。
――ああ……。俺の人生これで終わりなのか……。マジか……。龍久に一言も言えずに死んじまうのか……。ごめんな龍久……。
気が付くと、俺は病院のベッドで目覚めていた。
「……俺、生きてる?」
まだ死んでいない事実に驚き、堪らずうずくまって泣いた……までは良かった。うずくまったところである違和感に気づいた。胸に何か邪魔なものがあった。見ると、大きな脂肪の塊が二山。まるで女のオッパイのそれのようだった。
肉腫……?まず頭に過ったのはそれ系の病気だった。俺は意外なほど冷静にナースコールを押した。そこからは嵐のような検査の連続だった。
あまりにも怒涛すぎる展開の流れだったので、手っ取り早く結果だけ言わせてもらおう。
望月蒼20歳。数日間の昏睡状態の末、目が覚めたら……、体が女になってしまっていた。
「……ってなんじゃこりゃあああああああああ!?」
ラーメンが好き過ぎるあまり度重なるラーメン偏食でドクターストップまでかけられていたにも関わらず、我慢出来ずにラーメンを食べてしまった結果、心筋梗塞と脳梗塞のダブルクラッチで死の淵を彷徨うことになった青年望月蒼。昏睡状態から運よく目覚めたが、まさかの女体化。いったい何がどうなってしまったのか……。
目覚めてから約一ヶ月。いろいろな検査や山のような手続きが終わり、ようやく退院となった。
あれから結局、俺の体は女のまま。男に戻ることは無く。いろいろな検査や手続きが続いたのは、これから自分が女として生きて行かなければならなくなったからだ。
この一ヶ月、ナースのお姉様方に、女性としての教養を叩き込まれた。お肌ケア。入浴の基本。下着の事。生理用品、性教育まで。それこそ手取り足取り。恥ずかし過ぎるのでこれ以上は説明したくない。思い出すのも恥ずかしい。
病院の受付で退院手続きを済ませ、入口で迎えを待った。
「よう、蒼!迎えに来たぞ。黄泉がえりおめでとう!」
「黄泉がえりって……」
迎えに来てくれたのは高校からの親友。深瀬龍久だ。因みに俺には両親も祖父もいない。俺が病院に搬送された後や、意識を取り戻した後に病院に駆け付けてくれたのは龍久だけだった。
龍久の愛車RXー7に乗って病院を出る。
「お前がぶっ倒れたって聞いた時は俺まで心臓発作でぶっ倒れるかと思ったぜ。すぐ見舞いに行ったのに何日も集中治療室でよ」
「心配かけた。悪かったな」
「いや、気にすんなって。でも驚いたぜ。そのあとしばらく見舞いにも行けず、どうなるかと思ってたら、病院から呼ばれて行ってみりゃ、お前女になってんだもんよぉ!びっくり過ぎるだろ」
「それ俺が一番びっくりだったんだが……」
走る車の中、しばしの無言が続いた。以前までのような他愛のない会話が出来ない。なにせ20年男として生まれ育って来て、ある日突然女になるなんて普通あり得ない。いつも通りでいられる訳がない。ナースのお姉様方にいろいろ教わってだいぶ慣れた方ではあるけど。
「人生初めての感覚だよ」
「そりゃそうだろうな。自分から望んで性転換したわけでもないしな」
「いや、そうじゃない」
「え?」
「体をジロジロ見られる女の気持ちが、今分かったわ」
「……?」
「龍久、お前さっきから俺の体ジロジロ見てるだろ?」
「……バレてた?」
「男の条件反射というか、生理現象というか、気持ちは分かるけどな……。分かってるとは思うけど、俺、中身は男だからな。勘違いするなよ?」
「いや……すまん。分かってんだけど、ついな……」
「はあ〜……」
俺の日常、人生、これからどうなるんだろうな……。もう二度と男の体には戻れないのか?死ぬまでずっとこのままなんだろうか?
