故郷
列車が長い吐息のような音を立てて到着した。
扉が開き、人々が降り、そして別の人々が雪崩れ込むように乗り込んでくる。
リオもその流れに身を任せ、車内へ足を踏み入れた。
見知らぬ肩と肩の間に立ち、頭上の吊り革に手を伸ばす。
強くもなく、弱くもなく。
列車が動き出したとき、体が揺れないための、ただそれだけの力で。
朝はいつも、こんなものだ。
車内の空気は人の息で満ちている。
疲れた顔が向かい合っているが、誰も本当には見ていない。
会話はなく、視線も一秒以上留まらない。
列車が走り出す。
微かな振動が足裏から背骨へと伝わってくる。
リオは視線を落とし、年月に削られた床を見つめた。
――これが、俺の望んだ人生だと思っていた。
脳裏に浮かぶのは、極東の島。
狭い道、絶えず聞こえる海の音、そしていつも静かすぎた小さな家。
あそこで俺が学んだのは、耐えることだった。
多くを語らない。
多くを問わない。
多くを求めない。
あの場所が俺に教えたのは、ただ一つ。
沈黙だ。
列車は小さな駅ごとに停車する。
数人が降り、車内の密度が少しずつ緩む。
大きな駅で多くの乗客が降りたとき、窓際に空いた席が目に入った。
リオはそこへ移動し、腰を下ろす。
体をガラスに預け、肩の力がようやく抜けた。
窓に映る自分の顔は、ぼんやりとしている。
どこにでもいそうな男の顔。
あまりにも、普通だ。
この街の喧騒は、いつも俺を故郷へ引き戻す。
決して交わらない二つの世界。
どちらも、完全には理解できない。
高層ビルが密集し、
駅は眠ることを知らず、
車の流れは都市の血流のように途切れない。
すべてが速い。
時間そのものが、無理やり走らされているようだ。
俺はこの国の最果てで育った。
極東の島、キョクトウ。
水上という姓を持つ、貧しい漁師の家の子だ。
三人きょうだい。
真ん中が、俺。
姉は彩音。
妹は志乃。
リオは前方に目をやった。
制服姿の少女が、赤いリンゴをかじりながら座っている。
耳にはイヤホンが二つ。
周囲には何の関心もなさそうだった。
リンゴ――。
求めてもいない記憶が、ふいに蘇る。
まだ幼かった頃の、ある朝。
母はリンゴを二つ、私たちに渡した。
一つは丸ごと、妹に。
「志乃、これはあなたの」
もう一つは姉に手渡された。
「彩音、これをリオと分けなさい」
そのとき、幼い俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。
なぜ、妹はいつも多いのだろう。
単純な問いだった。
だが、幼い心を揺らすには十分だった。
俺は姉に提案した。
「君が分けるなら、俺が選ぶ。
俺が分けるなら、君が選ぶ」
それが、公平だと思った。
公平。
正義。
だが、現実は違った。
彩音はリンゴを分け、
俺に渡したのは、明らかに小さい方だった。
丸ごとのリンゴを持つ志乃に、負けたくなかったのだ。
俺は手の中の小さなリンゴを、長い間見つめていた。
これは、公平なのか。
それとも――
そもそも公平とは、何なのか。
あの日から、俺は一つのことを知った。
俺はまだ、
その言葉の意味を、理解できていない。
____
父は、私を厳しく育てた。
いや、厳しすぎたと言うべきかもしれない。
父は私に、優れた漁師になることを望んでいた。
黒鯨を突く者――ランマになること。
それは、私が拒む術を知るよりもずっと前から、
彼が私に課した運命だった。
だが、私は同年代の子どもたちとは違っていた。
彼らが泳ぎ、潜り、海で遊んでいる間、
私は水に入ることを避けていた。
家に残り、本を読み、黙って、ただ観察している方がよかった。
文字を覚えるのも早かった。
学校に正式に通う前から、私はすでに本を読んでいた。
姉が文字を学び始めたとき、私はその横で黙って見ていた。
小学校に上がる頃には、文章を不自由なく追えるようになっていた。
薄い紙の束に刻まれた文字は、
私に別の世界を見せてくれた。
毎日目にする海よりも、
ずっと広く感じられる世界だった。
塩の匂いもしなければ、
強さを求められることもない。
そこでは、私は「別の誰か」になる必要がなかった。
それでも、父は父だった。
水ノ江 源蔵。
彼は、私が弱い男になることを恐れていたのかもしれない。
だから、強くあれと求めた。
耐えろ、と。
八歳の頃、父は私に泳ぎを叩き込んだ。
何度も溺れかけた。
だが父は慌てなかった。
すぐに助けることもしなかった。
恐怖もまた、学ぶべきものだと、彼は考えていた。
泳げるようになると、今度は毎晩、私を海へ連れ出した。
漁に出るためだ。
暗闇の中を進む。
私が船の隅で眠りこけていても、
