最終話 伝説の勇者
――数年の月日が流れました。
「兄上の勇者パーティーが、魔境の古代神殿の封印に成功したらしい」
辺境からもたらされた朗報を、私はエルネスト様から聞きました。
「リオネル様とメルルさんが?! ついに?!」
「ああ、これで邪悪な神々の復活は阻止された」
リオネル王子とメルルさんは、さらに前世の仲間を増やしたらしく、今は四人でパーティーを組んでいます。
最強の勇者と称えられているリオネル王子のパーティーは、いまや勇者パーティーとして諸国に名を轟かせています。
勇者パーティーの調査により、辺境の大河の向こう、瘴気の渦巻く魔境の中心に古代神殿があることが判明しました。
そこには邪悪な古代神が封じられていて、その封印が解けかかっていたことが解りました。
邪悪な神々の封印が壊れかけていたため、瘴気が発生し、かの地は魔境となっていたのです。
またその瘴気こそが生物を狂わせ、魔物を誕生させる原因でした。
勇者パーティーは魔境の謎を解明し、復活しかけていた邪悪な神々に戦いを挑み、それに勝利して永久封印に成功しました。
魔境の瘴気の根源が断たれたことにより、今後は魔境は浄化され、魔物の数も減って行くことでしょう。
何百年も、魔境と魔物の脅威に悩まされていた国々は、この朗報にお祭り騒ぎとなっているようです。
「各国が兄上を招致しているようだが……。兄上はまだ旅を続けるつもりらしい」
「魔物の脅威はなくなったというのに?」
「今度は、異世界に行くって言っているらしいよ……」
現実主義で真面目な性格のエルネスト様は、げっそりとしたお顔でぼやきました。
「兄上の妄言が本当のことになるなんて、信じたくないけど……」
「リオネル様は、その……、異世界とやらに旅立つ前に、我が国に立ち寄ってくださるのですよね?」
「うん。来てくれるらしい」
いまや勇者パーティーを招くことは、権勢を誇示するためのステイタスとなっております。
勇者パーティーを招待して、時の人である勇者リオネルと親睦を深めた王族や貴族たちは鼻高々です。
「兄上は我が国の元王子だから、この度の兄上の帰還は凱旋となる。パレードも華やかなものにしたい。歓迎の晩餐会には必ず骨付き肉を出してやってくれ。兄上は野性的な肉料理が好きなんだ」
晩餐会などの王宮の催しは、王太子妃である私が中心になって采配をしています。
「肉汁ジュウジュウですね」
「そう、それ」
「心得ました」
◆
「お母様、勇者様が来るって本当?!」
「勇者様、来る?」
どこかで噂話を耳にしたのでしょうか。
私の子供たち、セルジュ王子とニコル王女がわくわく顔で私に質問しました。
「来るわよ。このお城は勇者リオネル様のおうちだもの」
「ここが?!」
「本当?!」
「勇者リオネル様はこのお城でお生まれになった王子。リオネル様は、お父様のお兄様なのよ。私もリオネル様とは学院で一緒だったわ。……クラスは違ったけれど」
「学院にいってたの?」
「魔法学院?」
「そうよ。王立魔法学院よ」
好奇心に目を輝かせている子供たちに、私は語り継ぎました。
勇者リオネルの伝説を。
「勇者リオネル様は左目に魔力を封印していて、いつも眼帯をしていたわ。必殺技は地獄劫火剣よ」
これより数年の後。
王立魔法学院に入学したセルジュ王子が眼帯を付けるようになるのは、また別のお話。
――完――




