表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

第9話「AF-08d49:ウェルカム・ホーム/ep4」

■第9話「AF-08d49:ウェルカム・ホーム/ep4」


「……十四箇所か。少し多いな」


 波瑠がリストアップした地点が記された地図を四人で眺めながら、守屋が頭をかいた。


「この他に、無数の住宅も範囲に含まれる訳だけど」


「住宅は昼間から調べる訳にもいかないからな。……同様に学校も無理だな。SPOOのバックアップがないと面倒だ。二人がうろうろしていても問題ない所から潰したい」


「なら水道局の施設もダメなんじゃねえの」


「そこは人の出入りも多くないだろうし、警視庁の名前を使えば入れるだろう。とはいえ、積極的にやりたくもないな」


「じゃあ、残るのは神社やお寺、公園、お店ですか」


「まずは神社仏閣と公園からにしよう。自由に動けるところからだ。それから河川敷と橋も念の為。最後に商業施設。日が落ちる前ならこれぐらいが限界だろう」


「夜は動かねえのか?」


「リストアップ内にいる保証すらないんだ。持久戦も見据えて動く以外にあるまい」


「ま、今は何もしないよりマシってレベルか」


「その通り。実際にどこから回るかは二人に任せる。もしAFの催眠が疑われた場合、バディの安全確保に努めろ。僕の予想なら、二人同時に意識まで支配される確率はまだ低い」


「……班長、万が一AF本体に遭遇した場合は」


「できる限り処理しろ。今やらなくてもどうせやれと言われることになる。なら早い方が被害を少なくできる」


 SPRRUは所詮先兵に過ぎない。

 もしここで月華と兎乃が『消耗』しても、それはSPOOにとっては問題にならない。

 いや、むしろラッキーだとすら考えるだろう。『カナリアが石を見つけて死んだ』と。


 ようやく兎乃にも分かってきたが、それが転生者の扱いなのだ。

 納得はできないけど理解はできる。兎乃は何も言わずに頷いた。


「藍了解」

「蓮見、了解しました」


「波瑠は引き続き網を監視。SPOOの動向も抑えておけ」


「了解」


「よし、速やかに行動開始しろ」



 * * *



 時刻は十四時を回った。

 兎乃と月華は本日二度目となる五童子市内への移動を経て、第一目的地の承宝寺に来ていた。


 月華はやや旧式だが十分使える性能の中型バイクを路肩に停める

 兎乃は月華より先にバイクから降りると、ヘルメットを脱いだ。顔に当たる外気が心地よい。


 完全にエンジンを停めた月華も後に続く。エンジンキーを抜き、ポケットに放り込んだ。


「悪くないだろ、二輪」


 月華は気持ちご機嫌だった。どちらかというと車よりバイクの方が好きらしい。

 鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で、二つのヘルメットをワイヤー錠を使ってバイクに繋ぐ。

 「こっちの方が小回りが利く」という理由で月華がガレージの隅から引っ張り出したバイクだが、実際には趣味が半分ぐらいかなと兎乃は見当をつけている。


 黒いジャケット姿の二人が寺に入る。

 人の出入りはほとんどないが、かといって怪しまれることもない。


 昼間かつ人払いも当然できていないので、二人ともプレートキャリアを着ていない。

 ホルスターも右腿ではなく、肌着の上の左脇に忍ばせており、上からいつものジャケットで隠している。

 兎乃としてはやや心許ないが、そもそもAFに対しての信頼度も高くないし、と月華は気にしていない様子だった。


 承宝寺はこの国においてはそれほど珍しくない、住宅地に溶け込んだ寺であり、敷地はそれほど広くない。

 入り口からまっすぐ石畳が続き、正面奥に本堂と絵馬掛。右手に順に駐車場と稲荷堂。左手には墓地がある。


 日本出身の兎乃としては見慣れた光景だが、月華にとってはあまり馴染みがないらしい。

 そう広くない敷地内をきょろきょろと見回している。


「それで、具体的にはどうするの?」


「ぐるっと一周すりゃいいよ。この前のラジオみたいに、大体のAFは近づくと勝手に反応する。だからあたしらは周りを見ながらに歩き回りゃいい」


 ポケットに手を突っ込んでリラックスしながら月華が言った。

 方針としてはとても雑だが、まあそういうものなのかと兎乃も深く考えずに納得する。


 参拝、もしくは墓参りに来たかのだけのように、各施設を眺めて回る。

 その間、稲荷象や絵馬、墓石などひとつひとつに注目してみたが、異常や違和感は何もなかった。


 もののニ十分程度で全体を見終ってしまう。


「ここじゃねえな。この調子で回ってくぞ」


 もちろん兎乃に異論はない。

 月華がタバコを一本だけ吸う時間を設けてから、再び二人でバイクに跨り移動する。


 そんな調子で、二人はリストアップされた寺社仏閣を回った。

 一つ。二つ。三つ。一箇所にかかる時間は短いが、移動も挟むため時間だけが過ぎていく。


 そのまま収穫はなく、三時間ほどが経った時。

 七つ目のポイントの調査中に、現場ではなく隊舎の方で先に動きがあった。


 網を監視していた波瑠が、突如として無線に声を乗せた。


『守屋さん、四件目が出たらしい。警察が事故で動き出してる。クソ、ペースがどんどん早くなってやがる』


『面白くない展開だな。明日にはもうSPOOも動きそうだ。波瑠、情報を聞き漏らすな。被害者の動線が把握でき次第リストを更新。R1R2、ひとまず今日は次で最後にしろ。上とかち合うのは避けたい』