家で安全に眠るよりはましだと、父は言った。
だが、周囲の大人たちを見渡すたび、
一つの疑問が浮かんだ。
この中で、
本当に人生を楽しんでいる者は、どれほどいるのだろう。
島の電気は、週に三日しか通らない。
残りの夜は闇と海の音に支配される。
テレビは貴重品だった。
比較的裕福な家に集まり、
肩を寄せ合い、声を潜めて観ていた。
その小さな贅沢を、無駄にしてはいけないかのように。
その一方で、
チョウコ島の都市・新京は、
国家の進歩の象徴として誇らしげに語られていた。
私たちは国を誇れと言われながら、
足元の土地は置き去りにされたままだった。
あの日の空は、青かった。
この街には不釣り合いなほどに。
リオは空を見上げ、必要以上に長く視線を留めた。
光が目を刺し、わずかな痛みを伴う。
その青さが、記憶の底に沈んでいた何かを引き上げる。
形にならない、感覚だけの記憶。
――海だ。
私は確かに、海で育った。
浜辺、舟、
風呂に入っても消えない塩の匂い。
あの場所では、空はいつもこうだった。
広く、正直で、
優しさを装うことのない色。
思考は、ある一日に飛ぶ。
土曜日。中等学校の帰り。
母は短く言った。
「お父さんが浜で待っているわ」
その日は、鯨漁の始まりだった。
毎年五月から十月にかけて、
黒鯨の回遊路が極東島の沖を通る。
その季節は、ラボラと呼ばれていた。
浜では、モライ・シャの儀式が始まっていた。
極東島沿岸の十一の氏族が集う。
長老たちは祈りを捧げる。
過不足のない恵みと、安全を。
歓声はない。祝祭もない。
あるのは、厳粛な沈黙だけだった。
その日、私は初めて、
一本の長い銛を渡された。
先端は、ただ鋭いだけではない。
鯨の皮膚を貫くために作られたものだった。
その日、私は――ランマになる。
年齢を考えれば、異例だった。
だが父は、ずっと前から知っていた。
幼い頃から、
私の投擲は正確だった。
石でも、釘でも、矢でも。
一点に意識を集中すれば、
外すことはほとんどなかった。
父は多くを語らなかった。
長老たちの前で、
ただ私に銛を手渡し、
海を見つめていた。
まるで、
私には見えない何かと話しているかのように。
ランマになることは、生易しい道ではない。
何世紀もの間、
ランマは選ばれた者だった。
一つの誤りが、命を賭ける結果を招く。
儀式が終わる。
十一艘の舟。
一氏族につき、一艘。
一艘に十二から十五人。
狩人たちは落ち着いた足取りで乗り込む。
顔に浮かぶのは、いつも通りの静けさ。
――私だけが違った。
初めてだった。
舟に乗り込む直前、
私は父を振り返った。
父は一瞬だけこちらを見る。
笑みも、頷きも、言葉もない。
ただ、砕ける前の波のような、
平坦な視線。
私は船首に座った。
父の真正面だ。
彼は船尾に立ち、指揮を執る。
櫂、帆、風、潮。
すべてが彼の声で動く。
舟が海へ押し出される。
木が水に触れ、低く軋む。
最初の櫂が入り、次が続く。
――ドク、ドク、ドク。
冷たい水が脛を打つ。
潮風が顔を叩く。
海の匂いが、肺を満たす。
進む。
朝の海は、完全に穏やかではなかった。
小さなうねりが舟を揺らす。
息を殺したような上下動。
海鳥が上空を旋回する。
誰も話さない。
あるのは、櫂と風と、木の擦れる音だけ。
時間が、引き伸ばされる。
やがて、一人の漕ぎ手が前方を指さした。
遠くの水面が、不自然に動いている。
最初にそれを捉えたのは、私たちの舟だった。
水の下に、影が現れる。
巨大で、暗く、
ゆっくりと、しかし確実に動く。
黒鯨の群れ。
海がざわめく。
水面がわずかに持ち上がる。
巨大な息が、
溜め込まれたままのように。
――フオォン。
白く、重い噴気が空へ噴き上がる。
体が強張る。
舟が近づく。
近すぎる。
その瞬間、父が私の名を叫んだ。
風を裂く声。
私は船首に立つ。
足元の木は濡れて滑る。
手の中の銛が、
先ほどよりも重い。
金属の先端が、陽光を弾く。
鯨が、はっきりと姿を現す。
灰黒色の皮膚。
皺。
無数の古傷。
目は見えない。
だが、そこに「いる」ことは分かる。
その存在が、空気を圧迫する。
心臓が、耳元で鳴る。
波が船腹を叩く。
漕ぎ手たちの叫びは、
遠く、別の世界の音のようだった。
そして――
世界が、狭まる。
海は消えた。
音も消えた。
恐怖も、ない。
あるのは、ただ一つの点。
厚い皮膚の奥、
銛が通るべき場所。
それは偶然ではない。
生と死を分ける一点。
鯨にとっても、
私たちにとっても。
私は跳んだ。
体が舟を離れる。
一瞬、空中に浮かぶ。
風が顔を打つ。
全ての集中を込めて、
銛を放った。
……
……




