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番外編その4「班長守屋の平穏な一日の話」

■番外編その4「班長守屋の平穏な一日の話」


 SPRRU第三班長、守屋加志貴の出勤は、班内で一番早い。


 実質的には同じ建物の三階に兎乃と月華がいるのだが、仕事場である事務室に到着するのはいつも守屋が一番である。

 波瑠に関しては、同居しているのだが通勤は別々にするようにしている。

 養父と同職場なことは、経緯的に納得しているとはいえ、一緒に出勤したいとはまあ思わないだろう。


 最寄り駅まで電車で移動後、隊舎までは歩いて十分程度。

 午前八時十分、隊舎へ到着。

 入口の二重の認証扉をIDカードで開き、二階へと向かう。


 まずは地下ガレージと訓練室、続いて二階の倉庫、事務室の順に開錠していく。


 管理している転生者が夜間に不審な行動をしないよう、三階以外の施設は基本的に施錠管理されている。

 なので始業開始の十五分前には全てを開錠するよう、心がけている。

 波瑠は出勤後、基本は通信室にこもる。通信室のみID認証で、自動施錠かつ波瑠自身が開錠できる。


 最後に事務室の鍵を開け、中に入り電気を点ける。

 昨日の退勤前に見た時と同じ光景が広がっている。


 鞄を自席に置くと、端末の電源を入れ、ポットにコーヒーを淹れる。

 コーヒーの消費はほとんどが守屋で、たまに兎乃の甘々カフェオレである。

 自分以外誰も用意しないので、必然的に守屋自身が淹れるようになった。


 自席に着いたら、まずは勤怠管理システムに出勤を登録する。

 それからメールボックスのチェック。定例報告のCCがほとんどであり、個別に見るものは多くない。

 そうして淹れたてのコーヒーで通勤疲れを癒しているあたりで、兎乃が出勤してくる。


「おはようございます」


 守屋が開錠していることも鑑みてか、兎乃は八時二十五分きっちりに降りてくる。


「おはよう」


 一言声をかけながらメールチェックを継続し、昨日残した作業があれば手早く済ませる。

 その間に兎乃の出頭報告をシステム上で確認し、ついでに月華の出頭を同時刻で入力しておく。

 波瑠もこの頃には通信室にいるらしく、出勤確認だけを済ませる。


 特に急ぎの作業がなければ、午前中は第三班の管理業務に時間を費やしている。

 主な作業は、装備貸出申請や経費申請といった、事務手続きだ。


 特に弾薬管理は手間がかかる。必用数から使用数までみっちり報告が必要だからだ。

 月華が「一発どっか行った」という度に業務停止して捜索する羽目になる。


 経費申請は、兎乃と月華の生活費も含まれるため、なるべく多くしてやりたいが難しい。

 また、経費は兎乃が来てから内容がかなり正常化され、管理部からの小言は激減した。


 この間、兎乃は座学に勤めているため、事務室はとても静かでまさしく仕事場といった様相である。


 兎乃一人に話したいことがある時や、兎乃から質問がある時など、たまに会話はあるが、基本的にはお互いに干渉はしない。


「……うーす」


 午前十一時頃になると、月華が現れる。


「おはよう」

「おはよー」


 寝ぼけ眼の月華に、兎乃は自身のマグカップを掲げて見せる。


「ユエ、コーヒー飲む? 目が覚めるよ」


「……それ、コーヒーじゃねえじゃん」


 ミルクと砂糖で甘々になったカフェオレを意地でも飲もうとしないユエに感心のような感想を抱きながら、思わず突っ込む。


「でも月華、君、コーヒーでもどうせ飲まないだろ」


「カフェインで無理やり起きるなんて、あたしはごめんだ……」


 月華はそう言いながら、ソファーに畳まれた毛布を広げて丸くなってしまう。


 もはや諦めているので、守屋はそれについてどうこう言うことはない。

 意外だったのは兎乃も早々に月華の生活態度改善を諦めてしまったことで、それだけが少し残念だった。


 お昼の十二時になると、兎乃が月華を引っ張って三階へと戻る。

 それを見送ってから、守屋もコンビニへと弁当を買いに行く。

 外食はあまりしない。近くの店は大体行き飽きてしまった。


 デスクへ戻ると行儀悪く食事をしながら端末を操作し、午後の仕事を確認する。


 十三時きっかりに、兎乃と月華が戻って来る。