「だとさ。さっさと行って終わらせようぜ」


「……ユエ、あれ」


 無線に対して心あらずだった兎乃が、調査中の公園の隅を指差す。

 公園を囲むように植えられた木のうちのひとつ、その根元に金色に輝くウサギがいる。

 距離にして十メートルほど。こちらの様子を伺うように、微動だにせず兎乃を見つめている。


「なんだよ。木がどうした」


 月華はうろんげに兎乃が指差す方を眺めている。


「え、あそこに金のウサギが」


 それを聞いた瞬間、月華は途端に顔を険しくして兎乃の目を塞ぎ、抱き着くように胴を抑えた。

 兎乃の指差す方向の木の周りには、月華が見る限り間違いなく『ウサギなどいなかった』。


「見るな。惑わされるぞ」


 月華はAFの幻惑だと断定している。兎乃も同様にそう思っている。

 だが兎乃の中に逆らい難い感情が湧いてくる。追わなくちゃ。あのウサギが逃げてしまう。


「ユエ、離して」


「馬鹿! お前、今日二回目なんだぞ!」


 兎乃は無理やり抗おうとはしなかった。その代わり、両手で自身の目を抑える月華の手に触れる。


「ううん、やっぱりあれ自体に害意はないよ。分かるんだ。まるで自分のことみたいに。あの子は、私に着いてきて欲しいだけ」


 そう言って、そっと月華の手をどけた。

 月華はまだ兎乃の体を抱いてはいたが、目隠しをどける動作に逆らいはしなかった。


 兎乃の視界に、再び金色のウサギが映る。


 よかった。まだ逃げていない。兎乃は心の底から安堵する。

 それと同時に、今逃がしたら二度と会えなくなる。絶対に見失ってはならない。という強い焦燥感に襲われる。


 兎乃が無意識に一歩足を踏み出す。

 月華が抱えているにも関わらず、その体がわずかに前に進んだ。


「ラビ、やめろ!」


 理性と感情が剝がされていく感覚がある。

 こうなった時、自分の理性がどれだけ脆いかを、兎乃は身をもって体験している。


 やっぱり、見てしまうと幻覚に溺れてしまいそうだ。

 なら、直接見なければどうだろう。あれが私の『視覚』ではなく『意識』に働きかけているなら、『見ず』とも『感じる』はず。

 そう考えた兎乃は今度は自ら目をつむった。


 ウサギの存在を、意識だけで掴むように集中する。

 瞼の閉じた何も見えない世界に、わずかに光る筋が浮かんでくる。

 その筋はある一点で複雑に集まり、小さな球を作っているように見えた。


 いた。あのウサギだ。

 今すぐ月華は振りほどいて走り出したい衝動に襲われるが、手を握りしめて堪える。


「……ユエ、私を連れて行って。ウサギが案内してくれる。耐えるだけなら、もうしばらく自分を留めておけそうだから」


「でもラビ、追いかけたら死んじまうだろ!?」


 こうして問答する間も理性で感情を制御しながら、兎乃は首を横に振った。


「あれと事故は、やっぱり別物だと思う。ユエ、私はあの子を感じられる。でもそれに集中してないと、すぐに自我を失うと思う。だから私が耐えてるうちに、私というレーダーを使ってあの子の連れて行く先に行って欲しいんだ」


「別物だからって事故が起きることに変わりはないだろ!」


「ううん、違うの。ユエなら事故を避けられると思うんだ。だって事故は『この世の法則から外れてない』」


 月華は、その時ようやく、兎乃の意図を完全に理解した。


 兎乃自身が幻覚を追う、レーダーの役割になる。

 だがそのレーダーが動けば、死の制裁が発動する。事故という偶然をもって。

 そして兎乃にそれを避けるすべはない。『兎乃では』事故を避ける力や判断力はない。


 でも、月華は違う。月華なら常人には避けられない事故を回避できるかもしれない。


 だから、月華に兎乃の命を預ける――いや、それも正確じゃない。


 『二人で生き残るために、ユエの命を頂戴』と、兎乃はそう言っているのだ。


 馬鹿げている。月華の理性がそう即座に判断する。

 今この時点で兎乃はAFに取り込まれていると考え、無力化して撤退するべきだ。


 そう思ったその時、瞼を閉じたままの兎乃が、こんな状況なのにどこか嬉しそうな声で言った。


「お願い。こんなこと頼めるの、ユエしかいないんだ」


 期待と信頼と尊敬が混じった感情的な声。

 でもその中に、確かに兎乃の理性もあることを、月華は本能的に理解した。


「……上等だ。いいぜ、向かう先が天国だろうと地獄だろうと最後まで付き合ってやる。あたしはお前のバディだからな。やるぞ、マイスイートラビット」


 だから月華は諦めて、自分もバディを信じようと決めた。


 兎乃が自分にそうしたように。


毎日20:30に更新予定です。

明日は第10話を投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