「なあ蒼、一つ聞いていいか?」
「ん?」
「お前今、下着ってどっち?」
「は?」
「下着ってどっちの履いてんだ?」
「メンズとレディースどっちかって意味か?」
「ああ」
「聞いてどうすんの?」
「いや、別に。ちょっと気になっただけだ」
「……一応レディース」
「マジか……!?布か?レースか?」
「普通のスポブラとボクサーパンツだよ!」
ナースのお姉様方に強要されていろんな下着を着けられた経緯などは記憶から抹消した。今のこれなら店でギリ自力で買える。今着てる服はナースのお姉様方に貰った割と普通の服だ。ストレッチ素材のデニムパンツ。上は無字のTシャツにパーカー。
「へ、へぇ〜……。そっちのが逆にエロいかもな」
「うぇっ……。お、お前、今どんなん想像してエロいと思ったわけ?その対象俺なんだけど……。お前実はゲイの気あったのか?今すぐ車降りていい?」
「ゲイじゃねぇーよ!マジで引いてんなよ!」
「いや、引くだろ」
アパートに到着。
倒れて以来の約一ヶ月ぶりの我が家だ。当たり前だけど何も変わっていない。自分の体以外は。
「今日このまま一人で大丈夫か?」
龍久が心配そうに聞いてきた。
「本当の女の一人暮らしじゃないんだし。一人で大丈夫だよ。それにまたお前にエロい目で見られたくないし」
「もう見ねぇよ!ってか、そういう意味で心配してんじゃねぇって!」
「送ってくれてマジでホントにありがとな。本当に一人で大丈夫だから。今後の生活の事とかいろいろ一人で考えたいんだ。今日は……だけじゃないけど、ホント、ありがと。またな」
「わかったよ。もしなんか困ったことあったらいつでも遠慮無く速攻で連絡よこせよ?」
「あぁ。助かる。じゃあな」
「じゃあな」
部屋に入り、何となくベッドに座り、改めて部屋を見渡す。約一ヶ月間留守にしていた自分の部屋……のはずなのに、もう自分の部屋じゃない気がする。今の自分がもはや以前の自分じゃないからなんだが。
洗面台の鏡で改めて自分の姿を見てみる。
入院中、メンタル面のリハビリという意味で、女の体に慣れるためのリハビリもして来た。ナースのお姉様方にされた性教育も含めて。しかし、こうして自宅に帰って来て、一人になって、いろいろな違和感を実感せざるを得ない。女で生きて行くための戸籍の変更やら何やらといろいろ済ませて来た。けど、そんな簡単に元の生活や精神状態に戻れるわけがない。
ベッドに倒れ込み、これからの生活へのいろいろな不安が頭の中を駆け巡る。考えるのがしんどくなって、寝てしまおうと目を瞑る。でも寝れないからスマホで音楽を聴いて目を瞑る。今度こそ眠れそうだ。
…………………………………………
目が覚めると、部屋も窓の外も真っ暗になっていた。
「もう夜か……」
スマホで時間を確かめると今はもう6時半過ぎ。帰ってきたのは昼前頃。
「寝すぎたな……」
部屋の電気を付けようと壁のスイッチを押した。
カチッ!
「……あれ、付かない?」
カチッ……!カチッ……!
「なんで付かないんだっけ?」
ブレーカーを見た。オンのままだった。冷蔵庫を開けてみる。電気が入っていなかった。幸い腐るような物どころかほぼ空っぽだったからとりあえずセーフだ。テレビも付かない。風呂もトイレも付かなかった。
「もしかして……」
思い当たるのは一つ。入院中の一ヶ月間で電気代の支払いが滞納になったのかもしれない。
「マジか……。なんてこった……」
「困ったらいつでも遠慮無くとは言ったが……」
「すまん。今晩お前ん家に泊めてくれ」
「早えーよ」
困ったのですぐに龍久に電話をして迎えに来てもらった。
龍久の家は俺と違って1DKのアパートじゃなくて2LDKのマンションだ。
「久しぶりにお邪魔しま〜す」
「晩飯まだっつったっけ?」
「帰ってあれからすぐ寝ちゃって。昼飯も食べてない」
「起きたら電気が付かなくて?困ったから速攻で電話して来たと」
