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婚約破棄から伝説になった王子  作者: 柚屋志宇


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04話 勇者と大魔導士

「な……っ!」

「か、神様……?!」


 魔法士たちも兵士たちも、その奇跡に目を見張りました。

 たった一人の青年が、巨大なベヒーモスを一刀両断するという神話のような光景に。


「まさか、あ、兄上……?!」


 エルネスト様は混乱していらっしゃいます。

 私も、何が何やら、訳が解りません。


 ――ドドドドド……。


「……っ!」


 ベヒーモスは倒れましたが、ベヒーモスの後ろには魔物の大群が続いていました。


 エルネスト様ははっと我に返ったように顔を上げ、魔法士たちに号令しました。


「魔法攻撃用意!」


 ――そのとき。


「天の裁きの雷よ、一切の邪悪を殲滅せよ!」


 可愛らしい声が、無慈悲に詠唱した、その刹那……。


 天が急に暗くなり、暗雲が巨大な渦を巻きました。


 ――バチバチ、バチン!


 不吉な黒い閃光が走り。


黒雷竜巻ブラック・サンダー・トルネード!!」


 魔物の大群を目掛けて、雷が豪雨のように降り注ぎました。


 不気味な雷が一面を舐めつくし。

 そして後から追いすがるように、天の慟哭のごとき轟音。


 ――ドーン!


 その一瞬で。

 魔物の大群は殲滅されました。


 皆が皆、その神話的な光景を茫然と眺めていました。

 私も……。


「さすがメルルだ」


 ベヒーモスを一刀両断した白髪紅目の美貌の青年が、呑気な口調でそう言いながら、ひらりと、要塞の城壁の上にいる私たちの前に降り立ちました。


「間に合って良かったよ」


「……リ、リオネル様……?」

「……兄上……?!」


「マリス、エルネスト、久しぶりだな」


 ベヒーモスを一撃で倒した勇者。

 それは浮気相手のメルルさんと駆け落ちして、行方不明になっていたリオネル王子でした。


「マリス様、お久しぶりです」


 無慈悲な詠唱で魔物の大群を殲滅したピンク髪の美少女もまた、ひらりと城壁の上に降り立ちました。


「ご無事で何よりです」


 そのピンク髪の美少女は、リオネル王子の浮気相手メルルさんでした。


「……」


 伝説級の魔物ベヒーモスの恐怖と、伝説級の大魔法を目撃した奇跡と、九死に一生を得た安堵とで、私は大混乱していました。


 しかも私の目の前には……。

 私を裏切った元婚約者リオネル王子と、私から婚約者を略奪したメルルさん……。


 ――ここは、地獄でしょうか?


「魔王は倒したのだが、統率を失った魔物たちが暴走して大河を渡ったのは予想外だった」


 リオネル王子はしかつめらしい顔で言いました。


「魔物を撃ち漏らしてしまい、迷惑をかけてしまったようだな。すまない」


「本当に、兄上……なのですか?」


 エルネスト王子が、魔女に騙されたかのような顔で問いかけると、リオネル王子は余裕の態度で答えました。


「当たり前だろう。エルネスト、兄の顔を忘れたか?」


「兄上、どうしてそんなに強いんですか? 兄上のくせに……」

「左目に封印していた闇の力を解き放ったのだ」


 今日のリオネル王子は眼帯をしていませんでした。


「左目に封印って……妄想でしょう? あれはあの年齢に特有の心の病だったでしょう?」


 エルネスト王子は盛大に首を傾げ、大きな疑問符を飛ばしました。

 私もエルネスト様と同じく、不可思議な事態に大いに戸惑っております。


 私たちの戸惑いを他所に、あちこちで歓喜の声が上がり始めました。


「勇者が現れた!」

「伝説の勇者の降臨だ……!」

「黒雷の広範囲魔法、あれは伝説の魔導士の……!」

「白髪に紅目、あのお方は……もしや……」

「リオネル王子……?!」


 リオネル王子とメルルさんは、本当に前世の戦友で、魂友(ソウルメイト)だったと言うのですか?


「マリスも無事で良かった」


 リオネル王子は綺麗な笑顔で私にそう言いました。


「リオネル様……」


 懐かしい名前を、私は呼びました。

 かつての婚約者だった人の名を。


「リオネル様、私は……」


 溢れる想いに、私が零したその言葉は。

 リオネル王子とメルルさんを称える大勢の人々の歓声にかき消されました。


「リオネル王子殿下万歳!」

「勇者リオネル様万歳!」

「大魔導士様万歳!」


 リオネル王子とメルルさんは笑顔で手を振り、皆の歓声に答えました。


「エルネスト、マリス」


 リオネル王子は私たちに向き直ると、爽やかな笑顔で言いました。


「私たちはそろそろ行くよ」

「え?!」


 エルネスト様が驚きの表情で声を上げました。


「行くって、何処へ?」

「まだ旅の途中だからな」

「兄上、城に戻らないのですか?!」

「私にはまだ暴走した魔物を掃討する仕事が残っている。それに、大河の向こうの魔境で不穏な現象が起こっている。調査せねばならない」

「せめて一日でも、この要塞に滞在なさいませんか。夕食に、兄上がお好きな野蛮な骨付き肉をたくさん焼いておもてなししますよ」


「骨付き肉は惜しいが……」

「肉汁ジュウジュウの骨付き肉ですよ?」

「くっ……。非常に惜しいが……」


 リオネル王子は苦悩の表情で言いました。


「私には世界を救う使命があるのだ。行かねばならない。すまんな、エルネスト。国を頼んだぞ」


 エルネスト様にそう言うと、リオネル王子は私を振り向きました。


「マリス、エルネストを頼んだぞ。幸せになれよ」


「……リオネル様、私は……」


 私の言葉を待たずに、リオネル王子はにっこりと微笑みました。


「マリス、エルネスト、さらばだ」


 くるりと踵を返したリオネル王子は、メルルさんに言いました。


「メルル、行こう」

「はい、リオネル様」


 私は心の整理がつかないまま、呆然として……。

 元婚約者リオネル王子とその浮気相手メルルさんの背中を見送りました。


「勇者リオネル様万歳!」

「大魔導士様万歳!」


 皆がリオネル王子とメルルさんを称える歓喜の声が、辺境の青空に響き渡っていました。

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