 この時には月華もしっかりと覚醒しており、ようやくまともな会話ができるようになる。


「守屋さん、午後の予定はありますか?」


 特に相談事がない場合、定例的に聞いてくるのは兎乃の役割になった。


「ないよ。ありがとう」


「はい、それではトレーニングに行ってきます」


 兎乃と月華は、午後一時から四時までの三時間を、地下の訓練室で過ごしている。


 訓練室と言っても、ランニングマシンと筋トレグッズ、あと一応の射撃レーンが二つあるだけの空間だ。

 そこで行ったトレーニングの結果は、参考情報として記録され、後ほど兎乃から提出される。


 ともあれ、守屋はここでまた事務室に一人になる。

 一人になったついでに、ポットのコーヒーをマグカップに注ぎ直して一息つく。


 ここからは比較的『重たい』仕事の時間になる。


 一番時間を使うのは、SPRRU第三班としての定例報告書だ。


 これの内容は、まず報告月内にあった出動の詳細と分析。これが一件から二件。

 件数こそ多くないものの、出動後の行動は逐一記載する必要があるし、きちんと評価し正当性を主張しなければならない。

 ここを怠ると、守屋と波瑠の業務評価だけならまだしも、兎乃と月華の利用価値にまで疑義を挟まれるので、妥協できない。


 また対処したAFの異能や起源についての評価と分析も雑にはできない。

 起きていた事象から仮説を立て、現実的な評価を完成させないと、これも自身の進退に関わり得る。

 通信室にいる波瑠とチャットツールで相談しながら、まる一ヵ月かけて密度を上げていく。


『この前のAFについての分析レポート、確認お願いします』


 同じ隊舎にいるのに、波瑠は相変わらず気難しいなと苦笑しながら、守屋は「OK」と返信する。

 数字と仮説を混ぜて良く分析されたレポートを有難く参考にしながら、報告書へと内容を盛り込んでいく。


 転生者についての管理報告も手は抜けない。

 勤怠は当然のこと、日課のトレーニングの数値と、出動時の行動評価を、客観的に見えるようにできるだけ盛る。

 前回より際立っている部分を強調し、目立たなくなった部分はなんとか理由を見出してカバーする。

 装備や戦術で改善できそうな項目はそちらに責任を寄せ、改善が可能であると結論付ける。


 これらが実際にどれだけの効果を発揮しているか、守屋には分からない。

 だが、問題があった後では遅いのだ。そう自分に言い聞かせ、唸りながら報告書を作成する。


 午後四時半、兎乃と月華がトレーニングを終え、身支度を整えて戻って来る。


 兎乃から本日の訓練成果を受け取り、「お疲れ様」と声をかける。


 そこから業務終了の五時まで、なるべく兎乃と月華の話を聞くようにしている。

 そのためこの時間から半ば業務外的な雑談に終始することもあるが、守屋はそれも仕事だと考えている。


 兎乃は何か業務改善に繋がりそうなことを挙げてくれる。

 月華は気分次第で脈絡のない話をしたりもするが、必要な報告は漏らさないので問題はない。


 自分より一回り以上若い二人の転生者と話しながら、二人に味方が増えてくれればいいと、切に思う。

 だが、それを口にすることはない。自分自身ですら、最終的に二人の味方になれるとは限らないのだから。


 そうして午後の五時になると、月華が、続いて兎乃が事務室を出ていく。

 いつの間にかいない波瑠の退勤も勤怠システムで確認し、自身は日次報告書の制作に移る。


 日報はほぼ毎日、要約すると「本日状況発生無し」という内容になる。

 何も起きなかったということをきちんと記載し、その事実に感謝しつつ日報を送信する。


 急ぎの仕事がなければ、これで守屋も業務終了だ。

 自身の退勤記録を付け、端末を落とし、事務室の電気を消して、各施設を施錠する。


 明日も、何も起きなければいい。


 守屋そう願いながら、自身と波瑠の二人分の夕食をどうするか思案する。


 たまには弁当でなく、カレーでも作ってやるか。


 そんなことを考えつつ、守屋は帰路に着くのであった。


本話は、2章と3章の間の、インターバルストーリーです。

本編とは関係のない、ある日の日常を描いた回になります。


毎日20:30に更新をしていく予定です。

明日からは、第3章本編を投稿させて頂きます。

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