「……すまん」
「気にするな。俺も晩飯はまだだったから何か適当に作ってやるよ。瑠依はゆっくりしてろ」
「俺も何か手伝うよ。なんか申し訳ないし」
「お前は病み上がりなんだからゆっくりしてろ。なんなら先に風呂にでも入ってこいよ」
「マジですまん」
「おい!」
「っ!?な、なんだよ?」
「次『すまん』って言ったら胸揉むぞ!」
「ハァ!?」
俺は反射的に胸を隠して後に引いた。
「変態!ホモ!アブノーマル!BLサイコパス!」
「ちょっと言い過ぎじゃね?」
「サ、サンキュー……」
「それでヨシ!」
龍久が飯を作ってくれてる間に風呂に入らせてもらうことに。
龍久の家には以前から何度か遊びに来て泊まったりはしていた。久しぶりに来たことももちろんだけど、今回はいろいろと迷惑をかけた申し訳なさで気不味い気持ちがあったからつい遠慮がちになってしまった。
体を洗いながらつい考える。ナースのお姉様方のおかげというか何というか、女の体になった自分の体にエロい気分になることは無くなって、普通に風呂に入れるようになった。髪も程よく短く切ってもらったおかげでシャンプーも面倒ではなくなった。
シャワーを終えて出ると、着替えを持って来ていないことに気付いた。今あるのはさっきまで着ていた服が全てだ。
「仕方ない。同じの着るか」
雨で濡れたわけでも、汗でびっしょりになったわけでもない。龍久の家に泊まるのは今晩一晩だけだ。
「風呂サンキュ。おかげでスッキリしたよ」
「あれ、お前着替えは?」
服が変わっていないのを見て龍久が聞いてきた。
「いやぁ〜、それが着替え持って来て無かったんだよ。上がってから気付いてさ。まあでも大して汚れてる訳でもないし。一晩だけだし、今日はこれでいいや」
と、俺は軽いノリで言った。すると龍久は少し慌てた様子でクローゼットの中をあさり始めた。そして何着かの服を俺に渡してきた。
「これ、俺の服で良かったら着てくれ。部屋着程度にはなるだろ。ほとんど着てないやつだからほぼ新品だ」
渡されたのはボクサーパンツとTシャツとデニムのホットパンツだった。
「お前、ホットパンツなんて履くの?これ女物じゃね?」
「あぁ……実はそれ元カノのやつなんだ。今着てる服は洗濯しとくから、今晩はとりあえずそれで我慢してくれ」
「いや、別に我慢するほど嫌ではないから有り難く借りることにするよ」
「お、おう……。そ、そうか」
「ん?」
龍久の様子がちょっと変に感じたが、あまり気にせず、俺はまた脱衣所に戻って着替え直した。
Tシャツは着てみるとちょっとデカかったが特に問題は無かった。
この時の俺は"元カノのホットパンツ"に関して全く違和感を感じていなかった。龍久は何故Tシャツは自分ので、ホットパンツだけ"元カノの"を渡したのか……。
「はぁ〜。ここんところ毎日スポブラ着けてたせいか、Tシャツ一枚だけになると開放感があるな」
俺は何の違和感も感じずに着替え終わった。
龍久が作ってくれた晩飯をご馳走になると、病院食と違って味も具材もボリューミーなおかげで腹一杯になってすぐに眠気が来た。
「俺はソファーで寝るからお前ベッド使っていいぞ」
「何言ってんだよ。ここまで世話になっておいてお前にソファー使わせるわけにいかないだろ。俺がソファーで寝るよ」
「分かった」
納得してくれたようだ。
「毛布だけ貸してくれ」
「一緒にベッドで寝よう!」
「なんでだよ!男2人一緒のベッドで寝れるかぁ!気色悪いわぁ!」
「俺は全然いいぜ!」
「俺が良くない!明らかに何かする気だろお前!?目つきがなんかやらしいんだよ!」
「そりゃそうだろ。だってお前今スゲェエロい格好してんだぞ?」
「してねぇー!」
「自分をよく見ろ。ノーブラTシャツで普通に乳首透けてんだぞ?」
「え!?」
言われてよく見ると、ホントに先端がモロ分かりだった。
カシャッ!
