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番外編その6「波瑠と月華のゲームブームの話」

■番外編その6「波瑠と月華のゲームブームの話」


 落ちものパズルゲーム、って知っているだろうか。


 有名どころを言えば、ブロックを積み上げて一ラインが埋まったら消えて行くアレ。

 他にも果物をくっつけると大きくなっていき、最後には消えるアレとかがある。


 要は、上から下へと落ちていくモノを、箱から溢れさせないように上手く積んで消していくゲームのことだ。


 俺はゲームが好きだ。


 別に、最近好きになったという訳じゃない。

 家族がああなる前から、俺にとってゲームは生活の一部だった。最近の子供は大体そうだろう。


 だから、生活が一変してもゲームは遊んでいる。

 ただ、据え置きゲームではなく、携帯ゲームをやる機会が増えたとは思う。


 携帯ゲームは、じっくり腰を据えてやるというより、気晴らしにちょっとという遊び方がしやすい。

 特にパズルゲームは、一回一回が明確に区切られていて更にその傾向が強い。


 だから、職場でも気が向いたら携帯ゲームを触っていた。

 俺の職場は少し特殊だから、必要なことをやっていればそのあたりうるさく言われることはない。

 そもそも上司と同僚に俺含めて四人しかいないし、上司は養父なので、かなり緩いと言っていい。


 だから、油断していたんだ。

 月華がまさかゲームに興味を持つなんて、想像してなかった。


 月華の前で遊んでいた落ちものパズルを、あたしにもやらせろと言ってきたのが先週の話。

 それからもう一台レンタルで用意して対戦を始めたのが今週の頭。


 今、第三班の一部で、空前の落ちものパズルゲームブームが来てしまっていた。


 最もそのブームは、月華という台風が起こしているだけなのだけど。


 ちなみに、蓮見さんは初回プレイ時に「難しい」としおしおになって以来、ゲーム機に触っていない。



 * * *



「さ~て波瑠ちゃん、今日こそはやり返してやっからな~」


 日課のトレーニングを終えて午後の四時半。

 もう今日の仕事は終わりましたという顔で、月華がこっち来いとソファーで手招きする。


 携帯ゲーム機のレンタルは、義父さんがポケットマネーを出してくれた。

 どういう理由でそんな金を出すつもりになったのかは分からない。


 月華ときたら、一週間のレンタル中に俺を負かすべく、かなりの時間をゲームに費やしているようだった。


「波瑠ちゃんはやめろって言ってんだろ」


 月華は俺より三歳ほど年上らしいが、よく分からないやつだ。

 仕事をしてる時は、大人びて見える。だが普段の生活は、俺から見ても子供みたいなことが多い。

 義父と蓮見さんが仕事らしいことをしてる横で、タバコを吸ってマンガを読んでるんだから、そう感じるのも仕方ない。


 そんな月華の隣に座り、ゲーム機を起動する。


 同じ色のスライムを四つくっつけると消える、伝統的な落ちものパズルゲーム。

 上手く連鎖して消せると、対戦相手にお邪魔スライムを送り付けられる。そんなシンプルなルール。


「見てろよ、あたしの成長を!」


 息巻く月華とゲーム機の通信を始める。


 月華は元々、ゲームに触れながら育ってきた訳ではない。

 ただ、持ち前の器用さでどんどん腕を上げている。


 とはいえ、それでも始めて数日であることには変わりない。


「さすがにまだまだ負けないよ」


 そう言って余裕を見せると、対戦を開始した。



 * * *



 先に五回勝った方が勝ちというルールで、結果は五勝一敗。


「だーっクソ、勝てねえ!」


 月華はオーバーリアクションで悔しがっているが、かくいうこっちだって驚いている。


 初心者相手であっても、俺は手加減をするつもりはない。

 相手が真面目に勝とうとしている以上、手を抜くのは失礼だと思っているからだ。

 なにより月華は接待されて喜ぶような性格じゃないのは、火を見るより明らかだった。


 なのに、一敗した。


 こちとらゲームと共に育っている世代だというのに、要領の良さだけで、数日で一勝を持っていかれた。


「……正直、一敗するとは思わなかった」


 自分では賞賛しているつもりだけど、外から見てそう感じるとは限らない。

 月華は不愉快そうにこちらを見ると、今にも舌打ちしそうな勢いで言う。


「舐めやがって……明日はゼッテー泣かせてやるからな」


 なんて大人げない人だと呆れそうになる。

 ただ、不思議と不快感はなかった。


「なあなあ波瑠、あたしの八連鎖、あのあとどうやって返したんだ?」


 月華はすぐに態度を切り替えると、今度は貪欲にアドバイスを求めてきた。


「八連と四連の積みができた時にはもう勝ちを確信したのによ」


 これが月華の凄い所だ。

 初心者なのに、勝つためのプランを見つけ、それを実践できるように練習している。

 更に、それを踏まえて対戦相手に教えを乞うことを厭わない。


「あれは、月華が積んでるのは分かってたから、あえて即消しでスペースを作っといた。お邪魔は上手く消化すると逆に連鎖の起点にできるから、それを利用する」


「なるほどなぁ。でもそしたら、自分から積みに行くのって良くないんじゃねえの?」


「いや、相手に積む気がないならこっちは積み放題になるから。そしたらリカバリできないお邪魔を送れるぐらい積んじゃえばいい」


「ああそっか。じゃあ相手がそうしたら、積みを邪魔するように小玉を送ればいいんだな?」


「そう。だから結局は駆け引きだね。自分がアウトにならないギリギリのラインを見誤らずに積めるかが大事」


「はー、面白えなあ! よしもっかいやろうぜ」


 素直で裏表がなく、フラットな関係を築くのが上手い。

 そんな月華だから、俺もこうしてなんとかやっていける。そんな気がした。


 高校を出てから友達付き合いもしなくなり、AFへの憎しみを糧に義父の仕事を手伝って二年。

 やや歩き辛い左足と、見えづらい左目を抱えながら、淡々と生きてきた。


 だけど、こういうやり取りも、やっぱり楽しいんだ。


「いいけど、今日はもう一敗もするつもりはないよ」


「はっ、上等だ小僧」


 それを思い出させてくれた月華と小さなゲーム機に、俺は感謝していた。



 * * *



「……あの、守屋さん。私先に上がりますけど」


 時間は午後五時十五分。

 定時を過ぎてもゲームをやめない月華と波瑠をちらりと見ながら、兎乃が控えめに申し出た。


「蓮見君は気にしないで。お疲れ様」


 兎乃は小さく頭を下げて、それから何故か足音を立てないようにそっと事務室を出て行った。


 残った二人の子供を眺めながら、守屋は溜め息を吐いた。


 波瑠にとっていい気晴らしになるかもと思ったけど、月華想像以上にハマったのはやや誤算だった。


 まあ、二人が楽しそうなら、それでいいか。


 守屋はそう思いながら、自分の仕事に戻った。

本話は、3章と4章の間の、インターバルストーリーです。

本編とは関係のない、ある日の日常を描いた回になります。


毎日20:30に更新をしていく予定です。

明日からは、第4章本編を投稿させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
波瑠君!よかったな! ここにも後方見守りおじさんが生まれてしまった。
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