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第23話「AF-08d9f:スイート・アフターグロウ/ep6」

■第23話「AF-08d9f:スイート・アフターグロウ/ep6」


 月華の懸命の心肺蘇生が功を奏し、兎乃は一命を取り留めた。

 かすかにだが兎乃の呼吸が戻り、心臓が鼓動を刻み始めたことを確認した瞬間、月華は心から安堵した。


 そして今は、数分と経たずに到着した医療車両に運ばれていく兎乃から離れまいと、G.S.P.T隊員に食って掛かっている。


「あたしも連れてけ! そいつはあたしのバディだぞ!」


 ――こいつらにラビを任せられるか。


 月華は必死で隊員を振りほどこうとする。

 兎乃が安全だと、この目で確認するまでは、一歩も離れるわけにはいかない。


 二人がかりで羽交い絞めにされながら、月華はそれを振りほどこうと暴れている。

 だが、負傷した右足のせいで強く踏ん張れない月華では、到底隊員の力に敵わない。


『月華! 堪えろ! 君ができることは十分にやった!』


 守屋の制止も月華を止める決定打にはならない。

 左側の隊員に肘鉄を打ち込み、やや拘束が緩んだ隙に右側の隊員を投げ飛ばそうと体を滑り込ませる。


 だが、それよりも早く、別の隊員にみぞおちを強く殴られ、月華は痛みに抵抗する力を瞬間的に失う。

 そのわずかな間に立ち直った左側の隊員に再び拘束される。


「……クソッ! ふざけ……やがって……」


 横隔膜が痙攣し、呼吸が自由にできなくなった月華には取り合わず、正面の隊員が無線で何かをやり取りしている。


「了解、無力化して連行します」


 正面の隊員は冷淡にそう言うと、テーザー銃を取り出して、月華の腹に容赦なく撃ち込んだ。

 電流が全身を駆け抜け、一瞬で体が動かせなくなる。


 月華が抵抗力を失っている間に、左右で拘束している隊員が月華の手を後ろに回し、親指をサムカフで繋いだ。

 同時に素早く身体検査をされ、拳銃とナイフを没収される。


 痛みに耐えながら顔を上げると、いつの間にか医療車両の後部扉が閉められている。

 月華はなんとか体を動かそうとするが、まだテーザーのショックから完全に抜け出せていない。

 更に両手を拘束された今、これ以上の抵抗は不可能だった。


 医療車両が発進していく。


「クソ野郎共……」


 未だ叫ぶこともできない月華を無視し、隊員はその体を引きずり起こす。

 そのまま左右から支えて無理やり歩かせるように、残ったもう一両の車両の後部へと月華を放り込んだ。


 車両内でも、月華は二人がかりで監視され続けた。

 既に自力で歩行できる程度までは体の自由は取り戻せているが、月華に抵抗の意思はなかった。


 未だ体のあちこちが筋肉痛のように動かすと痛むが、それを態度に出すことはなく、月華は宙へと視線を投げ続けた。

 G.S.P.Tの誰かと目が合ったら、その顔に唾を吐きかけ暴言を投げつけることを、我慢できそうになかったからだ。


 月華はSPRRU第三班の隊舎内まで連行され、守屋の立ち合いの元解放された。

 G.S.P.Tは最低限のやり取りだけを守屋と交わし、速やかに撤収していった。


 結局、月華には兎乃がどこに運ばれたのかさえ、知らされることはなかった。



 * * *



 それから十数分後。


 時刻は零時を回り、一時になろうとしている。

 兎乃を除いた第三班の三人は、事務室に集まっていた。


 テーザー銃の影響からほとんど回復した月華が、ソファーに座って苛立たし気に足を揺らしながら守屋を睨みつける。

 波瑠は目をつむったまま自分のオフィスチェアに腰かけて、ポケットに手を突っ込んで椅子を左右に回している。


 月華のあからさまな苛立ちに耐えかねた守屋が、降参とばかりに先に口を開いた。


「兎乃君の命に別状はないそうだ。月華、君の救急措置のおかげだよ」


 少しは気が紛れるかと思って言った言葉だが、月華の苛立ちは少しも収まらない。

 仕方なく守屋は自分の知る限りを話すことにした。


「僕だって兎乃君がどこに運ばれたかは知らないんだ。意識を取り戻して、体に大きな問題がなければ連絡が来るから、それまで待とう」


 そう言われ、月華は舌打ちをして守屋から視線を外した。

 守屋はやれやれとひとつ息を吐くと、椅子にもたれながら今度は自ら月華に問いかけた。


「それで、結局AF対応中に何があったんだ? 僕からは、兎乃君の通信が途切れたこと、月華がAFを強硬手段で止めたことぐらいしか分からないんだが」


 月華は視線を窓の外へと向けながら、疲れたような様子で話した。


「……ラビの声が途絶えた後、タクシーの車内が見えなくなった。これ以上ラビの記憶を消す訳にはいかねえから、バンをぶつけて止めた」


「うん、そこまではなんとなく把握できている。問題はその後だ」


「タクシーを止めたあと、あたしは兎乃を助けに向かった。その時、タクシーから銃声がした。多分、ラビがAFを撃ったんだと思う。あたしがタクシーのドアを剥がした時には、兎乃はグッタリしてた。AFがどうなったのかは……確認する余裕がなかった」


「その点は大丈夫。SPOOからAFの無力化完了の通達は出てるから、兎乃君がなんとかしてくれたんだろうね」


「……そっからはご存じの通りだ。あたしがラビをなんとか蘇生させたあと、到着したG.S.P.Tはラビを連れて行った。あたしはG.S.P.Tに制圧され、こうして無様にくっちゃべってる」