龍久に突然スマホで写真を撮られた。
「何撮ってんだよ!?」
「見てみろ」
「なにが?」
今撮った画像を見せてきた。そこに写っていたのは、ノーブラにデカTシャツ。そのデカTシャツの丈のせいでホットパンツは隠れ、まるで何も履いていないような格好だった。しかも胸は乳首がモロ見え。
「うわっ、エロっ!?」
「な?」
「『な?』じゃねえだろ!?ダメだろこれ!着替える!ジャージかスウェットか貸せ!」
クローゼットから適当に見つけたジャージの上下に着替えた。
「残念。せっかくエロかったのになぁ〜」
「何が残念だ!お前ふざけんなよ!俺をどう見てんだ!?」
「男っぽい性格の巨乳美女?」
「うわっ、最悪だ。ダメだ。このままだと俺の貞操が危うい。やっぱ帰る!」
「ごめんごめんごめんごめん。ごめんて!冗談だ。悪かった。帰っても電気止まってんだろ?もう変な事しねぇから落ち着けって!」
ジトォ〜……。
「いいか?今はこんな体だけど、精神は男なんだよ。俺は男。今度またふざけたらセクハラで通報するからな!マジで!」
「すいませんでした。もうふざけません」
翌日、アパートの電気代と水道代の支払いを済ませ、無事部屋の光熱費に関しては元通りになった。ついでに買い物を済ませよう。ちょうど蒼がいるからちょっと付き合ってもらおう。
「下着の買い物に付き合え!?」
「そうだ。パンツはともかく、スポブラは病院でナースから貰った3着しか持ってないんだ。正直ブラなんて着けたくないけど、昨日のお前のおかげで気付けた。やっぱりブラは必要だ。もう少し買っとかないと洗濯にも困る」
「それ、俺必要か?」
「荷物持ちだ。遠慮するな」
「もしかして……昨日のまだ怒ってるのか?」
「知らん!いいから付き合え」
俺は龍久を無理やり買い物に付き合わせることにした。
女物の下着売り場は人生初めてだけど、スポブラくらいなら案外簡単に買えると思った。不本意だが今の俺は見た目も戸籍上も女だ。でも一人で買うのはさすがに不安だったから連れて来た蒼は、端から見れば彼氏に見えるだろう。不本意だが……。
ナースのお姉様方に教わった、サイズだのトップだのの話はややこしくて覚えてられなかった。結果スポバラで落ち着いた。スポブラなら試着しなくても適当なサイズで合うと分かった。男のパンツのLMSと同じだ。だから適当に選んで買ってしまおうとした。
ところが、
「あの、お客様?」
「はい?」
突然店員に呼び止められた。
「スポーツブラをご購入ですか?」
「は、はい。そうですけど」
「もしよろしければ他のブラも見てみませんか?同じスポーツブラでもカワイイデザインの物も増えてまして、より自分の胸に合った着心地性の高い商品があるんですよ」
「は、はぁ……?」
「自由に試着して満足の行くものをお買い上げ下さい」
「いや、俺は別にそこまで……」
「"俺"……?」
ヤベッ!一人称"俺"はマズかったか……!?いや、でも俺は俺だ。男っぽい女もいるし。
「すいません。俺は女らしいデザインとかは苦手で……。普通のでいいんです」
「お客様、そんな立派な大きさのおっぱいをしてらっしゃるのに勿体無いですよ!後にいる彼氏さんの為にも、是非素敵なブラを選んでって下さい!」
「へ……?あ、いや……え!?」
何がどうしてこうなったのか、俺はそのまま店員さんに試着室に連れ込まれ、上半身を剥かれ、揉まれ、店員さんの納得がいくまで一方的に試着させられた。
ぎゃああああ!ナースのお姉様方より激しいんですけどぉ〜!?
――蒼視点――
「た……ただいま……。お待たせ……した……」
店員による下着のご指導をたっぷり受けて戻って来た蒼はゲッソリと痩せて見えた。
「お、おう。なんか……おつかれ」
「ナースのお姉様方よりも激しかった……」
「な、なんだと!?それ詳しく聞かせてくれ」
「うるせぇ。あぁ、もう帰りたい。帰ろ。疲れた……」
――いったいどんな下着を買わされたんだ?蒼やつ、ナースのお姉様とか店員さんとか、組んず解れつで何をそんなに激しくされたんだ!?羨ましいぞこの野郎!
