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その15

「ラトス様がどう思ってるのか知らないけど、セイアは攻撃魔法使えないんですよ。どう見てもフェアじゃないでしょう、こんなの。ケンカなら俺にやらせてください」

 噛みつくように訴えるアリアに対し、ラトスは苦い顔で首を振った。


「あのな、一応俺にも考えがあるんだ。俺は、セイアの本質を見極めたい。……もしかすると、これで分かるかもしれない。おまえはおとなしくしてろ、いいな」

「嫌です!基本的に俺はおとなしくなんかできないし」


 この辺りで、セイアはようやく起き上がって、軽くアリアの肩を叩いた。勢いに押されて呆然としていたが、そんな場合でもない。


「ありがと、アリア。でもごめん。ちょっとだけ、下がってて」

 アリアはセイアの顔を睨むように見て、何か言いたそうに口を開いた。だが、セイアが彼女に向けて言葉を投げる方が、一歩早かった。


「アリア、あいつにキスされたの?」


 セイアの視線のまっすぐ先に、カイアがいた。少し離れた所でこちらの様子を伺いながら、暇そうに腕を伸ばしたり肩を回したりしている。アリアは一瞬、息を呑むように口を引き結んだ。その姿をちらりと見て、すぐに目を反らした。セイアもこんなこと、言いたくて言ってるわけではない。


「ごめん、ラトス様に聞いた。もちろん、アリアが被害者だってことはちゃんと分かってる。俺がこんなこと言う筋合いはないってことも。……それでもあいつが許せないって思うのは、単純に俺のわがままだから」

 だから、下がってて。できるだけ感情を抑えた声でそう言うと、アリアは唇を噛み、しぶしぶといった様子で身を引いた。


「お話は済んだか?ったく、ざまあねえなぁ、女に庇ってもらってよ」

「ラトス様、もう一回合図出してもらっていいですか?」


 カイアの挑発は聞こえない振りをして、ラトスに向かって頼んだ。ラトスは三人の様子を見比べながら小さくため息をつき、アリアに「こっちへ来い」と声を掛けた。

「ほんとにヤバそうな時は俺が止めに入るから、おまえはこっちで観戦しとけ」

「……分かりました」

 小さく答え、アリアはラトスの隣に少し離れて並んだ。


「よし、じゃ再開するぞ。もう一回、始め!」


 ラトスの声が響いた。また速攻で来るかと思ったが、カイアは様子を見ているのか、動きを見せない。セイアも油断なく彼の様子を見ながら、どう動くか迷っていた。ワープをしながら同時に捕縛がかけられないかと思ったが、やはりどう考えても難しい。捕縛は、結構近くから、確実に相手を狙って掛けないと失敗することが多いのだ。

(でも、一か八かやってみるか。それしか勝算がないしなぁ)


「―――――おまえさぁ、なんでおれが好みでもない女にキスしたか分かる?」

 タイミングを計っていると、不意にカイアが話しかけてきた。表情の読めない、やけに平らな声だった。


「さあ、分かんないけど」

 努めて冷静に答えた。分からないし、分かりたくもない。

「まぁ、おまえには分かんないだろうな。単に、嫌がらせだよ。俺はさ、人が嫌がることするのが大好きなわけ。人が嫌がったり、悔しがったり、痛がったりする顔を見るのがさ」

 そう言って、彼はまっすぐにセイアの顔を見た。にやりと笑ったその顔がどこか作り物めいて見え、セイアは思わず悪寒を覚えた。


「歪んでるんだよ。歪まされたんだ、どこかの国の悪魔のせいで」


 そこで、カイアは急に視線を転じた。一瞬だけ、愉快そうに笑う横顔が見え、次の瞬間には金色の光に包まれてパッと消えた。セイアは慌てて、カイアが視線を向けた方へ顔を巡らせた。


「アリア!」


 驚いたように固まるアリアの目の前に、ふわっと金の光が広がった。ワープしたカイアの姿がそこにあった。

 攻撃系の魔術に、距離は大事だ。当然近い方が威力が大きく、狙いも定まる。あの近距離でインパクトを出す気なのか―――――自分ではなく、アリア相手に。


 夢中だった。自分でも何をどうやって動いたのか分からない。気が付くと、ワープで跳んで、アリアとカイアの間に入り込むような位置にいた。


(シールド………!)

 バンッ!とすさまじい音がした。何とか手を前に出しはしたものの、シールドが出たのかも分からない。青と金の光が乱れ飛び、あまりの眩しさに目を閉じた。まぶたの裏で、閃光がチカチカする。


 ―――――数秒、経っただろうか。そのままの姿勢で、おそるおそる目を開いた。光は消えていたが、先ほどの強烈な衝撃で両の手のひらが痺れるように痛み、視界もなんだかはっきりしない。辺りは静寂に包まれ、自分の鼓動の音だけが耳元で鳴っているかのようにうるさく聞こえた。


「セイア……」

 背中からぼんやりとした声を掛けられ、ぎこちなく振り向いた。アリアが立っている。ケガもなく、無事だ。その姿を見たとたん、安心して急に力が抜け、その場にへたり込んだ。ここにきて、激しい空間移動のせいか、忘れていた吐き気もよみがえってきた。


「おい、カイア。生きてるか」

 少し離れた位置からラトスの声が聞こえ、慌ててそちらを向いた。カイアが倒れている。

「生きてます……」


 うめき声のような声が聞こえ、とりあえずホッとしたが、こちらもあまり人の心配ができる状況とは言えない。状況がよく分からないままよろよろと立ち上がり、倒れているカイアに近付いて捕縛を掛けた。カイアはまったく身体を動かせる状況ではないらしく、戦意も喪失しているようだった。

 どうしてこうなったのかは不明だが、一応これで勝敗がついた。セイアの勝ちだ。


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