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その14

 そういうわけでかなり怒ってはいたのだが、こうやって実際にカイアと対峙してみると、どうしてこんなことに……と思わずにはいられない。


 先ほどの酒場で空地の場所を聞き、そのまま徒歩で移動することとなった。三人とも魔術師でワープが使えるとはいうものの、誰もちゃんと空地の場所が分からない。そして『一度行ったことがある場所でないとワープは使えない』という鉄の掟がある。

 無言で歩くうちに、だんだん冷静になってきた。そしてここにきて、体内に取り入れたアルコールが強く主張を始め、だんだん気持ちが悪くなってきた。


「顔色よくないな。やめておくか、やっぱり」

 けしかけた責任を感じているのか、ラトスが心配そうに声を掛けてきた。セイアは黙ったまま首を振った。ラトスの思惑はよく分からないが、自分は自分の意志でここに来ている、と思いたい。


 空地に到着すると、当然ながらそこは真っ暗だった。街はずれで、何か大きな建物が建っていた場所を更地にしたらしく、これから新しい何かが建つのかもしれないが、差し当たって今はぽっかりと広い空間が広がっている。今夜は雲が厚く、月もまるで見えない。ラトスが空中に手のひらをかざすと、青い丸い光がふわりふわりといくつか浮かんで、周辺をほの明るく照らした。これで舞台は整ったということだろう。セイアとカイアは、ラトスの指示で少し距離を取って向かい合った。


(俺の意志ではあるけれど、本当に、なんでこんなことになってるんだろうなぁ)


「それじゃ、合図があったら始めるってことで。ルールとしては、単純に相手を捕縛できた方が勝ち。いいな、あくまでも捕縛だからな、あまりやり過ぎるなよ。では、始め!」


 ラトスの声が空地に響いた、と思った次の瞬間には、カイアが大きく腕を振り上げていた。

バン!という大きな音と共に、強い金の光が彼の手のひらから吹き出し、一拍置いて地響きがする。

 ただ、その前にセイアは左腕を体の前に構え、いち早く体制を整えていた。


(来ると思った)

 カイアが出したのは魔術師の間では『インパクト』と呼ばれる衝撃波のようなもので、まともに食らうとあっさり吹っ飛ぶ。攻撃魔法の中ではメジャーなものだが、これはしかし、誰でもできる技ではない。セイアも子どもの頃から何度も試してみたが、自分には無理、という結論に達していた。


 先制攻撃でこれが来る可能性が高いと思い、瞬間的に防御ができるようにしておいた。ちょうど盾を持っているように、腕を体の前に構えて光の膜を作る『シールド』という分かりやすい名前の防御魔法だ。そんなわけで、セイアの目の前に張られた青い膜がカイアのインパクトを完璧に防いでくれた。……ここまでは読み通りだが、しかし。


(重い……こんなの、何回も受けられない)


 あまりしっかりと狙いを定めたようにも見えないのに、一発で正確に当ててきたこともショックだった。それよりも更に驚いたのが、攻撃の重さだ。実際、シールドで防いだにも関わらず、左腕が電流を受けたかのようにしびれていた。受けた瞬間の衝撃も、身体全体に地味にダメージを与えている。


「おいカイア!捕縛が基本だって言ってんだろ、いきなりぶっ放しやがって!」

「知りませんよ!ラトス様だって、そいつが攻撃向きじゃないって分かってて、俺の相手をさせてるんでしょ!」


 ラトスとカイアが怒鳴り合う声を聞きながら、セイアは視界に入る位置で一旦近距離ワープを使って距離を取った。―――――そして、その直後に後悔した。インパクトは、おそらく連続攻撃は使えないので、少しだけ溜める時間が必要なはずだ。だったら、この隙に相手の懐に飛び込むくらい積極的に動くべきだった。そうでないと、いつまでも捕縛なんかできない。


(ダメだなぁ、俺は。慎重にしか動けない)

 カイアのことは気に入らないが、言っていることはもっともだ。攻撃型の魔術師なら、攻撃が不向きの相手に対してどんどん攻めていきたいところだろう。セイアは性格が災いして、どうしてもこういう場面で後手後手に回ってしまう。


 次の攻撃を受け流して一気に距離を詰めよう、と考えているうちに、カイアに背後を取られそうになり、慌てて跳び退った。急いで捕縛が掛けられない位置まで距離を取る。俊敏さのレベルはおそらく同程度、そう考えると、やはりインパクトが使えないセイアの方が不利だ。


「逃げてばっかりいないで、仕掛けて来いよ。『北国の悪魔』は腰抜けか?」

 カイアが大声で煽りながら、右腕を構えるのが視界に入った。インパクトの体勢だ。

(今だ。ここでワープを使って、背後に回る!)


 タイミング的には、完璧だと思った。だがワープした次の瞬間、失敗に気付いた。

 ―――――カイアは、インパクトを出していなかった。

(しまった、読まれた。フェイントか)


 振り向きざまカイアの口元に笑みが閃くのが見え、彼の腕が再び大きく腕を振り上げられた。今度こそインパクトが来る。後ずさろうとしてバランスを崩し、後ろに思い切りしりもちをついてしまった。避けられない……と、思った次の瞬間、エメラルドグリ―ンの光の膜が視界を覆った。


「えっ?」

 思わず、声が出た。一瞬、強烈な緑色の光で何も見えなくなったが、光が消えて視界が開けると、目の前にセイアを庇うように立つ人影があった。


「何やってんだよ、おまえら!」

 夜の空地に、アリアの怒鳴り声が響き渡った。セイアは呆気に取られて、自分の前に立ってシールドを張っている少女をぽかんと眺めた。何が起こっているのか、よく分からない。


「おい、ちょっと待て。やめやめ、一旦タイム!」

 ラトスが慌てて大声を上げながら近づいてきた。その声を聞いてアリアはシールドを解除した。だが、何やら非常に怒っている。


「どういうことですか、これは。なんでラトス様が付いているのにこんなことになってるんですか!」

「いや、どっちかっていうと俺はけしかけた側だから」

「はあ⁉意味わかんないんですけど。バカなんですか⁉」

「おまえ、なんで俺たちがここにいるって分かったんだ?」

 暴言を聞き流し、ラトスは真面目な顔で非常にもっともな質問をアリアに投げた。


「……ラトス様たちが飲んでた酒場のマスターが、『アルテミス』に電話くれたんですよ。よそ者三人がケンカするって空地に向かったけど、知り合いじゃないのかって。店で俺の名前、出してたんじゃないですか?」


 そこまで聞いて、ようやく腑に落ちた。確かに、アリアは地元の有名人だ。不用意にアリアの名前を出して言い争っていたのが、マスターの耳にも入ったのか。そして、電話でそれを聞かされたアリアが、ここへ辿り着き、ワープと同時にシールドを張って……?


(できるのか、そんなこと)

 でも、実際に目の当たりにした。改めて、目の前の少女を見つめた。そんな無茶なこと、セイアにはとてもできない。もちろん、セイアよりはこういう場面に慣れてはいるのだろう。だが、気が強くて無鉄砲なだけではない一面も知っている。


(俺を心配して、来てくれたのか……)

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