とりあえず一度フードコートで休むことに。
グッタリとテーブルに突っ伏す蒼。
「ほらよ。とりあえず水。なんか飯食うか?」
「あぁ、サンキュ」
蒼はそう言って座り直すと、紙コップの水を一口で飲み干した。
「プハーッ!マズい。もう一杯!」
「マズいのにもう一杯かよ!」
蒼が動く度に胸がユレるのでつい視線と意識がそっちに行ってしまう。どんなブラを着けられたんだ?ちょっと見てみたい。精神的には男同士だし、お願いすれば見せてくれるかな?揉むのはさすがに怒られるか……?にしても、あの蒼が、女体化してこうも美人になるとは……。色気には欠けるけど男っぽい美人ってのも悪くはないか。
「何か食って帰ろうぜ。蒼は何食う?ラーメンか?なんなら奢るぞ?」
「あぁ、ラーメンかぁ〜……。ラーメン食いてぇ〜。でも今回ぶっ倒れたのラーメンの食い過ぎらしいんだよなぁ。ドクターストップ無視したら今度こそ死ぬかも」
「そういや病院でそんな事言ってたな。食生活の改善が必要か。だったらここは少しでもヘルシーに、山菜鴨蕎麦なんてどうだ?」
「それ普通に美味そう。それにしよう」
昼飯と買い物を済ませ、家に帰る蒼の車の中。
「そう言えばお前、これから仕事とかどうすんだ?」
「あぁ……」
入院中だったこの一ヶ月で働いていたバイトはやむ無くクビ。それに加えて性転換による戸籍変更。女性としての望月蒼として新たな生活をして行かなければならない。
フリーター生活もそこそこ長かったからまた新たにバイトを探すもそんなに苦ではない。しかし……。
「やっぱ女として生きてくってことはそれなりの仕事選ばなきゃならないのか?」
「今のお前、誰がどう見ても普通に女だもんな」
「めんどくさ」
「でも今時仕事に男も女も関係無いだろ?バイトで入れる仕事なら尚更だ」
「う〜ん……確かに。適当にいいとこなんか探してみるわ」
龍久に家まで送ってもらい、その日は別れた。
鏡で自分の姿を見て、女になってしまったという事実を改めて再認識して、これからどう過ごして行くかを考えることにした。
その日の夜、今日買い物でついでに買って来た冷凍食品で晩飯を済ませ、何気なくテレビを見ていると、バラエティー番組でご当地激うまラーメン特集をやっていた。
静岡のゆず香る『ゆず味噌ラーメン』や、仙台名物『牛タン塩ラーメン』。青森はシンプルながら透き通る出汁の『焼き干しラーメン』。神奈川からは『ほうれん草たっぷり家系豚骨醤油ラーメン』。
「あぁ〜……。あ〜……ラーメン食いてぇ〜!」
ラーメン偏食のせいで一度死にかけて、生まれ変わってもやっぱりラーメンが食べたい衝動に襲われる。入院中でも週に1食はラーメンが出た。かなり薄味で到底満足出来る物では無かったが。
「そう言えばあれから一週間ラーメン食ってないな。また死にたくないし、まだ我慢出来る。今日はもう寝よう」
そう決めてベッドには入ったが、ついついスマホで大食いYouTuber『らすかる』さんのラーメン回を見てしまう。
「やべぇ〜……。マジでラーメン食いてぇ〜……」
しかし、時間とともに食欲よりも睡眠欲が勝ってゆき、俺の意識はいつの間にか眠りに落ちて行った。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
翌朝。
スマホから電話の着信音で目が覚め、出たつもりだったが、スマホを耳に当てたまま、また寝てしまった。一瞬とも思える数分後。今度は玄関からのチャイムと着信音が同時に鳴り響いたことで今度こそ起きた。
「おーい、無事かぁ〜?なんとなく心配だったから一応来てみたけど。起きてるかぁー?」
「すまん。今起きた。今玄関開けるからちょっと待ってろ」
「おー」
フラつきながら玄関に向かう。ドアを開けると痛いほどの日の光が瞳孔に突き刺さってきた。
「ま……眩し……!」
「おう。何ともないか心配で来た……んだ……が……?」
眩しさと眠気を堪えて龍久を見ると、なんだか様子がおかしい。
「悪い。夕べは考え事して寝るのが遅くなって……てどうした?」
「どうしたってお前……お前こそ何があった?」