 月華の口から顛末を聞いた守屋は、「なるほど」と言って顎を軽く撫でた。


「つまり、肝心なところは兎乃君の口から聞くしかない、か。月華の強硬策が、死に戻る前に功を奏していればいいんだけどね。ところで、月華は怪我はないのか? 車と車をぶつけるなんて、大事故だ」


「はっ、かすり傷だよ」


 月華はそう言うが、守屋は彼女が右足を庇うように歩いていたのを知っている。

 他にも痛めている所はあるだろうし、細かい怪我まで入れればそこそこの負傷になるはずだ。


 月華の本音は、兎乃が戻って来た時に一秒でも早く確認したいのだろう。

 この様子では、月華が不在の間に兎乃が戻ってきたら、守屋が連絡するといった所で納得するとは思えない。


 ひとまず月華は様子見しようと守屋は心の内で判断する。

 兎乃も命に別状がないなら、戻ってくるまでそれほど日数はかからない可能性が高い。


「……明日、僕から見て問題があるようだったら、月華も即検査だからね」


「はいはい。分かりました」


「とりあえず、今日はご苦労だったね。もし何か連絡があったらすぐ起こしてあげるから、月華は休みなさい。波瑠も、今日はもう電車もないし泊まりになるが、構わないな?」


 守屋に話を振られた波瑠は、目を閉じたまま頷いた。


「じゃあ今日はこれで解散とする。明日から通常待機に戻るように」


「それじゃ、お言葉に甘えてあたしは寝るよ。守屋さん、何かあったらすぐに教えてくれ。……頼むよ」


「任せなさい」


 守屋は苦笑しながら、早く寝ろと手をひらひらさせて月華を追い出した。



 * * *



 月華は三階に上がると、まずシャワーを浴びた。

 汗と埃にまみれた体を洗い流し、肌着に着替える。


 それから、自室へと戻った。


 部屋の灯りを点ける。

 もう見慣れた、一年以上を過ごした自室が目に入る。


 部屋の隅に、兎乃のために用意した丸椅子が目に入った。

 月華は舌打ちをして自分のベッドに腰かけた。


 そのまま寝転んでしまおうとして、まだ髪が濡れていることを思い出した。

 今から乾かすのも億劫だが、かといって誰も代わりにはやってくれない。


「ああっ、クソ」


 月華は頭をかきながら上体を起こし、ベッドの上であぐらを組む。

 タバコを吸おうと周りを探すが、ライターと一緒にドレッサーの上に放り投げたことを思い出す。

 なんとなく立ち上がって取りに行くのも面倒になり、月華はヘッドボードに寄りかかった。


 室内はしんと静まり返っている。


 月華にとって、この静寂は決して嫌いなものではなかった。


 月華がここに配属されたとき、先任は二人とも殉職していた。

 右も左も分からない新人と二人、月華はこの環境に放り込まれた。


 その新人とは仲良くやれたと思っている。

 少なくとも月華はそれなりに頼りにしていたし、初出動で殉職した時にはこの世界に強く怒りを感じた。


 だが、それ以降のバディのことを、月華は正直あまり覚えていない。

 覚えてもどうせすぐ死ぬ。そう思うようになったからだ。


 兎乃は十何人目かのバディだった。


 もちろん最初は何も期待していなかった。

 それどころか初日で出動になった時には、なんて運のない奴だとすら思った。


 しかし兎乃は生き残った。

 月華はその日、兎乃のことを気に入り、死ななければいいなと久しぶりに感じたことを覚えている。


 兎乃は、月華には理解できない『勘のようなもの』で初出動から生きて帰った。

 それを本人は『死に戻った』と言ったが、最初は当然信じられなかった。


 でも、月華は兎乃に対し、面白いやつだなと好意を覚えた。

 極限状態でパニックになったあと、AFに立ち向かおうとしたバディは初めてだった。


 以降、兎乃はそれが偶然じゃないことを証明し続けている。

 何度苦痛にまみれ心が折れそうになっても、兎乃は何度だって立ち上がった。


 おせっかい焼きの真面目ちゃん。


 信頼できるバディ。


 大切な親友。


「……お前がいねえと、面白くねえよ」


 月華は誰もいない自室で、ぽつりとつぶやいた。



 * * *



『個体番号:AF-08d9f

 個体呼称:スイート・アフターグロウ(Sweet Afterglow)

 形状:無人タクシーの料金メーター

 分類:危険度低/ローカル

 異能:無人のタクシーとして市街を走り、過去に未練や後悔がある客を選別する。

    乗客を乗せると、運転手が居ないままメーターが回りだし、タクシーが走り出す。

    タクシーが走るにつれて乗客は次第に体温を奪われていき、低体温症で死に至る。

    今際の際で、乗客は最も未練や後悔が残っている瞬間の光景を目にするという。

 死因:低体温症。

 起源:「帰途」へ「送る」。

 対処:物理的な破壊により無力化。収容失敗。車体含め残骸は回収済み。』

これにて第4章は終了です。お付き合いありがとうございました。

面白ければ、引き続き第5章も、どうぞよろしくお願いいたします。


毎日20:30に更新予定です。

明日はインターバルストーリーを2話投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
> 今際の際で、乗客は最も未練や後悔が残っている瞬間の光景を目にするという これで名前がSweet Afterglowはすっごくシニカル~。笑顔で廃車にしてやりたい。
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