「は?何がって……なにが?」
「蒼、お前……!男に戻ってんぞぉ!?」
「……は?」
言われて自分の体を見る。
昨日まであったはずの割とりっぱだった胸の膨らみが無い。そう言えば何となく肩も軽くなっている気がする。平たくなった胸を触って確かめ、次はそのまま股間に手を伸ばしてみた。懐かしい感触と感覚が全身に駆け巡った。
「玉だ!チンコだ!チンコがある!戻ってる!?戻った!?俺……俺の体、元に戻ってる!?」
この瞬間で眠気はぶっ飛び、俺は歓喜した。
「うおおおおおお。男に戻ったー!チンコが戻ったー!タマタマもあるー!やったー!」
「おいおいおいおいっ!朝から玄関先でチンコチンコ連呼すんな!一回落ち着け!ったくどうなってんだ。訳わけらん!」
何がどうしてこうなったのか。俺の体は何故か男に戻っていたのだった。
「なんてこった……。蒼が……巨乳の美人姉ちゃんになって生き返ったってのに、男に戻っちまった。ハァ〜……!」
「おいコラぁ……!誰が巨乳の美人姉ちゃんだ!残念がってんじゃねぇ!」
残念がっている龍久のケツを思いっきり蹴り上げてからとりあえず家の中に入れた。
男に戻れたことは踊りたくなるほど嬉しいことなんだが、現在の俺の戸籍はもう女ってことになっている。つまり戸籍をまた変更しなきゃいけない。非常に面倒くさい。ついでに言うと……、
「せっかく買ったスポブラが無駄になった」
「ホントそれな。買った翌日にな。でもメルカリとかですぐ売れるだろ。新品だし」
「男がスポブラ何着も持ってたら変態だ。早いうちに売らないと」
「にしても不思議だな。体が女になったり男に戻ったり。まるで漫画だぜ。いったいどうなってんだ?」
「そんなの俺が知りてぇよ。もしかしたらなんかの拍子にまた女体化する可能性もあんのか?」
「可能性はあるな」
「面倒せぇ〜。なんなんだこれ。俺が何したってんだ?」
何の神様の悪戯か、自分の体が突然女になったり男になったり、ランダムなのか、それとも何かスイッチがあるのか全く分からないこの状況で、バイト探しどころでは無い。私生活すら不安定だ。
「もうどうすりゃいいんだよぉ〜!」
「なあ、蒼?」
「んあ?」
「ものは試しなんだが……」
パニクって頭を抱える俺に、龍久はとある実験を提案してきた。
『らんま1/2』という漫画を例に挙げてきた。水をかぶれば女に。お湯をかぶれば元の男に。
「なあ、おい……、こんな漫画みたいなこと真似して上手くいくのか?」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ。現に漫画みたいな事が今蒼の身に起きてんだから」
「そうだけど……」
「いいか、行くぞ?」
風呂場でパンツ一丁になった俺はギュッと全身に力を入れて堪える準備をした。そして龍久が俺にシャワーで水をかける。
「せーのっ!」
ブシャー!
「あああおあああああ!!」
冷たい水が勢いよくかかる。その冷たさに俺は悲鳴を挙げながら堪えた。
…………………………………………
結果。何も変化は無かった。
「ぶぇっきしっ!あーもー。ただの濡れ損じゃねぇか!?」
「ダメだったか。じゃあ次はお湯で行こう!」
「お前ん家でシャワー浴びた時に何も起きなかっただろ!?」
「う〜ん……。そうか分かった。今のはパンツを履いてたからだ。全裸ならきっと……!」
「却下。それでもし女体化したらお前が喜ぶたけだ。却下だ!」
「なんでだよ!やる価値はあるだろ!?」
「ない!絶対ない!」
男から女になるスイッチと、女から男になるスイッチは別にあるのかも知れない。そう思った俺と龍久は思いつく限りのことを試してみることに。
ブラの着脱、スカートを履く、くしゃみ、野菜を食べる、牛乳イッキ飲み、座禅、じゃんけん、あっち向いてホイ、ビンタ、性転換アプリ、飲酒、AV鑑賞、エトセトラエトセトラ……。
全て撃沈。全く何の変化も無かった。外はあっという間に夜になり、そのままダラダラと酒を飲んでいるだけで何の進展も無いまま夜は更けて行った。
「もう寝るか」
「だな。俺ももう眠い」
「じゃあ寝よう」
俺がそう言ってベッドに倒れ込んいざ眠ろうとしたところで、
「ちょっと待て蒼!」
龍久は何かを思い付いたように眠そうだった目をかっ開いた。
「おいおい蒼、お前さ、昏睡状態から目が覚めたら女体化してたんだよな?」
「……?そうだな」
「今朝も目が覚めたら、男に戻ってたんだよな?」
「お前に言われるまで気が付かなかったけどな」
「ってことはだ。一度寝ることがスイッチなんじゃないのか?」
「……」
言われて見れば確かに。でも、入院中は一度も性転換しなかった。他にも何か切っ掛けがあるのか?まだ腑に落ちないが少しでもヒントになるならやってみよう。
俺はもう一本酎ハイを飲んで、今度こそ寝ることにした。
これで何か分かればと願いながら眠気に意識を預けた。
翌朝。
龍久に起こされるわけでもなく自然と目が覚めた。スマホを見ると時間は午前11時前。
「……っ!?」
俺は飛び起きて自分の体を確かめた。しかし、体は男のままだった。女体化の変化は起きていない。もうこのまま放っといてもいいんじゃないかと思えて来た。
龍久はまだ起きそうにない。
とりあえず顔を洗って、歯磨きして、昼飯をどうするか考えよう。
それから龍久が起きたのは1時間後だった。俺がアレンジインスタント麺を作っていたからその匂いに釣られて起きたんだろう。
「蒼、お前何作ってんの?」
「いつもの事ながらラーメンだ。お前も食う?」
「せっかくだからご馳走になろうか」
麺を茹でてる間に、フライパンに香味ペーストを垂らしてからキャベツともやし、ごま油を少々で軽く炒める。麺がほぐれて来たら調味料スープを入れてまた少し煮る。2人分の丼ぶりに麺とスープを別けたら、炒めた野菜を乗っけて、
「ハイお待ちぃ!マルちゃん正麺塩ラーメン出来上がり」
「おう!美味そう!ただ普通に炒めた野菜乗っけただけなはずなのに」
「調味料のチョイ足しが良いんだよ」
女体化現象の切り替わりの謎はとりあえず一旦置いといて、今はとにかく体が要求している食べたい食べ物を食べる。健康的かどうかよりも、身体にこれが一番良い。俺はそう思って生きてきた。
インスタント袋麺と有り合わせの野菜と調味料で作った文字通り有り合わせのラーメン。でも今の俺にはこれで充分だった。
「ふぁ〜。食ったぁ〜!フゥ~!」
「ごっつぉさん!」
食べ終わった容器を洗いながら、
「蒼、お前今日このままどうするんだ?俺一緒にいた方がいいか?」
龍久にそう聞かれて、考えた俺は、
「今晩またお前ん家に泊まるってはどう?」
「は?いや、別にいいけど?」
「俺ん家だとベッドは一つしか無いし、壁薄いからまた何かあった時近所迷惑になるし」
「さっきまで俺床で普通に寝てましたけど……?」
「あ……そうだった。すまん」
「お前のベッドで2人で寝るのも俺は別に嫌じゃないんだけど?」
「だからお前は、そういうキモいこと言うなっつーの!」
ラーメンを食って胃袋が満足した身体は今度睡眠を要求してきた。
龍久は風呂に入りたいと言うので、龍久は風呂へ。俺は昼寝をすることに。
浴室から聴こえてくるシャワーの音をBGMにして俺はすんなり寝た。
その数分後……。
龍久が風呂から上がってきた。そしてベッドに寝ている蒼を見て、
「キタァー!女体化キタァー!蒼が女に戻ってるぅー!」
龍久の奇声に目が覚めた俺。
「ビックリしたなぁ……。なんだよいきなりうるせぇな」
「女に戻った。女に戻った。やっぱり戻った!なんでだ!?」
「げっ……、戻ってる!?」
「ヨシッ!ヨッシャ!また男に戻る前に今の内に……おっぱい揉ませてくれぇー!」
もみゅんっ!
「あびゃっ……!?」
「おっ!?『あびゃっ』だって。カっワイ!」
「何やってんだテメェは……?マジでぶっ殺す!」
翌日病院に行って今回の事を話し、この女体化謎現象の原因と対処法が無いか聞いてみることした。ついでにボコボコになった龍久の治療も一応してもらう。
続く……
『芽吹と春夏秋冬』が作者のメイン作品ですが、今作はここ一ヶ月間で思い付いて試行錯誤してまとめた作品です。その割に大した出来ではないですが、面白いと思ってもらえたら幸いです。




